いまのUKロックはリスナーそれぞれが掘り下げてこそおもしろい
アイドルズやブラック・ミディ、ファット・ホワイト・ファミリー、マーダー・キャピタルといったアート・パンク勢に、シェイムやHMLTD、ドラーラ、ホテル・ラックス、スポーツ・チームら伝統的なUKロックにポスト・パンクをバランス良く取り入れたバンドなど、現在のUKロック・シーンは自分で掘り下げていくとおもしろい状況にあることがわかる。
かつてのオアシス、レディオヘッド、コールドプレイ、アークティック・モンキーズのような社会現象を引き起こしたバンドたちが割拠した時代と比べると、現在の状況は小粒で玉石混交のように映るかもしれないが、大きな共感によって連帯的に支持するよりも、いまの時代は自分の感性や気分にどれだけ近い存在を探せるかというような傾向が強まっているように思う。その点でもいまのUKシーンはロックに限らず、掘り当てていくのがおもしろい状況にあり、本稿の主人公であるスピンもそうして知ったのだった。
リヴァプール出身で2015年に結成されたスピンは翌年にデビュー・シングル“Green Eyes”を発表。そのキャッチーなメロディーがすぐさま支持されて、地元の大手インディー・レーベルであるモダン・スカイと契約し、2018年に4曲入りのファーストEP『Spinn EP』をリリースした。スミスのナイーヴな蒼さを蘇らせたようなリリカルなギター・サウンドは、40代以上の日本のUKロック・ファンにとっては懐かしく、ポスト・パンクやガレージの流れを汲むUKサウンドに慣れ親しんだ若い世代にとっては新鮮に感じられるのではないか。日本でも支持されるだろう……と思っていたところに、スピンとは音楽的盟友とも言うべきナイト・フラワーズもリリースしている大阪のRimeoutから『Spinn EP』に4曲追加した日本デビュー番『Yer Dar』がリリースされ、2018年11月には初来日公演も実現した。
スピンが受け継ぐ、リヴァプール産ポップの遺伝子
そしてこの度、日本のみのボーナス・トラックも4曲収録されたデビュー・アルバム『Spinn』が2019年のクリスマスに登場。日本の多くのUKロック・ファンが愛し続ける翳りとみずみずしさが同居したサウンドはより表現力豊かになり、着実な前進を続けている彼らの姿を刻み込んだデビュー作となった。
スピンの鳴らすUKロックにおいては普遍的と言うべきサウンドを俯瞰してみれば、それはまさにリヴァプールという街が産み落としたとも言える。エコー&ザ・バニーメンを筆頭にティアドロップ・エクスプローズ、アイシクル・ワークス、ペイル・ファウンテンズ、ワイルド・スワンズ、モダン・イオンといったネオ・サイケデリックと呼ばれた陰影に富んだサウンドを奏でるバンドたちこそスピンにとっての上流に位置するはずだ。そこにスピンの4人が影響を公言しているスミスやキュアーが支流となって合流したのが、彼らの音楽と言える。
一方で、そのキャッチーなメロディーはリヴァプールのネオ・サイケ・バンドのプロデュースを一手に引き受けていたイアン・ブロウディに通じるところがある。彼が率いるライトニング・シーズのポップ感が、まさにスピンにも受け継がれており、リヴァプール・サウンドの伝統が新世代にもしっかりと受け継がれていることがデビュー作『Spinn』を通して示されたと言っていいだろう。もちろん、その源流をたどるとザ・ビートルズへと至るのは自明の理だ。
スピンを筆頭に同郷のステアリング・シープやナイト・カフェ、グラスゴーのスピニング・コイン、ロンドンのシー・ガールズなど、ここ数年、かつてのようなメロディーをしっかりと聴かせるバンドの台頭を意識する頻度が高まってきている。勢いや鋭さが突出したバンド・サウンドへのカウンターとも言えそうだが、2020年はアート・パンク、ポスト・パンク勢に次ぐ第三勢力となっていきそうな予感もする。元々、UKにとってはお家芸とも言えるサウンドであり、その新たなシーンの中心にスピンを見出すことができる日も近いかもしれない。