ジュリア・マイケルズ

ウォルト・ディズニー・カンパニーが創立100周年を迎えた2023年。その記念作であるアニメーション映画「ウィッシュ」がついに公開された。「白雪姫」「ピノキオ」「シンデレラ」といった名作を生んだ100年の集大成であり、ヒット作「アナと雪の女王」の制作陣によるドラマティックなミュージカルになっている同作。主人公アーシャを生田絵梨花が、敵役マグニフィコ王を福山雅治が務めるなど、日本版キャストも話題だ。そんな「ウィッシュ」の公開と同日に、サウンドトラックが通常版とデラックス版でリリースされた。そこで今回は、サントラの魅力を音楽ライター・服部のり子に解説してもらった。 *Mikiki編集部

VARIOUS ARTISTS 『ウィッシュ オリジナル・サウンドトラック』 Walt Disney/ユニバーサル(2023)

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道標としてのジュリア・マイケルズの音楽と生田絵梨花の凛とした歌

12月15日からディズニー100周年記念作品のミュージカル映画「ウィッシュ」が公開となった。制作陣は、「アナと雪の女王」や「ミラベルと魔法だらけの家」を手懸けたヒットメーカーで、両作品ともに音楽も大ヒットした。その音楽を担当したのは前者がクリステン&ロバート・ロペス夫妻、後者はリン=マニュエル・ミランダ。彼らのような絶対的エースと組んで成功してきたチームが今回白羽の矢を立てたのは、ミュージカル界ではなく、シンガーソングライターとして活躍しているジュリア・マイケルズだった。

楽曲提供は、ジャスティン・ビーバーをはじめ多くのポップシンガーで経験しているし、ディズニー・チャンネルの番組テーマ曲を書いたこともあるけれど、ミュージカルは歌がセリフでもある。そこがポップソングと大きく異なるので、両者にとって勇気ある決断のように思えてしまうが、ジュリアがプロットの段階で先行して書き上げてきたのが“ウィッシュ~この願い~”だった。〈まだ手遅れじゃないわ 思い切って立ち上がるの♪〉と主人公アーシャの運命を決定づけるようなこの歌が作品全体の道標になったという。

本楽曲を英語版は、映画「ウエスト・サイド・ストーリー」で異国の都会で生きる強き女性アニータを演じて、アカデミー賞助演女優賞を受賞したアリアナ・デボーズ、日本語版では生田絵梨花が凛とした強さを秘めた声で歌う。オーディションでアーシャ役を勝ち取った生田絵梨花の歌は、本国からも〈アーシャの細かい感情も全て理解して、思いを込めて歌っている完璧な歌〉と高く評価されている。そして、物語は、この歌をきっかけに大きく展開していく。

 

「ウィッシュ」スコア録音時
(左から)ベンジャミン・ライス、ジュリア・マイケルズ、スコアを作曲したデイヴ・メッツガー

歌とダンスアンサンブルで魅せるミュージカル映画の醍醐味

ジュリア・マイケルズがプロデューサーのベンジャミン・ライスと共作した楽曲は、“ウィッシュ~この願い~”以外も歌が物語の水先案内人となっている。たとえば、オープニングの“ようこそ!ロサス王国へ”。ジュリア自身は「イベリア半島、ギリシャ、北アフリカの音を取り入れたかった」と言っているが、明るく開放的な雰囲気に溢れていて、軽快なギターや手拍子などから架空の王国がどのあたりにあるのかを頭に思い浮かべることが出来る。

ミュージカル映画の魅力のひとつにメインキャストとアンサンブルキャストが集まった大勢による華やかな歌とダンスがあるが、それを楽しませてくれるのが中盤の“誰もがスター!”という曲。空の彼方から舞い降りてきた〈スター〉の魔法で話せるようになった金色のニワトリが歌うシーンなどは、ハリウッド黄金期のミュージカル映画を彷彿させる。また、演奏も素晴らしく、テーブルの上にある燭台などを叩くシーンの重く引き締まったリズムに息を呑んだ。とても短いけれど、強烈なインパクトを残す演奏は、参加ミュージシャンのリストを見る限りおそらく世界的なパーカッション奏者のアレックス・アクーニャではないか。