IDLES
現行のポスト・パンク人気を牽引する5人が、ステレオタイプな価値観に〈Joy〉で抵抗?

 ファースト・アルバム『Brutalism』の発表から1年半、〈怠ける〉を意味するバンド名に逆らうかのように早くも2作目『Joy As An Act Of Resistance.』が到着! もっとも、UKのブリストルでこのアイドルズの原型が誕生したのは2009年だから、下積みは長く、いまの勢いを無駄にしたくなかったのだろう。とにかく今作は『Brutalism』に劣らぬ傑作であり、〈喜びで抵抗する〉という表題通りの建設的なプロテスト・アルバムであり、9月の初来日公演を観逃してはならない理由がまた加わった気さえするのだ。

IDLES 『Joy As An Act Of Resistance.』 Partisan/HOSTESS(2018)

 そう、昨今の英国ではキャベッジやシェイムをはじめ、70年代末期~80年代半ばにかけてのポスト・パンクに根差し、反体制的な姿勢や機知に富んだ言語表現を特徴とするバンドが続々と現れているが、なかでもアイドルズのアグレッションは突出していた。まさにブルータリズム建築のように重厚なノイズと咆哮を伴って、経済格差やメンタル・ヘルスにまつわる問題を提起。そんな自分たちの成功の理由を〈ナイーヴで無防備な自己表現にある〉と分析していた彼らは、さらに無防備になることを本作でめざしたという。

 よって主要なテーマはジェンダー論だ。男性性のネガティヴな側面に斬り込んで〈男らしさ〉の一般的定義を拒絶し、涙を流して繊細に愛を語るフロントマンのジョー・タルボットの歌は挑発的極まりない。それは同時に、第四波フェミニズムに同調する男性からの歓迎すべきアンサーでもあり、前作と比べて抑揚や変化のあるサウンド表現も絶妙に言葉と寄り添う。

 そしてもうひとつ特筆すべきテーマは言うまでもなく、EU離脱に揺れる英国社会。離脱反対派のアイドルズは“Great”で狭量な島国根性を嘲笑い、“Rottweiler”で排他的世論を煽ったメディアを糾弾しつつ、〈なぜ離脱派が勝ったのか〉と問うことも忘れない。絶望的な状況に置かれた人々に共感を寄せ、他方では英国の繁栄に貢献した移民たちに敬意を表す。このようにして常に均衡の取れた論調を維持し、音は獰猛でありながらとことんキャッチーで、ユーモアと知性と弱者への思いやりを交え、世の中に対する憤怒を分かち合う彼らの離れ業には感服するばかり。この勢いから察するに、次のアルバムもそう遠くないうちに届くに違いない。