ロンドンから現れた若き4人組、ブラック・ミディ。大胆不敵なそのサウンドは、通常のロック・カルテット編成でありながらも、独特の緊張感に満ちている。名門ラフ・トレードとの契約を経て届けられたデビュー・アルバム『Schlagenheim』は、すでに今年のベスト・アルバムとの呼び声も高い。
そんな彼らを、Mikikiは3つの視点から読み解く。前回お届けしたのは、BOREDOMSなどを影響元に挙げるブラック・ミディと日本のカルチャーとの関係性についてのコラム。それに続く今回は、imdkmが『Schlagenheim』のサウンドを分析し、小野島大がロック/ポップ・ミュージックの歴史から彼らの存在を考えた。9月の来日公演への期待も高まっているブラック・ミディに、2人の書き手が迫る。 *Mikiki編集部
『Schlagenheim』に聴く、ブラック・ミディという異形のファンク
by imdkm
ブラック・ミディの音楽を言葉で形容するのは難しい。それは言葉がみつからないからではなく、あまりにも言葉があふれてきてしまうからだ。あのジャンル、あの時代、あのバンド……とさまざまな連想が浮かんでは、微妙なズレに彼らの〈新しさ〉を確認することになる。
よく彼らの音楽はマス・ロックと言われるが、そうは思えない。マス・ロックといえば、タッピング奏法による複雑でメロディックなリフとか、変拍子やめまぐるしいリズム・チェンジを含む構成が思い浮かぶ。たしかに、たとえば5拍子と6拍子を往還する“953”や、ギターやベースの印象的なリフが反復し絡み合う“Western”はそれに近いかもしれない。
しかし、不穏なコードのストロークが淡々と繰り返される“Speedway”“bmbmbm”、シンプルなリフがグルーヴのニュアンスを変えつつ執拗に反復する“Reggae”“Ducter”は、マス・ロックが抱えがちな過剰さとは一線を画している。リズム・チェンジもここぞというポイントで一気に風景を変えてしまうような大胆さで挿入されるのが印象的だ。
最初に彼らを知ったときまっさきに連想したのは、ジェイムズ・チャンス&ザ・コントーションズなどの80年代ノーウェイヴのバンドだ。ロックンロールやジャズ、ファンクをパンクのアティチュードで解体し、再構築するかのような楽曲のつくりがまさしくノーウェイヴ的だと思えたからだ。
思い切っていえば、ブラック・ミディは異形のファンクだ。そのことは本作でいえば“Ducter”がもっとも顕著だろうか。付点8分音符を中心にしたギター&ベースのリフに対して、変則的なパターンを鳴らしつつしばしば三連符を挟み込むドラム。ジェイムズ・ブラウン流のファンクをドライに換骨奪胎したかのような演奏が、奇妙にもダンサブル。これもまた、コントーションズがJBのナンバーを彼らなりに再解釈してカヴァーした演奏を思い起こさせる。
その系譜から見ると、リズムに対する鋭敏な感覚や演奏の図抜けたタイトさこそ、彼らの最大の特色であるように思える。また、ドラマティックな展開を巧みに取り入れることで、ノイジーでありながら一曲一曲がきわめてキャッチーに響いているのも強みだろう。長時間のジャム・セッションを経て練られたフィジカルな快楽と、ドラマティックなカタルシスの両立。ノーウェイヴ流ファンクの再生産からは一歩はみ出たポピュラリティーを獲得しているのは、この点によると見ている。