ルーツィーなサウンドに浮かぶ、現実を見据えた前向きな意志――名義を変え、よりオープンマインドとなったバンドが掴んだ無二のレベル・ミュージック

 今年の〈フジロック〉の初日、〈FIELD OF HEA­VEN〉で観たOAUのライヴは本当に素晴らしかった。細美武士(ELLE­GARDEN/the HIATUS/MONOEYES)が登場し、重厚なコーラスを響かせた映画「新聞記者」の主題歌“Where have you gone”も印象的だったが、特に心に残ったのは、バンドの雰囲気が以前にも増してオープンマインドになっていて、どこまでも解放的な音楽を奏でていたところ。カントリーやフォーク、アイリッシュ・トラッドを基調にした有機的なサウンドもさらに深みを増していて、メンバー全員のコンディションの良さ、そして、バンド全体が新たな変化の時期を迎えていることもはっきりと伝わってきた(「ちびっこのみんな、×しりの〈O〉、×ナルの〈A〉、×んこの〈U〉でOAUだよ」みたいな、ふざけまくったTOSHI-LOWのMCは相変わらずだったけど)。外に向けて開いていく意識と、音楽性の豊かな広がり。この日のステージから受け取ったOAUのモードは、ニュー・アルバム『OAU』を聴いたときの印象と真っ直ぐに繋がっていた。

OAU 『OAU』 NOFLAMES/トイズファクトリー(2019)

 OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDからOAUに改名して最初のアルバムとなる本作は、彼らのキャリアのなかでもっとも良い状況でリリースされる作品だ。その理由のひとつは、TVドラマ「きのう何食べた?」のオープニング・テーマ“帰り道”と上述の“Where have you gone”による両A面シングルのスマッシュ・ヒット。どちらの楽曲も大きな話題を集め、コアな音楽ファン以外の層にもOAUの音楽が届きはじめているのだ。いわゆるタイアップ・ソングだが、2曲とも〈OAUがやる意味〉が強く存在していることにも注目してほしい。中年に差し掛かったゲイのカップルの日々の暮らし、将来に対する不安と夢を丁寧に描いた「きのう何食べた?」、そして、現実の出来事とリンクさせながら、政治と報道の在り方をシリアスに表現した「新聞記者」にOAUが楽曲を提供したのは、メンバーの〈より強く社会とコミットしたい〉という思いの表れなのではないか。日常のなかにあるかけがえのない幸せを照らし出す“帰り道”と、〈何処へ行ってしまったの/愛する人よ〉というフレーズが胸を打つ壮大なバラード・ナンバー“Where have you gone”という、サウンド/歌詞を含めて両極の楽曲を押し出せたことも、OAUの多様性を示すうえで大きな意味があったはずだ。

 もうひとつのトピックは、OAU主催のキャンプ・イヴェント〈NEW ACOUSTIC CAMP〉(以下、NAC)が今年で10周年を迎えたこと。自然のなかでテントを張り、太陽の光や風を感じながらオーガニックな音楽を味わうことを主な趣旨に据えたNACは、ライヴを観ること自体が目的ではない。寛容さを失い、自己責任の名のもと助け合うことを忘れ、生きづらさを感じている人たちが(もちろん筆者もそのひとりです)、〈より良い暮らし、より良い世界をめざそう〉という実感を得られることに、このイヴェントの真の意義があるのだと思う。『OAU』に収録された“こころの花”(New Acoustic Camp 10th Anniversary テーマ曲)、“Midnight Sun”(New Acoustic Camp 公式テーマ曲)にはまさに、NACを10年続けてきたことで得た実感が生々しく反映されている。

 さらには、口ずさみやすい素朴なメロディーと共に〈なんでもない日々〉を積み重ねることの素晴らしさと愛おしさを綴った“Traveler”、ストリングスや木管楽器を取り入れた豊潤なサウンドのなかで、幼かった自分自身の思い出や、みずからの子供に対する思いを率直に歌った“I Love You”(終盤に登場する子供たちのコーラスも本当に美しい)など、普遍的な魅力を持った楽曲が並ぶ本作。なかでも中心にある曲と言えるのは、冒頭の“A Better Life”だろう。切なさ、鋭さ、美しさを同時に感じさせるギターのアンサンブルと、大地を蹴り上げるかの如きパーカッシヴなビートを軸にしたサウンド、そして、〈疲れた日々に歩みを止めず/たどり着かない当てなき旅を/希望と呼んで〉という歌詞がひとつになったこの曲は、アルバム『OAU』の精神性をストレートに表している。その根底にあるのはやはり、リスナーひとりひとりの人生に寄り添いながら、共に生きるこの時代に光を当てようとする意志だ。経済、政治、文化など、あらゆるところで深刻な事態が進み、未来に対する希望が見つけづらい現在。そこから目を逸らすことなく、現実から逃げることもなく、音楽を通して、ほんのわずかでもいいから、すべての人が生きやすさを感じる世界へと進みたい――『OAU』の本質は、そうした前向きな意志のなかにある。

 そして、もうひとつ記しておきたいのは、アルバム全体を包み込む音楽的な豊かさだ。ルーツ・ミュージックが血肉化されていることはもちろん、優れた演奏能力と色味を増したアレンジメント(ストリングスやパーカッションの使い方が多彩になっている)によって、OAUの音楽のクォリティーは格段に向上した。TOSHI-LOWとMARTINの生々しい感情に貫かれたヴォーカルや、プレイヤーの息遣いが感じられるような演奏も魅力。本作によって彼らは、高い音楽性と切実なメッセージ性が有機的に結び付いた、無二のレベル・ミュージックに到達したと言っていいだろう。

OAUの作品。