COLUMN

USフォークの寵児、ビッグ・シーフに萩原健太が驚嘆。『U.F.O.F.』の〈新しさ〉に迫る

Photo by Michael Buisha
 

NYはブルックリンを拠点とするインディー・フォーク・バンド、ビッグ・シーフが新作『U.F.O.F』を発表した。フロントウーマンのエイドリアン・レンカーによるソロ作『Abysskiss』(2018年)も高く評価されるなかでのリリースであり、4ADからの初音源となった同作。穏やかで美しい〈歌もの〉でありつつ、音作りにはさまざまな趣向が施され、聴くたびに新たな発見のあるプログレッシヴな作品でもある。今回は、ポップスを中心にアメリカ音楽への造詣が深いことで知られる評論家、萩原健太が『U.F.O.F』を解説。その〈新しさ〉の秘密に迫った。 *Mikiki編集部

 


エイドリアン・レンカーとバック・ミークという2人のシンガー・ソングライターを核に活動する米ブルックリンの4人組、ビッグ・シーフの3作目。これまで在籍していたサドル・クリークを離れ4ADに移籍して放った移籍第一弾アルバムだ。過去2作に比べると、パッと聞いた限り音像的にはだいぶオルタナ色を抑えた仕上がりで。最初のうちは、端正なフォーク・ロック・サウンドが朝の散歩とかにぴったりだなとか、きわめてお気楽に、ぼんやりと味わっていたのだけれど。

BIG THIEF U.F.O.F. 4AD(2019)

 が、さすがはビッグ・シーフ。一筋縄にはいかない。繰り返し接しているうちにずいぶんと印象が変わってきた。不思議なアルバムだった。何度か聴き返すなか、いつの間にやら妖しい毒気というか、ほのかにドラッギーな手触りが体内に忍び込んできて、それに浸食され、とりこになって……。やばいアルバムだな、これ。印象が一変した。朝の散歩とか言っている場合じゃない。これまで以上にやばくて、最高の1枚だった。

『U.F.O.F.』収録曲“UFOF”
 

この人たちの場合、ビッグ・シーフの曲を書いているのはエイドリアンひとり。なので、フロントウーマンである彼女と、それをサポートするバック・バンドみたいなイメージがどうしても強くなりがちなのだが。今回のアルバムでは過去2作以上に4人がより緊密にタッグを組みながら、彼らなりのバンド・サウンドの確立めがけて邁進しているように聴こえる。

レコーディングはワシントン州シアトル近郊の木造りのスタジオ、ベア・クリーク・スタジオで。プロデューサーのアンドリュー・サーロとエンジニアのドム・モンクスは過去2作から引き続きの参加だから、この変化はやはりメンバーたち自身の志向するところだったのだろう。レコーディングも各々の楽器を別々に重ねるのではなく、ベーシック・トラックは基本的に一発録り。おかげで、演奏の太さと強さが格段に増した。痛快だ。マネの〈草上の昼食〉よろしく、森の中にメンバー4人が勢揃いしたアルバム・ジャケットにもバンドらしさが真っ向から漂っている。

昨年、エイドリアンはソロ・アルバム『Abysskiss』をリリース。それがバンドというものの存在をあらためて意識するうえで大きかったのかもしれない。『Abysskiss』からは今回“From”と“Terminal Paradise”の2曲が再演されており、それらを比べてみるとビッグ・シーフのめざすバンド・サウンドが明瞭に聴き取れる気がする。簡素な弾き語りを基調にしたソロ作でのパフォーマンスと違い、こちらではバンドがイマジネイティヴな演奏やコーラスによって新たな世界観を付加。エイドリアンがふと声を詰まらせたり、荒々しくひっくり返したりする瞬間もあえてそのまま切り取ることでむしろ儚さを強く演出してみせる。しびれる。

ちなみに、“From”という曲でエイドリアンは、〈No One Can Be My Man〉という詞を歌う。が、ソロ・アルバムで聴いたときにも思ったのだが、歌詞の後半、〈Be My Man〉の部分ばかりが歌のなかでえんえん繰り返されるため、本来の意味は〈誰も私の男になれない〉なのに、聴いていると逆に〈私の男になって〉というイメージが妙に鮮明に脳裏に残ってしまうという不可思議なアンビヴァレンス。

この感覚がそのままビッグ・シーフというバンドそのものの魅力にもつながる。彼らの音には、新しさと旧さ、熱さと冷ややかさ、動と静、正と邪、夢と挫折感、未来と過去など、相反する価値観が分かちがたく共存。ときに反発し合い、ときに絡み合いながら、独特のムードを醸し出している。繰り返しになるけれど、本当に一筋縄にはいかない連中だ。

『U.F.O.F.』収録曲“Century”
 

明らかに旧世代に属するぼくのような年寄りリスナーにしてみると、とにかく既視感の巧みな散りばめ方につい感心させられる。“Orange”の冒頭では、ドノヴァンの名曲“Colours”(65年作『Fairytale』に収録)を想起させる歌詞のフォーマットを流用してみたり、19世紀のフォーク・バラッドを思わす人名とかを随所に織り込んでみたり。また、ナッシュヴィル・チューニングなどを効果的に採り入れたリフ作りを聴かせてみたり、トラッドやカントリーによくある変拍子を効果的に入れ込んでみたり……。どこまで意図的なのか判然とはしないが、いずれにしてもそのあたりの要素を、ほのかにエクスペリメンタルなアプローチの下、さりげなく、繊細に再構築するやり口には舌を巻くしかない。

4ADに移籍したということでそうイメージしてしまうだけかもしれないが、どことなくコクトー・ツインズ的なドリーム・ポップの感触も漂っているような……。が、それがまた初期ヴェルヴェット・アンダーグラウンドあたりを経由してフェアポート・コンヴェンションやペンタングルを筆頭とする往年のブリティッシュ・フォーク・ロック勢の憂いに満ちた空気感へと連なっているように聴こえるところもおもしろい。21世紀のバンドならではの奔放さだなとあらためて思い知る。

『U.F.O.F.』収録曲“Cattails”
 

タイトルの『U.F.O.F』は〈UFO〉の〈Friend〉という意味合いだとか。アルバム全編にわたって、自分の内に存在するもの、外に存在するもの、さまざまな形での未知なる対象との遭遇をめぐる興味なり希望なり畏れなり諦めなりが描かれる。アルバム・タイトル・チューンでの〈すぐに証される/異星人などいない/あるのは真実と嘘のシステム/理由、言語、重力の法則〉という歌詞とか、もうややこしすぎてよくわからないけど、わからないなりになんだか沁みる。

ライヴ、観たいです。一刻も早く、いますぐ、観たい。

2018年のライヴ映像。2017年作『Capacity』収録曲“Shark Smile”を演奏

 

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