天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。お盆休みを挟んだので、今週は2回を更新予定です。まずは8月2~9日分。その頃の洋楽の話題は、元シルヴァー・ジューズのデヴィッド・バーマンが亡くなったことでしょうか」
田中亮太「また訃報ですね……。シルヴァー・ジューズはスティーヴン・マルクマスほか、ペイヴメントのメンバーとバーマンが中心となったバンドで、そのフロントマンがバーマン。シンガーとして、ソングライターとしてとても愛された人物でした」
天野「知る人ぞ知るインディー・バンドですが、ドラッグ・シティの古株として『American Water』(98年)など、多くの傑作を残しています。バーマンの死因は自殺だそうで、それも痛ましいです。彼は、長年ドラッグ依存と闘っていた、という話もあります。残念ですね」
田中「新しいバンド、パープル・マウンテンズもすばらしいアルバムを発表し、ツアーも始まったばかりだったのに……。気を取り直して、それでは今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」
1. Tool “Fear Inoculum”
Song Of The Week
田中「〈SOTW〉はトゥールの“Fear Inoculum”! ついに新曲が発表されましたね!!」
天野「メタル界の生きる伝説、トゥールの13年ぶりとなる新曲にしてニュー・アルバムの表題曲です。個人的に思い入れのあるバンドなので、本当にずっと待ってましたよ! 〈新作が完成間近〉と報じられては結局出ない、というのに何度も振り回されてきましたから。ヴォーカリストのメイナード・ジェイムズ・キーナンはア・パーフェクト・サークルとして14年ぶりの新作『Eat The Elephant』(2018年)をリリースしていましたが、やっぱりトゥールの復活は特別です」
田中「彼らの特徴といえばプログレッシヴ・ロックやサイケデリック・ロックから影響を受けたダークでダウナーなサウンド。この曲にもタブラやオクトバンの打音が効果的に使われていて、ヒプノティックな感覚がありますね。尺も10分超えと長い。ビルボードの〈ホット100〉にもチャートインしているんですが、〈ホット100〉史上もっとも長尺の楽曲らしいです(笑)」
天野「長さも音もいつもどおりと言えばそうなんですけど、冗長さはゼロ。むしろ短く感じます(笑)。後半、奇数拍子が絡まり合って、ポリリズミックになる展開がすさまじい。〈王の帰還だ!〉なんて言いたくなる、見事な曲だと思いました。全7曲、80分近いという超大作『Fear Inoculumn』は8月30日(金)リリース。うれしいことに過去の作品がすべてストリーミングで聴けるようになりましたし、この夏の後半はトゥール漬けになりそう……」
2. SiR feat. Kendrick Lamar “Hair Down”
天野「2位はサー(SiR)がケンドリック・ラマーをフィーチャーした“Hair Down”。彼はケンドリックも所属するTDEことトップ・ドッグ・エンターテインメントのシンガーです」
田中「サーはケンドリックの『DAMN.』ツアー(2017~2018年)のサポート・アクトも務めていたそうで。その繋がりもあって、この共演に至ったのかもしれませんね」
天野「そうですね。この“Hair Down”は、いまのR&Bらしい非常にミニマルなプロダクションで、かなりチルいムードです。でも、さまざまな声色を使い分けるケンドリックのラップが入るとピリッとしますね。さすがの存在感です」
田中「主役のサーの歌は抑制が効いていて、かえってセクシー。前作『November』(2018年)はTDEのファンを中心に聴かれていた印象ですが、8月30日に発表される新作『Chasing Summer』はより多くのリスナーに開かれた作品になりそうですね」
3. Lana Del Rey “Looking For America”
天野「3位はラナ・デル・レイの新曲“Looking For America”。ラナといえば、8月30日にリリースされる新作『Norman Fucking Rockwell』のカヴァー・アートやトラックリストも発表されました」
