ケンドリック・ラマーがまたやってくれた。グラミー賞の受賞からわずか1週間、彼は第59回NFLスーパーボウルのハーフタイムショーのステージに立っていた。世界で最も視聴されるイベントで、ケンドリックのパフォーマンスは〈史上最も視聴されたハーフタイムショー〉となった(ロック・ネイションの発表によれば総視聴者数は1億3,350万人とのこと)。

2025年、いや音楽史においても大きなハイライトとなったケンドリック・ラマーの渾身のパフォーマンスを、ライターの市川タツキはどう見たのか。13分間の中に複雑に張り巡らされた膨大なトピックを、独自の視点で紐解いてもらった。 *Mikiki編集部


 

サミュエル・L・ジャクソンが担った役割

ケンドリック・ラマーは複雑なパーソナリティーの持ち主でありながら、ラディカルな反骨精神の持ち主でもある。ヒップホップのカルチャーをこよなく愛するラップスターでもあれば、計算高く厳密な音楽家、演出家でもある。

そして何よりも、ケンドリック・ラマーは生粋のエンターテイナーである。2025年2月10日、ニューオリンズで開催された第59回NFLスーパーボウルで、ハーフタイムショーのパフォーマーとしてステージに立った彼を見て誰もがそう思ったことだろう。他ならぬ私もその一人だが、一方でその奥には、上記に記した彼の多側面が大いに詰まっているパフォーマンスであったとも確かに感じた。

このハーフタイムショーのステージは、昨年のドレイクとの歴史に残るビーフ、“Not Like Us”のバイラルヒット、ニューアルバム『GNX』のリリース、そして先日発表された第67回グラミー賞での主要部門含む5部門の受賞など、話題に事欠かなかった彼の動向のクライマックスという見方もできるだろう。

一方で、アメリカ南部のニューオリンズが開催地でありながら、西海岸を代表するケンドリック・ラマーが今回のパフォーマンスに抜擢されたことが物議を醸したりもしたが(ニューオリンズ出身のリル・ウェインが、今回地元でパフォーマンスする機会が得られなかったとケンドリックにコメントする一件もあったが、のちに二人は和解している)、ロサンゼルスにて開催された2022年のスーパーボウル・ハーフタイムショーにて、メインパフォーマーのドクター・ドレーとともにステージに立ったケンドリックが、今回一人でメインステージに立ったこと自体には、感慨深いものを感じる。

実際のパフォーマンスで印象に残ったシーンを見ていこう。まず、スペシャルゲストとして登場したのはサミュエル・L・ジャクソン。彼が扮していたアンクル・サムという役は、まるでスパイク・リーの映画「シャイラク」で演じた役を、スタイルも含めてそのまま持ってきたかのような存在だった。加えて、クエンティン・タランティーノの「ジャンゴ 繋がれざる者」で彼が演じた役も思い起こさせるように(今回披露はされなかったが『GNX』収録の楽曲“dodger blue”にて両監督ともネームドロップされている)、あくまで黒人らしさを抑制して大衆向きのショーに仕立てようとする存在でもあった。

ケンドリック・ラマーは、演技派のサミュエル・L・ジャクソンを起用し、このパフォーマンスに物語性を付与する。それは、世間や社会の要請に反発し、屈しない黒人の姿。このパフォーマンス全体で表現しようとしているのは、ここ1年の話題の総括を超えた、反骨的なブラックカルチャーのあり方そのものなのだ。それには、SZAがゲストとして登場する“luther”“All The Stars”のようなメロディアスなバラードで喜び、“squabble up”に「ゲットーすぎる」と怒り出すサミュエル・L・ジャクソンのキャラクターが必要だった。