天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。トゥールの新曲などを取り上げた8月2~9日分に続き、今週2回目の今回は8月10~16日分です」
田中亮太「先週の話題といえば〈サマソニ〉ですよね。台風10号の上陸と重なったこともあり、特に初日16日の大阪公演は一部のバンドが出演できなくなるなど大変そうでしたが、大盛況のなか3日間を終えたようで……。ええ、恥ずかしながら僕は行ってないんです。天野くんは行かれたんでしたっけ?」
天野「僕は夏風邪で死んでいました。ブロックハンプトン、オクタヴィアン、マヘリア、ネナ・チェリー、フルームが出た18日の東京公演は行きたかったな~。あっ、オクタヴィアンはキャンセルになったんでしたっけ」
田中「体調不良と言いつつ、Instagramでは元気そうでしたけどね(笑)。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」
1. Taylor Swift “Lover”
Song Of The Week
天野「今週第1位、〈SOTW〉はテイラー・スウィフトの“Lover”。本日8月23日にリリースされたニュー・アルバムの表題曲です」
田中「“The Archer”に続く新作発表前最後のシングルですね」
天野「そうなんですよ! しかも、これがまた驚きの一曲で。まるで『Red』(2012年)の頃やそれ以前のスタイルに戻ったかのようなカントリー・ポップ、フォーク・ロック調です。大ヒット作『1989』(2014年)やエレクトロニックな路線で行くのかと思ったら、まさかのアコースティックでオーセンティックなアレンジですから。しかもロッカ・バラード調の8分の12拍子。切ない、胸を打つメロディーもあいまって、泣けてしょうがないです。ブリッジの歌詞がいいんですよ。〈みなさん、ご起立いただけますか?/私の手に刻まれたギター弦の傷跡とともに/人を惹きつけてやまないこの人を私の恋人にします〉。〈ギター弦の傷跡〉っていうのがテイラーらしくていいじゃないですか。それに、ちょっと結婚をにおわせるリリックなんですよね」
田中「歌詞は、現在のテイラーのパートナーであるイギリス人俳優、ジョー・アルウィンについてのものだとか。新作『Lover』は感動的な作品になっていそうですね」
2. Bif Thief “Not”
天野「第2位は米NYブルックリンのフォーク・ロック・バンド、ビッグ・シーフの“Not”。〈えっ、もう新曲だすの!?〉って驚きました」
田中「高い評価を得た4ADとの契約作『U.F.O.F.』がリリースされたのが5月ですから、まだ3か月しか経っていません。10月11日(金)に新作『Two Hands』を発表するとのことですから、ものすごい創作意欲ですよね」
天野「新作は砂漠の中にあるスタジオで、ほぼオーバー・ダビングなしの一発録りで制作されたとか。バンドの勢いやテンションの高さがめちゃくちゃ感じられますし、それはこの曲もしかり。歪んだ、荒々しいギター・ソロに、力強いビート、エイドリアン・レンカーの生々しいヴォーカル……。まるでニール・ヤング&クレイジー・ホースみたいだと僕は思いました」
田中「曲名どおり〈not〉を連ねていく歌詞もパワフルですよね。否定の力で押し切っていく感じというか。繊細な『U.F.O.F.』とは対照的なアルバムになっていそうな『Two Hands』を聴けるのが楽しみでなりません」
3. Normani “Motivation”
田中「3位はノーマニことノーマニ・コーディの“Motivation”。彼女は現在活動休止しているフィフス・ハーモニーのメンバーとして知られています。カリードやカルヴィン・ハリス、サム・スミスとのコラボでヒットを飛ばしてきましたが、単独名義のこの曲で本格的にソロ・デビューした感じがありますね」
天野「ええ。そして、これはファースト・インパクトとして申し分ない一曲でしょう! 〈ビーチェラ〉を意識したんでしょうか。ニューオーリンズ・ブラスっぽさもあるホーンにファットなビートを重ねたプロダクションが最高。流麗なメロディーもすばらしいです」