田中「この曲と同時にリリースされた“Season Of The Witch”もダークなアメリカーナでいいですよね。ドノヴァンのカヴァーで、ギレルモ・デル・トロ監督がプロデュースやストーリーを担当するホラー映画『Scary Stories To Tell In The Dark』への提供曲です」
天野「一方、この“Looking For America”は、ほぼ彼女の歌の多重録音とプロデューサーであるジャック・アントノフのギターだけで構成されいます。ローズ・ピアノやシンセサイザーの音色がうっすらと背後で鳴る静謐な音作りです」
田中「それだけにラナの歌声が引き立っていますね。歌詞がまたすばらしいんです。〈私はまだ私のヴァージョンのアメリカを探している/銃のない、旗が自由にはためく国/空に爆弾なんてなくて、私とあなたがぶつかりあうときは花火が弾けるだけ/それはただ私が思い描く夢〉……。これは8月3、4日にテキサスとオハイオで起きた2度の乱射事件を受けて、急きょ書かれたものだとか。新作のテーマを予見させるようなリリックでもありますね」
4. Megan Thee Stallion feat. Nicki Minaj & Ty Dolla $ign “Hot Girl Summer”
田中「4位はメーガン・ザ・スタリオンの“Hot Girl Summer”! 注目のラッパーがニッキー・ミナージュとタイ・ダラー・サインをフィーチャーした、今夏もっともイケイケな楽曲ですね!」
天野「読者のみなさんにご説明いたしますと、これは意外にも亮太さんが推した曲なんです。前回〈もっとラップを勉強してください!〉と叱ったのが効いたのかな……(笑)」
田中「ぎくっ! 確かに最近は毎日HotNewHipHopをチェックしてますけど(汗)、やっぱりこのタイミングでメーガンのことは紹介しておきたくて。米ヒューストン出身のラッパーで、今年の5月にリリースした初のミックステープ『Fever』が話題になりました。〈XXL Freshman Class〉にも選ばれていますし、ネクスト・ブレイク筆頭候補ですよね」
天野「おっ、勉強してるんですね。ヒューストンといえば、話題のリゾも同郷で、2人が共演(?)したInstagramの動画もバズりました。2人が並ぶとインパクトあるなあ……。話を戻すと、バウンシーなビートに絡むタイダラの歌がメロウな“Hot Girl Summer”、ビーチで聴きたい〈hot〉な一曲です。メグことメーガンはニッキーとビーフ中のカーディ・Bとも共演したい、なんて言っています。欲張り! 今後、重要なラッパーになっていきそうですね」
5. Ty Dolla $ign “Hottest In The City”
天野「最後は“Hot Girl Summer”でも歌っていたタイ・ダラー・サインの新曲“Hottest In The City”。またも〈hot〉な一曲です」
田中「タイダラは5月にもJ・コールとの”Purple Emoji”という曲を紹介しました。天野くん、好きなんですね~」
天野「歌にもラップにも行ける、甘い声や節回しがいいじゃないですか。それに、今回は前とだいぶ毛色が違っています。明らかにトラヴィス・スコットのヒット作『ASTROWORLD』(2018年)のスタイルを模倣した組曲形式で、そのトラヴィスの楽曲を手掛けたテイ・キース、スリー・6・マフィアのジューシー・Jやクレイジー・マイクらによるサイケデリックなプロダクションが聴きどころ。ちゃんとクレジットされていないんですけど、ジューシー・Jや同じスリー・6・マフィアのプロジェクト・パットもラップで参加しています。西海岸のタイダラとメンフィスの人脈が絡み合っていて、実におもしろいんです」
田中「ほ~。たしかに曲の前半と後半の境目でグッとスクリューして、曲のモードがバチッと切り替わりますね。悪い夢でも見ているかのような不穏なトリップ感があります。その一方で〈この街でいちばんホットなのは誰だ?〉っていうサビはかっこよくキマっているし、ユニークなサマー・チューンです」