COLUMN

Homecomings福富が綴る、ナイト・フラワーズと過ごしたイギリスでの日々

ナイト・フラワーズ『Fortune Teller』

Homecomings福富が綴る、ナイト・フラワーズと過ごしたイギリスでの日々

UK/ロンドンを拠点に活動するギター・ロック・バンド、ナイト・フラワーズがセカンド・アルバム『Fortune Teller』をリリースした。前作からメンバー交代を経ての同アルバムは、憂いを帯びたシューゲイザー・サウンドは変わらずも、ソングライティングに磨きがかかり、よりポップに進化。すでに本国メディア〈the wee REVIEW〉ではフリートウッド・マックの名が引き合いに出されるなど、高い評価を受けているようだ。

今回は、昨年11月に開催したナイト・フラワーズの来日公演で共演(Mikikiでは両者の対談も実現!)。さらに今年の4月にはナイト・フラワーズ主催でUKツアーを行った京都出身の4人組、Homecomingsのギタリストである福富優樹が『Fortune Teller』を糸口に、彼らと過ごしたイギリスでの日々を綴った。写真はHomecomingsのベーシスト、福田穂那美によるもの。

 

引っ越してきたばかりの町へと帰る、まだ乗り慣れない電車の中で届いたばかりのナイト・フラワーズの新作『Fortune Teller』を聴いたとき、窓の外に流れるまちの光やネオン、このまま朝まで光り続けるのだろうファミレスの大きな看板。大きな川と橋、工場、建設中の大きな建物と点滅するクレーンの先のライト、そんなひとつひとつの風景がやけに煌めいてみえた。体に馴染んでいない景色の中で聴くナイト・フラワーズの音楽。季節はぐるっと変わって冬と春の間のイギリスの夜の匂いが鼻の奥にツンとする。

NIGHT FLOWERS Fortune Teller Dirty Bingo/RIMEOUT(2019)

 今年の4月のはじめに、僕たちはナイト・フラワーズと一緒にイギリスをツアーして回った。ロンドン、バーミンガム、シェフィールド、ウェールズのカーディフを挟んで、ナイト・フラワーズのメンバーの故郷でもある街、ハルを廻るツアー。ツアー中は、自分が音楽を続けてきたなかでなんとなく〈いつか実際に見ることが叶えばいいな〉とぼんやりと頭の片隅で考えていたような景色がずっと目の前に広がっていて、いくつになっても絶対に忘れないような一週間だった。

ひび割れたレンガの街。レコード屋。フィッシュ&チップス。一晩中走り続ける2階建ての真っ赤な市バス。公園。街の真ん中で静かに眠るメリーゴーラウンド。路面電車の線路の溝。大きな橋。お菓子みたいな色のビール。外国のチョコレートのひりつくような甘さ。パブの喧騒とパンクスたち。道路や街灯に張り付くような寒さ。そんな夜にナイト・フラワーズの音楽はぴったりだった。

 
 
 

それと同時にそういった風景たちのひとつひとつが、彼や彼女の音楽を生み出す小さな小さな火種のようなものなのだろう。メンバーのふたりが育ったハルの街の曇り空もそうで、それは僕が育った海の側の小さな街にも似ていて少し嬉しかった。ハルはトレーシー・ソーンとベン・ワットが通っていた大学がある街で、ライヴ後に話しかけてきてくれたお客さんはみんな、そのことを「知ってる?」と教えてくれた。「ふたりは街のささやかなヒーローなんだよ」と興奮気味に教えてくれた男の子は「いつか自分も曲を書いて演奏してみたいんだ」と言っていた。ささやかな何かがずっとつながっている街なんだな、と思った。

ツアーの終盤に立ち寄ったモーターウェイのサービス・エリアでメンバーのみんなと新聞を広げて色々な話をした。このツアーのこと、未来のこと、昔のこと、それぞれの国のこと、差別のことや争いや悲しい出来事のこと。ちょうどその日の朝刊にはEU離脱についての新しいニュースが大きく載っていて、みんなにとってそれは本当に大きな問題なんだ、と教えてくれた。

 
 
 

初日の夜に食べたびっくりするぐらい美味しかったトルコ料理のお店で働くおじさんも、ハルの街で出会ったフィッシュ&チップスのお店を営む家族も、ロンドンの書店でおすすめのZINEを丁寧に教えてくれた女の子も、単なる制度という意味以上のなにかによって、嫌な思いをしたり傷つけられたりしてしまうかもしれない。ナイト・フラワーズのみんなはとてもタフで優しくて、今がどれだけよくない状況でも、自分たちがなにかを表現することにすごく意識的でそれでいてロマンチックだ。そして自分たちの音楽を思いっきり楽しんでいる。

インディー・ポップだけがもっている煌めきと、でもそれだけじゃない力強さとサイケデリアがナイト・フラワーズのライヴにはあって、この新しいレコードにもそんな彼や彼女たちの魅力が詰まっている。“Fortune Teller”や“I've Loved You(Such A Long Time)”といったギター・ポップ/ドリーム・ポップも“Carry On”や“NIght Train”のようなオルタナティヴも全部ごちゃまぜにして、映画のなかで永遠に回り続けるメリーゴーラウンドのように美しい音楽。何度も何度も眩しく寒い夜を通り越して、またこうやって新しいレコードが遠く離れた僕たちにも届くことをとてもうれしく思う。

『Fortune Teller』表題曲
 
『Fortune Teller』収録曲“Night Train”
 
関連アーティスト
40周年 プレイリスト
pagetop