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世界的プロデューサーが女性ヴォーカリストと組み、旧来のラテン音楽を自己流にアップデート
イギリス出身の世界的プロデューサー、クァンティックことウィル・ホランドは多面的な顔を持つ傑物だ。ヒップホップをルーツに持ちながら、2000年代にはディープ・ファンクに傾倒。レゲエやクンビアにも親しみ、2007年から数年はコロンビアでも活動した。多数のプロジェクトを同時並行で進めているウィルは、前作『アトランティック・オシレイションズ』でフロア映えするサウンドを創出したが、新作『アルマス・コネクタダス』は趣きが異なる。旧来のラテン音楽を彼なりの解釈でアップデートしたような作品、とでも言えばいいか。
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新作はウィルが全幅の信頼を寄せる女性ヴォーカリスト、ニディア・ゴンゴーラと共同名義でのリリース。ニディアのヴォーカルを最大限に活かすアレンジが施されており、歌の表現力や説得力は特筆ものだ。また、ウィルのスタジオでヴィンテージ機材を使い録音されたことで、生々しくざらついた音像が築かれているのにも要注目。マッシヴでファットなドラムが重心となり、パーカッションが軽妙なビートを加速させ、ベースがアンサンブルに安定感と奥行きをもたらし、曲によっては流麗なストリングスがあしらわれている。
とりわけ印象的なのは、戦前のブルースとラテン音楽を掛け合わせたような曲と、ストリングスを活かした重厚なインストゥルメンタルが、何の違和感もなく共存しているところ。それは、ウィルが現在拠点とするNY特有の、猥雑で混沌とした空気を真空パックした結果でもあるのだろう。キップ・ハンラハンとは異なる角度から、こんな風にラテン音楽を扱えたミュージシャンが他にいただろうか?
この夏公開された映画「イン・ザ・ハイツ」は、マンハッタン北部のワシントンハイツが舞台で、ドミニカ共和国、プエルトリコ、キューバ等からの移民の生活を描いていた。その背景で流れていた音楽をより深掘りしたくなった、という方にも本作をお勧めしたい。それくらい普遍的で強度があり、懐の深い作品である、ということだ。