田中「ソングライターにはなんとアリアナ・グランデもクレジットされています! アリとの仕事でもヒット曲を送り出してきたマックス・マーティンやサヴァン・コテチャも作曲とプロデュースで貢献しているみたい。〈ベッドに倒れ込むこと意外に何かすることある?〉という歌詞からはセクシュアルなニュアンスも醸されていますが、オープンでポジティヴなヴァイブスが貫かれていて気持ちいい。現代的なフィメール・ポップですよね」
天野「ビヨンセやブリトニーといった彼女のヒーローたちのミュージック・ビデオにオマージュを捧げた映像にもグッときちゃいました。バスケットボールを使ったダンスを真似してSNSに投稿する〈#MotivationChallenge〉はヴァイラル・ヒットしています!」
4. Jeezy feat. Meek Mill “MLK BLVD”
天野「4位はヤング・ジージーことジージーとミーク・ミルの“MLK BLVD”! ドリルにも近い激しいビートで、強烈なパンチのある曲ですね。プロデュースは808・マフィアのレックス・ルガーです」
田中「本日8月23日にリリースされるジージーのアルバム『TM104: The Legend Of The Snowman』からのシングルです。ジージーは2000年代前半から活躍するアトランタのヴェテラン・ラッパーで、トラップの功労者的存在。客演のミーク・ミルは、この連載でも何度か紹介しているフィラデルフィアのラッパー。復帰作『Championships』(2018年)が話題となりました」
天野「ジージーは引退宣言をしていて、今回が最後の作品なんだとか。まあ、ラッパーあるあるですぐに戻ってくるんでしょうけど……。この曲が話題なのは、反トランプを叫んだリリックです。〈このニガーはカニエみたいな口を利く/ファック・トランプ/もう一度言うぞ、ファック・トランプ〉。トランプ支持者のカニエ・ウェストもまとめて攻撃しています」
田中「なるほど~。リリックにはキング牧師、マルコム・X、ローザ・パークスなんかの名前も出てきていて、直接的にポリティカルなラップ・ソングだっていうことですね。ミークの巧みなラップも印象的です」
5. Miley Cyrus “Slide Away”
田中「最後はマイリー・サイラスの“Slide Away”。もともとディズニー・チャンネルのアイドルとして幼少期から脚光を浴びた彼女は、10代半ばで歌手デビュー。父親も歌手で、ゴッドマザーはカントリーの大御所、ドリー・パートンという血統書付きの歌姫です」
天野「最近は〈MTVビデオ・ミュージック・アワード2013〉でのはっちゃけた振る舞いを筆頭に、お騒がせな人って印象もありますね。今年の5月に発表したEP『SHE IS COMING』収録曲“Mother’s Daughter”のビデオで着ていた、股間に牙のついた衣装も物議を醸して。僕はこの人の過激な性表現、おもしろいからいいじゃんって思うんですけど(笑)。先週は、1年前に結婚したばかりのリアム・ヘムズワーズとの離婚が話題になりました」
田中「この“Slide Away”は彼との別れを歌った楽曲と言われていますね。〈遠くへ行こう/海へ戻って、私は街に戻る〉というリリックも〈海へ戻る〉=ヘムズワースが故郷のオーストラリアへ帰ることだと解釈されています。移ろいゆく心を映し出しているかのような浮遊感のあるプロダクションが素敵。ウィリアム・オービットが手掛けていた頃のマドンナを思わせるというか。これは僕、名曲だと思います!」
天野「Vultureはブラーやヴァーブといった90年代のUKバンドを引き合いに出してますね。なので、亮太さんがお気に入りなのもなんとなくわかります(笑)。ちなみに、サイラスにはすでに新たな恋人がいるんだとか。リアリティー番組のスター、ケイトリン・カーターとLAのクラブで熱烈なキスを交わしていたと報道されています。やっぱりお騒がせ……」