『Slow LIVE at HONMONJI』を聴きながらの本人解説
渡辺「ここから、本来のお題であるオリジナル・ラヴのライブ・アルバム『Slow LIVE at HONMONJI』についてお話をしましょうか。ジャケットでの名義は〈ORIGINAL LOVE ACOUSTIC SET〉となっています」
田島「これまでとはちょっと違うぞ、っていうね」
渡辺「作品の解説にもいろいろと書かれていますが、このスタイルに至るまでだいぶ時間がかかったんですか?」
田島「かかりましたねぇ。オリジナル・ラブの楽曲をアコースティックでリアレンジすることは2011年ごろからずっとやってきて、ひとりのステージ〈ひとりソウルショウ〉とかいろんな変遷があるんですが、それらをやるにあたってギターの演奏スタイルをあらためて見直しまして」
渡辺「ジャズ的なギター・スタイルを実践したりしてね。ジャズ・ギターはどれぐらい練習したんですか?」
田島「ジャズ・ギターはここ3、4年ぐらいですね。その前にラグタイム・ギターの練習をずっとしている時期があったり。そもそもブルース・ギターの奏法って、ひとりでやるためのスタイルなんです。オープン・チューニングとか上の弦でメロディーを弾きながらベースも同時に弾くのにすごく合理的な弾き方で。ひとりでやるソウル・ミュージック、つまり〈ひとりハーレム・スクエア・クラブ〉みたいな世界をめざしていたんですが(笑)、ブルースのギターがそれに適していたから、我流で始めた。
で、5、6年かけてようやく形になってきたかな、って状態のものを披露したのがこのライブ。一発で成功させなきゃいけないライブで披露してみて、まぁまぁ成功したんじゃないかと自負してます。当日、ギターの木暮晋也は完全に硬直状態でしたけど。彼はまったく微動だにせず弾いてました(笑)。でもすごく良い演奏をしてくれましたね」

優雅さの背景にある途方もない苦労
(『Slow LIVE at HONMONJI』から“髑髏”~“99粒の涙”を聴く)
渡辺「マーヴィン・ゲイのアルバムばりの歓声が聞こえてきますが」
田島「そうでしょ? 今年あみ出した、右足でキックを踏み、左足でタンバリンを踏むという演奏スタイルでやっています。真城めぐみがスネアも叩いていて、彼女と俺を合わせればほぼドラム・セットになるという。
ここのギターがいわゆるラグタイム奏法です。レギュラー・チューニングのフィンガー・ピッキングで、メロディーも弾いてコードも入れながらベースラインも弾く。フレーズも考えながらなんとかできるようになるまで半年以上かかったんだけど、さらにそれに合わせて歌おうとしたらこれがもうぜんぜんできなくて。昔のラグタイム・ギタリストもあまり歌っている人はいない。ギターを弾くだけで大変なのに、それを誰も理解してくれない(笑)」
渡辺「そうでしょうね。プロたるもの、その大変さをアピールしちゃダメ。自然にできているかのように見せなきゃいけない」
田島「いままではそうでした(笑)。でも今日で崩れた(笑)」
渡辺「(笑)。優雅に見えてもどれだけ水中で必死に足を掻いているかをちゃんと言っていこうと」
田島「これからは言っていこう(笑)。でもね、こういう苦労は好きなの。楽器いじったりとかも含めて」
渡辺「凝り性ですよね。いじるなら自分でいじりたいし、やれるようになりたい」
田島「そう。その延長としてラグタイムもやれるようになってみたいと。でも次の“99粒の涙”の演奏は本当に難しいんです。今日はどんどん言いますからね、アヒルが水の中でどれだけもがいているかを」
渡辺「アヒルじゃない。白鳥だから」
田島「あ、白鳥ね(笑)。途中で転調するんですよ。一音転調するだけで手の形がぜんぜん変わっちゃう。なんでそんなアレンジにしてしまったんだろう、って自分で自分を責めている(笑)。ホント大変で、やれるもんならやってみろ!と言いたいぐらい」
渡辺「ミュージシャンの態度としてはちょっとおかしい(笑)。あなたはそれを聴いてもらう仕事だから(笑)」
田島「このセリフをどんだけ言いたかったことか(笑)。とにかく身体への負担がハンパない」
渡辺「もはやヴェテランという年齢に差し掛かったというのに」
田島「これまででもっとも難しくて激しいことをやっているという。でもこういうラグタイムな“99粒の涙”とか〈slow LIVE〉のコンセプトに合っていたんですよ。あまりこういうスタイルでやっている人いないから、やったら目立つんじゃないかと思って。ひょっとしたら目立ちたいというのが大きいかもしれないですね」
渡辺「人と違ったことがやりたいと」
田島「アコースティック・ギターを弾くのにも、ポロ~ンとやるだけじゃつまんない」
渡辺「そこが田島さんのワン・アンド・オンリーなところですよね」
田島「でもあんま伝わんない(笑)」
渡辺「ライブ観終わったあと、田島さんヤバイ!ってみんな言ってますよ。どういう意味で言っているのかはわかりませんけど(笑)。続いては、オリジナル・ラブと言えば……という曲」
(『Slow LIVE at HONMONJI』から“接吻”を聴く)