美しきデビューから15年――クロスオーヴァーな精神でダンスフロアへの誠実さと音楽への愛を貫いてきた男が、渾身のアルバム『ONE WORLD』に込めた想いとは?

やりたいことに行き着いた

 本インタヴューの2日前、緊急事態宣言下で開催が危ぶまれながらも人数制限と細心の対策を講じながら行われた『ONE WORLD』のリリース・パーティーが盛況のうちに幕を下ろした。こんな時期だからこそDJ KAWASAKIの音楽に触れたい。オーディエンスの高まる期待感の一つの現れだったのだろう。

 デビュー作『BEAUTIFUL』がリリースされたのは15年前の2006年。同じ年に初作をリリースしたDAISHI DANCEをはじめ、STUDIO APARTMENT、FreeTEMPOら多くのクリエイターと共に、ハウスの一大ブームを牽引したDJ KAWASAKI。以降もDJ活動を続ける傍ら、2018年には7インチをメインとした自身のレーベル=KAWASAKI RECORDSをローンチ、近年は新人シンガーであるNAYUTAHのプロデュースに携わるなど、精力的な活動を続けてきたが、オリジナル・アルバムとしては2010年の『PARADISE』以来、実に11年ぶりとなる。なぜこのタイミングでのリリースになったのだろうか。

 「自分のレーベルを立ち上げて、そこからコンスタントにリリースを重ねて、オリジナル曲が溜まってきたというのがアルバムを出す理由のひとつではあるのですが、それに加えて、このコロナ禍において自身が作った音楽をみんなに届ける使命感みたいなものを勝手に感じたのかもしれません」。

DJ KAWASAKI 『ONE WORLD』 EXTRA FREEDOM/Village Again(2021)

 そうして生まれた楽曲群は完全生演奏。黒々としたファンクやソウル、ディスコを下敷きにし、往時のようなハウスのフォーマットではないものの、そこから聴こえてくる力強いメロディーはまぎれもなくDJ KAWASAKIのそれだ。

 「もともと渋谷のTHE ROOMで働いていたので、昔から自分のDJプレイのときには打ち込みのハウス以外に生音もかけていたんですよね。それと、ここ10年くらいの間にセオ・パリッシュやムーディーマン、サダ・バハーといったDJが生音と打ち込みを混ぜてダイナミックに展開していくスタイルに触れて、開眼したというのもあります」。

 沖野修也がオーナーを務める渋谷の老舗クラブ・THE ROOMのクロスオーヴァーな感覚を下地に、RYUHEI THE MAN、黒田大介、MURO、DJ KOCO、DJ JINらと交流を深めるなかで彼自身も徐々に本来やりたかったスタイルへ辿り着いたという。

 「ハウス・ムーヴメントの盛り上がりが落ち着いてきて、改めて自分のやりたいことを追求したときにTHE ROOMで学んだクロスオーヴァーなスタイルに行き着いたんです。それとやっぱりレコードが好きで、レコードでかけてくれるDJたち、あるいはレコードを買ってくれるようなリスナーに届けたいって思うようになったら、音楽がまた自然と楽しめるようになったんですよね」。

 アルバムの制作はライヴやDJ活動の先行きが見えない状況下で行われたわけだが、意外にも制作を進めるにあたっては必ずしも悪い面ばかりではなかったようだ。

 「ドラムスとストリングス以外はオンラインでやり取りしながらレコーディングを進めていったんですが、不便だったのは目の前で細かいディレクションができないことぐらいで、アーティストもミュージシャンも十分に時間があったので、作業自体は思いのほか順調に進みましたね」。