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スランプに陥った根津まなみ

――パーソナルな思いも作品のテーマにちゃんと滲み出ているんですね。そういった点では、根津さんの作詞はどう進めていったんですか? コンセプトを決めて書いたんですか?

根津「いえ。私はすごく書くのが早くて、まったくストレスなく書ける多作家なんですね。ストックも多くて苦労しないんですけど、今回ちょっとスランプになっちゃって。ほとんどライブでやっている曲だったので、書き下ろしたのは“baby”だけだったんですけど、もう本当に書けなくなっちゃったんです。

20代のときって多感だし、傷つくこともなにかとあるから、傷ついたらそのぶんだけ書ける。自分の内側から出てきたもので、どんどん書けていたんです。けど30代になって、私もいよいよ落ち着いちゃって――幸せになっちゃったんですよ。幸せになると書けなくなるなんて、知らなかったんです。それでレコーディングも飛ばしちゃって、書いても井上くんから〈これじゃダメだ〉って初めてNGを出されて。泣いて泣いて……やっと書けました。

谷を下ってくような作業でしたね、私は。とにかく潜って潜って、底に行き着いて、でも書かなきゃいけないから這い上がらなきゃいけなくて。這い上がっても、血反吐を吐きながら書いたような感じ。苦しかったですね」

――どういう感情が発端となって生まれたんですか?

根津「いままでは〈恋〉のことを書いてきたんですけど、今回のアルバムのテーマが〈愛〉で、恋から愛を歌うようになった作品なんです。

実は、いままで音楽のことを相談したことは一度もなかったんですけど、辛すぎて母にすがったんですね。〈書けない〉って泣き言を言ったら、〈思っていることをそのまま書いてみたらいいんじゃないの〉〈未来を書いてみたら〉って言われて。私、苦しい部分ばかりを書いてきたタイプだったので、そんなふうに考えたことなかったんです。それで、〈そっか、そのまま書いてみたらいいのか〉って思ったら、書けたんです」

井上「ものの見方だと思うんですよね。同じものでも、恋の側面から見るのか、愛の側面から見るのか、みたいな。〈愛〉って言っても不確かだったり、よくわからなくて、ものすごく曖昧なものだったりするじゃないですか。でも、どの曲も愛っていう、このままならない感情からものを見ていて。

だから、愛というテーマで統一して作ったわけではなくて、いままで出来たものを、愛というテーマできちんと筋道を立てたんです。その全部が“baby”にはあるのかな」

近すぎて見えない、わかるには近すぎる

――バンドの状況やPamさんと再会したことなど、お2人の歩みが結実してこの作品になっているのが、すごくドラマティックだと思いました。

根津「なんか、〈人生〉でしたね」

井上「それを押し付けたり、過度に出したりしたくはないんです。けど、それなりにいろいろあって出来たものがこれだから。最近、〈ヴァイブス〉ってけっこう重要な言葉だと思っていて。〈ヴァイブ〉って〈振動〉じゃないですか。やっぱ、共振するものがあるかどうかだと思うんです。

表面的にかっこいい音楽をもちろん作るんですけど、それはそれとして、知らないうちに心が共振する、共鳴するものを作れたらって思っていて。外側のサウンドは、あくまでも〈お洋服〉みたいな感じですよね。

〈too close to know〉っていうタイトルは、人と人との距離感を感じさせるような言葉をアルバム・タイトルにしたいなって思って。“Too Close For Comfort”ってジャズのスタンダードがあってその一節に出てくるフレーズなんです。逆説ですよね。要するに、〈近すぎて見えない〉〈わかるには近すぎる〉みたいな。いい距離感を表す言葉だなって。愛の話だよね」

根津「そう。よくわかるし、素敵な表現だなって」

カウント・ベイシー・オーケストラとエラ・フィッツジェラルド、ジョー・ウィリアムズが56年に録音した“Too Close For Comfort”

井上「元ネタの“Too Close For Comfort”は恋の歌なんですけど、この一節はすごく愛を表現している。自分たちのモード、ひととの距離感や孤独に歩んでいくこと、いろいろなことを総括するフレーズを見つけられたなって。タイトルも悩んだので、本当に地獄みたいな制作でした。2人とも寿命を15年は縮めたと思います(笑)」

根津「一言でいうと、辛かったですね(笑)」

井上「だから、マスターピースが出来たって満足感はなくて。根津さんは深くて暗い谷に落ちて、なんとかそこから這いずり上がってきたんだけど、僕は頂上の見えない山を傷つきながらもなんとか登って、でもここが頂かどうかわからない所でとりあえず下山しなきゃいけない、っていう状況だったので。この作品がゴールでもなんでもないんです。けど、すくなくとも、いまの自分たちにしか作れないものが出来たなって。ある意味、めちゃくちゃエモい作品(笑)」

――今日はエモい話しかしていないですよ(笑)。

井上&根津「あはは(笑)!」

井上「このアルバムについて話すと、重たくなっちゃうんですよね(笑)」

根津「もっと軽快に話したいんですけど(笑)」

井上「でも、いちばん重要なのは、やっぱこういう人間模様というか、ヒューマン・ビーイングというか」

――やっぱり、音楽ってそういうものですよね。

井上「わからなくてもいいんですけどね。共振する人には共振してほしいし、なんとなくいいなって思った人にはシンプルに聴いてほしい。その両面があるアルバムに出来たかなって思いますね」

 


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※TOWERminiもりのみやキューズモール店を除く
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https://tower.jp/article/feature_item/2019/12/11/0701

 

LIVE INFORMATION
showmore「too close to know」release one-man show
2020年2月5日(水)東京・恵比寿 LIQUIDROOM
開場/開演:18:30/19:30
前売り:4,000円
お問合せ(SEVEN'S ENTERTAINMENT) :  03-6457-7669
一般販売:2019年12月21日(土)12:00