最大限のスケールで世界を席巻してきたモンスター・バンドが4年ぶりの新作を発表。誰にでも訪れる日常をテーマに社会を切り取った、その普遍的なメッセージとは……

楽観的ではいられない

 クリス・マーティン(ヴォーカル/ギター/ピアノ)、ジョニー・バックランド(ギター)、ガイ・ベリーマン(ベース)、ウィル・チャンピオン(ドラムス)という安定のメンバーで着実に活動を続け、97年にロンドンで結成されてから現在に至るまで絶大な支持を獲得している当代きってのモンスター・バンド、コールドプレイ。ブリット・ポップの熱狂に間に合わなかった世代ながらも最初のアルバム『Parachutes』(2000年)の時点から広く海外でも名を馳せ、その足取りについてはもはや細かく説明する必要もないほどだが、そんななかでもキャリア最大級の記録的なヒットに輝いた大作『A Head Full Of Dreams』(2015年)の浸透力と波及効果には凄まじいものがあったはずだ。それから4年、いまや数字的なスケール以上に愛される世界的バンドとなった彼らのニュー・アルバム『Everyday Life』がいよいよリリースと相成った。〈日常〉という表題の意味するところは、資料によると〈国や言語、文化、宗教に違いはあっても、世界のどこでも誰にでも普通に 一日は訪れる〉というもの。こうしたテーマや視点の獲得には、それこそ前作リリース後のツアーが深く関係していたようだ。

 2016年3月から2017年11月までの長期に渡って122公演が開催された〈A Head Full Of Dreams Tour〉は、結果的にロック史上3位の収益を上げる大きなツアーとなった。その産物として2枚組ライヴ・アルバム『Live In Buenos Aires』と、そのデラックス・ヴァージョンとしてドキュメンタリー作品も同梱した『Live In Buenos Aires/Live In Sao Paulo/A Head Full Of Dreams Film』、そして2017年4月の東京ドーム公演を収録した『Live In Tokyo』が昨年末にドッと届いたのを記憶している人もいるだろう。さようにバンドにとっても最大規模のワールド・ツアーで各国を巡りながら、彼らは今回の新作を作りはじめていたのだという。

 思えば前作『A Head Full Of Dreams』は4作目『Viva La Vida Or Death And All His Friends』(2008年)から顕著になりはじめたバンドのオプティミスティックな持ち味をよりポップかつカラフルな音像で最大限に表現した作品だったわけだが、同作の世界観をスタジアム・スケールで表現しながらも、舞台裏での彼らはもう楽観的なだけではいられない世界の状況に視線を移していたのだろう。今回の『Everyday Life』に重く横たわっているのは、戦争や紛争、難民、性差別、ハラスメント、銃規制、政治的腐敗といったトピックであり、そうした諸問題に対するバンドなりの視点が収録曲それぞれの表現のバックグラウンドになったようだ。

 

日常への祝福

COLDPLAY Everyday Life Parlophone/ワーナー(2019)

 時間をかけて完成を見たアルバムは〈Sunrise〉と〈Sunset〉という2パートにそれぞれ8曲ずつが並んだ2部構成となっていて、全16曲で1日=24時間というテーマを表現したコンセプト・アルバム的な作り。今回もバンドが全幅の信頼を置くリック・シンプソン、ダニエル・グリーン、ビル・ラーコといった馴染みのクリエイター/エンジニア陣がほぼ全曲のプロデュースを担当し、チームとしての強固な絆は今回も揺るぎない。〈Sunrise〉の序盤を強く印象づけるのはスターゲイトやジェイコブ・コリアーも助力した“Church”で、ここでは2016年に殺害されたパキスタンのスーフィー(イスラム神秘主義)音楽家、アムジャド・サブリの“Jaga Ji Laganay”がネタ使いされているのも大きなポイントだ。他にも〈Sunrise〉には、すでに先行披露されて話題となっている“Arabesque”も並んでいるが、そちらにはベルギーのストロマエもフランス語ヴォーカルを添えたほか、ナイジェリアのフェミ・クティが息子のマデらを従えてホーンズで参加し、ハイライフ風味もある幻惑的なアレンジを彩っている。

 一方の〈Sunset〉では、マックス・マーティンも共同プロデュースにあたった先行カットのポップ・チューン“Orphans”をはじめ、ビヨンセのサントラ『The Lion King: The Gift』参加でも名を売ったナイジェリアのアフロ・ポップ歌手ティワ・サヴェージ(モータウンから“49-99”もリリースしたばかり)が“Eko”に登場してくるあたりも聴きどころとなろう。また、クリスの歌とギターのみで聴かせる“Old Friends”、同じくクリスのピアノで紡がれるタイトル曲にして終曲の“Everyday Life”もシンプルなハイライト。後者の仄かにポジティヴなニュアンスには、決して悲観的なままでは終わらない彼らのアティテュードが如実に表れているのではないだろうか。

 なお、今回のジャケットに用いられているのは、ジョニー・バックランドの曽祖父のバンドを写したおよそ100年前の写真にメンバーの顔を合成したもの。その真意はわからないが、100年前から続いてきた日常が現在もどうにか存在しているの祝福とも取れるし、100年前と比べても音楽の本質的な役割が変わっていないことを主張しているようにも思える。いずれにせよ、デビューから20年を経過した現在も進化と深化を続ける最新型のコールドプレイを、まずは堪能して何かを感じてほしい。

 

コールドプレイの作品。

 

〈A Head Full Of Dreams Tour〉の模様を収めたコールドプレイのライヴ盤。

 

クリス・マーティンの参加した近作を一部紹介。

 

『Everyday Life』に参加したアーティストの作品を一部紹介。