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ライヴではオーディエンスと体操

――それ以外に、リー・ペリーについてのエピソードってありますか?

高橋「かなり前なんですが、ライヴを観に行きました。そのときの印象は、レゲエの上でずっとぼやいている人というか(笑)。〈いまからやるのは俺が作った曲のなかでも、みんなが知ってるものだ〉って言ってボブ・マーリーの “Punky Reggae Party”(77年)を始めて、演奏中も〈これは俺が作ったんだ〉って言っていたり。あと、アンコールで体操をさせられて(笑)」

ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの77年の楽曲“Punky Reggae Party”。リー・ペリーがプロデュースしており、ボブ・マーリーの代表曲として知られている

――どういうことですか(笑)?

高橋「リー・ペリーが観客の手を挙げさせて、ずっとこういう(頭上で図形を描くような)腕を動かす運動を始めて。それでヌルっと終わったんですよね」

――ええっ……。音は鳴っているんですか?

高橋「いや、音は鳴っていなくて。想像以上にヤバい人なんだなって知りましたね(笑)。クロちゃんも行ったよね?」

クロ「行きましたね。2009年だったと思います。頭から煙が出る帽子を被っていて。宇宙と交信してる……的な?」

※2009年6月7日に東京・恵比寿LIQUIDROOMで開催された来日公演。エイドリアン・シャーウッドも帯同した

リー・スクラッチ・ペリー&サブアトミック・サウンド・システムの2019年のライヴ映像。彼らは2017年にアルバム『Super Ape Returns To Conquer』を発表している

 

リー・ペリーのシンガー/ヴォーカリストとしての魅力は?

――今回のアルバム『Rainford』は、シンガー/ヴォーカリストとしてのリー・ペリーをフィーチャーした作品だと思います。彼のそういった側面についてはどう思われますか?

クロ「ライヴを観たときから、シンガーというか、フロントマンとしてはものすごい存在感があると思っています。レコーディングもライヴも結構即興でやっているんじゃないかなって」

――確かにそれは感じます。

クロ「昔DRY&HEAVYのベーシストの秋本(“HEAVY”武士)さんとアフィさんたちとでスタジオに入ったことがあって。リディムものをやっているとき、私はヴォーカルで知っているメロディーを歌ったり、フェイクをしたりしていたんです。途中で秋本さんから〈思い付いた言葉をなんでも言っていいよ〉って言われたんですけど、私、普段から歌詞をすっごく推敲するから、それができなくて。

レゲエのワードの置き方ってラップや即興の歌唱とはまた違って、もう少しインスピレーションそのままなんですよ。リー・ペリーはそれを自然にやっていて、あのとき秋本さんが言っていたのはこういうことだったのかなとアルバムを聴いて思いました」

高橋「歌い方でいうと、このアルバムはリー・ペリーの歌と演奏の関係自体が独特なんですよね。フロントマンだけれどいちばん自由というか、曲や演奏から野放しにされているというか、良い意味で演奏と呼応していないおもしろさがあると思います。一方、演奏も歌と関係なくどんどん盛り上がって展開していますし。この噛み合わなさが絶妙で、ヴォーカルを聴くのでも演奏を聴くのでもエフェクトを聴くのでもない、リー・ペリーらしいカオスさがかっこよかったです。

思い返すと、ライヴでもリー・ペリーのヴォーカルだけが残ったり、逆に歌が早めに終わっちゃったり、ということもありました。〈ここはメロを歌う〉〈ここはギター・ソロだから歌わない〉みたいな考え方じゃないんだろうなって。バックの演奏はあってもいいし、〈ないなら俺が一人残る〉みたいな。

エイドリアン・シャーウッドはたぶんそこを意識していて、リー・ペリーを好きに遊ばせるような作り方をしたのかなと」

クロ「確かに」

『Rainford』トレイラー

高橋「その作り方が、大量に出ている他のリー・ペリーのアルバムと違う良さだと思います。シンガーとしてのリー・ペリーの良さって、中心にいるような存在感はあるけれど、ずっと責任感がない感じの特殊さかなあって。

そこに負けないようにエイドリアン・シャーウッドも大暴れしていて、例えば5曲目の“Makumba Rock”は至る所でクイーカの音が入っていて」

※サンバなどのブラジル音楽で使われる打楽器

クロ「あの曲はブラジルでの録音なんですよね」

高橋「リズム隊にはめちゃくちゃエフェクトがかかっているし、クイーカは暴れていて、情報量としてはもうミチミチなんですけど、そこにリー・ペリーが遠慮せず、空気も読むことなく〈いや、俺はフロントだから〉という感じでずっとしゃべり続けているところが、絶妙なバランスでうまくいっていますよね」

クロ「少し異質な音が飛び込んでくるほうが、リー・ペリーも調子が良さそう。曲と会話しているというか、セッションしている感じで、リー・ペリーが音に刺激されてどんどん高まっていく感じ。直球で歌モノの“Let It Rain”も良いけど、個人的には“Makumba Rock”みたいな連鎖的に爆発が起きているときが、リー・ペリーのシンガーとしての本懐な気がして」

『Rainford』収録曲“Makumba Rock”

――これはこじつけですけど、リー・ペリーのスタイルは、いまのトラップやエモ・ラップにも近いんじゃないかと思って。

クロ「それ、私も思いました!」

――いまのラッパーは、ビートを聴きながら即興でラップしたものをそのまま録音したり、それを基に詞を考えたりするといいます。言葉遊びや韻の感じから、リー・ペリーもそれに近いのではと。そもそもラップにはレゲエのトースティングからの影響があるとも言われています。

高橋「確かに、リー・ペリーの歌ってマンブル(不明瞭な発声)ですからね。言われてみれば、フューチャーみたいな声(笑)」

――元からエフェクトがかかっているような声質で。

クロ「トラップって、リリックの内容とラッパーのキャラクターの関係がすごく大事じゃないですか。そういう意味で、リー・ペリーは無敵感がありますね」

――これも無理矢理ですけど、2018年にトラヴィス・スコットとエイサップ・ロッキーがそれぞれ『Astroworld』と『Testing』というサイケデリックなアルバムを出したので、その流れでも聴けるかもしれない。

高橋「バックが攻めれば攻めるほど輝く、サイケデリックなヴォーカルですよね」