スライフィフスアヴェニューが蘇らせるドクター・ドレーの名曲たち!

 カナにするとまどろっこしいが……スライフィフスアヴェニューと読む。本名をシルヴェスター・オニェジアーカというこのサックス奏者は、恐らくさまざまな方向から知られてきた名前だろう。本誌では以前クァンティック率いるウェスタン・トランシエントの一員として紹介したこともあったし、フラワリング・インフェルノやニディア・ゴンゴーラの作品などを経由して彼の貢献に気付いた人も多いはずだ。一方、ジャズ・リスナーならソロ作『Akuma』(2013年)の時点でその存在をキャッチしていたに相違ないし、NYの若手ミュージシャンによるクラブ・カーサ・チャンバー・オーケストラを率いての活動を追っていた人も多いことだろう(マーク・ロンソンやケンドリック・ラマーのカヴァーを7インチで出していた)。

 そうでなくてもスティーヴィー・ワンダーやジャネール・モネイ、あるいはプリンスといった大物に起用され、特にプリンスとはNPGホーンズのメンバーとしてレコーディングに参加した間柄でもあったから、スライの名前がより広くに知られるのは必然だったのではないか。テキサスのオースティンで生まれ、現在はブルックリンを拠点に活動する彼は、ソウルやジャズはもちろん、ラテンやアフリカ音楽などに親しみながら成長していった。そうした多様な音楽からの滋養が彼に多面的なキャリアを与えることになったのだ。

 上記のような経歴を経てトゥルー・ソーツと契約した彼は、まずハービー・ハンコック曲のみを取り上げるEP『Vein Melter』(2015年)をジェシー・フィッシャーとのタッグで発表。今年に入ってからはフランク・オーシャン“Super Rich Kids”のカヴァーも含む『Composite EP』、そしてクァンティックがギターで援護したシングル“Early Morning”を発表しており、ぼちぼちフル・アルバム?と思っていたら、それは思わぬ形で届けられた……今回の『The Invisible Man:An Orchestral Tribute To Dr.Dre』だ。

SLY 5TH AVE. 『The Invisible Man:An Orchestral Tribute To Dr. Dre』 Tru Thoughts/BEAT(2017)

 今作は文字通りドクター・ドレー楽曲のトリビュート作品となる。この試みはもともと2015年にスライがモチーラの面々と企画したコンプトンに音楽学校を新設するための慈善コンサートから始まっている。LAの名ミュージシャンから成る管弦楽団=カリ・ラヴ・オーケストラ(デクスター・ストーリーやジョセフ・ライムバーグらも名を連ねていたようだ)を束ねてスライもパフォーマンスを行い、そのショウに感銘を受けて祝辞を述べたドレーからお墨付きを得る格好で、このレコーディング作品も実現したのだという。

 メンバー構成こそカリ・ラヴ・オーケストラとは異なるものの、オーケストラル・ジャズでのカヴァーというアイデアの骨子は変わらず。選曲はドクター・ドレー名義の曲や彼の絡んだスヌープ・ドッグ、2パック、エミネム、ブラックストリートらの楽曲をベースにしており、そこにスライ自身のオリジナル曲やインタールードも絡んで、一枚のアルバムとして企画盤以上の流れと価値が生み出されている。シドニー・ドライヴァー(ドラムス)やポール“ベイ・ブロ”ウィルソン(キーボード/シンセ)ら固定のバンド・メンバーに加え、ジャシー・フィッシャー、マーク・ド・クライヴロウやコリー・ヘンリー、クァンティック、DJセンターといった名前も要所でゲスト参加。ドレーの原曲を知っていれば微笑ましい仕掛けもあり、そうじゃなくてもシンプルで耳触りの良いインスト作品として純粋に楽しめるはず。そうなるとオリジナル作も聴いてみたくなるのが人情……ってことで、スライの今後にも大いに期待しておきたい。

 

アルバム参加ゲストの作品を一部紹介。

 

関連盤を紹介。

 

DR. DRE 『The Chronic』 Death Row(1992)

いわゆる〈Gファンク〉を最初に定義することになったドレーのファースト・ソロ・アルバムで、スライはここから“Nuthin’ But A “G” Thang”と“Let Me Ride”の2曲を取り上げている。いずれも元がソウル/ファンクのダイナミックな大ネタ使いなだけあって、バンド演奏での解釈もそのままハマっている。

 

SNOOP DOGGY DOGG 『Doggystyle』 Death Row(1993)

『The Chronic』と兄弟盤のようなスヌープのファースト・アルバムで、こちらからは“Shiznit”と“Who Am I (What’s My Name?)”をピックアップ。原曲のシリアスさをジェシー・フィッシャーが盛り上げる前者と、ストリングスを強調して印象を変えた後者、どちらも技アリだ。

 

EMINEM 『The Slim Shady LP』 Web/Aftermath/Interscope(1999)

アフターマス設立後のドレーが見い出したラップ・モンスターの初作で、こちらからは大ヒットの“My Name Is”と“Guilty Conscience”を取り上げているが、前者はラロ・シフリンが元ネタのため管弦楽団でのカヴァーも実にハマっている。緊迫した後者もいい感じだ。

 

DR. DRE 『2001』 AftermathInterscope/ユニバーサル(1999)

ドレー指折りの名曲を詰め込んだクラシックで、スライはここから3曲も取り上げている。バウンシーな“Forgot About Dre”と上品な演奏のマッチした“Still D.R.E.”のハマりっぷりはもちろんのこと、“The Next Episode”は元ネタとなるデヴィッド・マッカラム“The Edge”(デヴィッド・アクセルロッド作)の演奏から聴かせる構成にニヤリ。アウトロでのネイト・ドッグの歌唱パート再現も泣ける。

デヴィッド・マッカラムの67年作『Music: A Bit More Of Me』(Capitol/Get Down)

 

2PAC 『All Eyez On Me』 Death Row(1996)

コリー・ヘンリーをフィーチャーしたオープニングの“California Love”は、2パック × ドレーの数少ないコラボの成果。P39でも触れられているように、いまなお多方面でリサイクルされ続けている名曲だ。カリ・ラヴ・オーケストラという楽団名の由来であることは言わずもがな。

 

BLACKSTREET 『Another Level』 Interscope(1996)

スライが取り上げたのはドレーのラップをフィーチャーして本作から全米No.1を獲得した“No Diggity”。ドレーのプロデュース曲としてたまに混同されることもあるがビル・ウィザーズ使いでテディ・ライリーが組み上げた名ループである。

 

N.W.A. 『EFIL4ZAGGIN』 Ruthless/Priority(1991)

スライが演奏しているのはブーツィーズ・ラバー・バンド“I’d Rather Be With You”のカヴァーということに一応なるが、これはNWAが同曲のお下品な替え歌として披露していた“I’d Rather Fuck You”を意識してのリメイクなのは言うまでもないだろう。

ブーツィーズ・ラバー・バンドの76年作『Stretchin’ Out In Bootsy’s Rubber  Band』(Warner Bros.)