田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。カニエ・ウェストの新作『Donda』は結局8月15日にはリリースされませんでした」

天野龍太郎「もはや現代のサグラダ・ファミリア? iTunes Storeではリリース日が8月22日(日)になっているとか。なんだか、どうでもよくなってきちゃいました……」

田中「先週はこれといって大きなトピックはないのですが、アメリカではライブやフェスティヴァルの開催とワクチン接種、そして検査を巡る議論が活発になされていますね。ライブ・ネイションはライブの出演者とそのクルーにワクチン接種か検査での陰性の証明を義務づけました

天野「当然の流れですね。日本でもそうしたほうがいいと思います。あと、ぜんぜん別の話ですが、クロマティックス(Chromatics)の解散(?)が地味にショック……。レーベル、イタリアンズ・ドゥ・イット・ベターと共にエレクトロ・ポップの一時代を築いたバンドでした。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」

 

Big Thief “Little Things”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はビッグ・シーフの新曲“Little Things”です。これは文句なしのチョイスでしょう!」

田中「現在のUSインディー・ロック/フォークを代表するバンドと言っていいビッグ・シーフは、2019年に『U.F.O.F.』『Two Hands』という2作のパワフルなアルバムを発表しました。その後、2020年4月に“Love In Mine”というアウトテイクの曲を発表していたとはいえ、今回の“Little Things”と“Sparrow”は約2年ぶりの新曲ですね」

天野「ただ、フロントウーマンのエイドリアン・レンカー(Adrianne Lenker)が『songs』『instrumentals』とアルバムを2作も発表したり、ドラマーのジェイムズ・クリヴチェニア(James Krivchenia)が『A New Found Relaxation』を、ギタリストのバック・ミークが(Buck Meek)が『Two Saviors』をリリースしたりと、その間もソロ活動は活発でしたね」

田中「そんな充実した活動を経てビッグ・シーフが発表した今回の新曲についてですが、まず“Sparrow”は3拍子系の穏やかかつ気迫に満ちたフォーク・ロック・ソングです。で、もう一方の“Little Things”はギターの音色がキラキラとしたロック・ナンバー。〈ネオアコ〉と形容したいようなサウンドが、かなり意外ですね」

天野「プロデューサーはクリヴチェニア。2020年10月、カリフォルニア州トパンガのファイヴ・スター・スタジオでショーン・エヴェレット(Shawn Everett)と録音したとのことです。エヴェレットは、アラバマ・シェイクスやケイシー・マスグレイヴスとの仕事で知られる名エンジニアですね。各楽器の音が混ざり合っていないような不思議な音像で、レコーディングにもミキシングにもかなりこだわったことが感じられます。これは新しいサイケデリッック・サウンドですね。ビッグ・シーフの新作がとても楽しみになりました」

 

Lizzo feat. Cardi B “Rumors”

天野「リゾがカーディ・Bをフィーチャーした“Rumors”。現在のポップ/ヒップホップ・シーンを代表するスター2人の共演曲で、先週最大の話題曲でしたね!」

田中「2019年のポップ・シーンを“Truth Hurts”で席巻したリゾは、その後2年以上新曲を発表していませんでした。なので、“Rumors”は待望の新曲ですね。期待を裏切らない、力強いポップ・ナンバーと言っていいでしょう」

天野「バウンシーなR&Bポップですよね。リッキー・リード(Ricky Reed)のソウルフルなプロダクションにはちょっと80sっぽいところがあって、太いベースのサウンドなどはまさにそういう感じ。カーディのラップは平常運転というか、珍しく存在感が希薄で、この曲は完全に〈リゾの曲でちょっとラップしている〉という感じです(笑)。〈あなたが耳にした噂はすべて真実/彼のこともあなたのこともファックした〉〈あなたが信じるならね〉と歌うリゾのファースト・ヴァースが衝撃的で、〈ノー、まだドレイクとはファックしてない〉というところで笑ってしまいました。全体的にフェミニズム的で、〈あなたは女を弱らせるためにすべての時間を使っている〉というなラインも最高に力強い! 今年は新作を届けてくれるのでしょうか?」

 

Indigo De Souza “Real Pain”

天野「3曲目は、インディゴ・ド・スーザの新曲“Real Pain”。インディゴ・ド・スーザのことは、最近気になっているんですよね」

田中「インディゴ・ド・スーザはノースカロライナ、アシュヴィル出身のシンガー・ソングライターで、彼女のバンドの名前でもあります。バンド・メンバーはド・スーザの他に、ベーシストのオーウェン・ストーン(Owen Stone)、ギタリストのイーサン・ベックトールド(Ethan Baechtold)、ドラマーのジェイク・レンダーマン(Jake Lenderman)の4人。2018年にファースト・アルバム『I Love My Mom』をセルフ・リリースして、今年6月に名門インディー・レーベルのサドル・クリーク(Saddle Creek)がリイシューしています。今回の“Real Pain”は、8月27日(金)にリリースされるセカンド・アルバム『Any Shape You Take』からのサード・シングルです」

天野セカンド・シングル“Hold U”Pitchforkの〈Best New Track〉に選ばれていたことが話題になっていましたね。実際、すごくいい曲です。この“Real Pain”はオルタナティヴなギター・サウンドとド・スーザのヴォーカルが印象的で、ノイズ・ギターの壁とさまざまなヴォイス・サンプルが混沌とした様相を呈する中盤以降が圧巻。最後はガラッと変わって、初期のティーンエイジ・ファンクラブみたいなギター・ポップに展開していくという、3パートに別れたドラマティックな曲です。アイデアがこれでもかと詰まっていますね」

田中「実験性も魅力ですが、ギター・ポップ的な親しみやすさも兼ね備えているのがすごくいいですね。ジェイ・ソムやサッカー・マミーのリスナーにぜひ聴いてほしいところ。インディゴ・ド・スーザは、USインディーの新たな注目株として要チェックでしょう」

天野「ド・スーザはベックトールドと2人でイッキー・ブリケッツ(Icky Bricketts)というインディー・ソウル/ネオ・ソウル系のバンドもやっていて、本当におもしろいアーティストですね。底知れない才能を感じます」