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この感覚がそのままビッグ・シーフというバンドそのものの魅力にもつながる。彼らの音には、新しさと旧さ、熱さと冷ややかさ、動と静、正と邪、夢と挫折感、未来と過去など、相反する価値観が分かちがたく共存。ときに反発し合い、ときに絡み合いながら、独特のムードを醸し出している。繰り返しになるけれど、本当に一筋縄にはいかない連中だ。

『U.F.O.F.』収録曲“Century”

明らかに旧世代に属するぼくのような年寄りリスナーにしてみると、とにかく既視感の巧みな散りばめ方につい感心させられる。“Orange”の冒頭では、ドノヴァンの名曲“Colours”(65年作『Fairytale』に収録)を想起させる歌詞のフォーマットを流用してみたり、19世紀のフォーク・バラッドを思わす人名とかを随所に織り込んでみたり。また、ナッシュヴィル・チューニングなどを効果的に採り入れたリフ作りを聴かせてみたり、トラッドやカントリーによくある変拍子を効果的に入れ込んでみたり……。どこまで意図的なのか判然とはしないが、いずれにしてもそのあたりの要素を、ほのかにエクスペリメンタルなアプローチの下、さりげなく、繊細に再構築するやり口には舌を巻くしかない。

4ADに移籍したということでそうイメージしてしまうだけかもしれないが、どことなくコクトー・ツインズ的なドリーム・ポップの感触も漂っているような……。が、それがまた初期ヴェルヴェット・アンダーグラウンドあたりを経由してフェアポート・コンヴェンションやペンタングルを筆頭とする往年のブリティッシュ・フォーク・ロック勢の憂いに満ちた空気感へと連なっているように聴こえるところもおもしろい。21世紀のバンドならではの奔放さだなとあらためて思い知る。

『U.F.O.F.』収録曲“Cattails”

タイトルの『U.F.O.F』は〈UFO〉の〈Friend〉という意味合いだとか。アルバム全編にわたって、自分の内に存在するもの、外に存在するもの、さまざまな形での未知なる対象との遭遇をめぐる興味なり希望なり畏れなり諦めなりが描かれる。アルバム・タイトル・チューンでの〈すぐに証される/異星人などいない/あるのは真実と嘘のシステム/理由、言語、重力の法則〉という歌詞とか、もうややこしすぎてよくわからないけど、わからないなりになんだか沁みる。

ライヴ、観たいです。一刻も早く、いますぐ、観たい。

2018年のライヴ映像。2017年作『Capacity』収録曲“Shark Smile”を演奏