ラテンやファンクなど世界各国のリズムを探求してきたトラックメイカー、クァンティックが、本名義では5年ぶりの新作『Atlantic Oscillations』をリリースした。このアルバムで彼が向かったのは、ナイトライフ仕様なミラーボールの似合うダンス・ミュージック。なかでもオーケストラ・アンサンブルをフィーチャーした華やかな音作りは、ディスコやガラージ・ハウスといった〈NY的〉と形容されることの多いサウンドを彷彿とさせる。『Atlantic Oscillations』に練り込まれた、NYならではの音楽性について、ライターの小野田雄が考察した。 *Mikiki編集部
QUANTIC Atlantic Oscillations Tru Thoughts/BEAT(2019)
多種多様なリズムに導かれるまま世界の音楽を探求
イギリスはウスターシャー出身にして、2007年から南米コロンビア、2014年からNYを拠点に、精力的な活動を続けてきたプロデューサー、クァンティックことウィル・ホランド。90年代のヒップホップをルーツに持つ彼は、やがて2000年代初頭のダウンテンポやディープ・ファンクのシーンへと傾倒。さらに写真家のB+が主宰し、ハードコアなディガーたちを南米へと誘った〈MOCHILLAプロジェクト〉も彼を触発し、ホランドはそのキャリアを通じて、ジャズやソウル、ファンクから、レゲエやクンビアをはじめとする中南米音楽、さらにはブレイクスやハウスまで多種多様なリズムに導かれるまま、ディープな音楽探求に身を投じてきた。
その過程で、ディープ・ファンクに根ざしたクァンティック・ソウル・オーケストラ、中南米音楽の熱い血潮と折衷的なグルーヴを注ぎ込んだ2009年の名作『Tradition In Transition』が多方面から絶賛されたクァンティック&ヒズ・コンボ・バルバロなど、さまざまなユニットに分岐。そのときどきで掲げた音楽的なテーマに応じて、複数の名前を使い分けながら活動してきた。
それぞれが濃密な作品であっただけに、彼が思い描く一枚の大きな絵、その全体像を提示するべく、枝分かれした世界を明確な形で統合する必要性を感じてもいたのだろう。かくして、通常のアルバム制作の3倍の時間をかけ、クァンティック名義としては5年ぶりとなる新作アルバム『Atlantic Oscillations』が完成した。