2015年にリリースした日本限定のミニ・アルバム『Night Flowers』が、異例のロングラン・ヒットを記録したナイト・フラワーズが、ファースト・アルバム『Wild Notion』を引っさげ再来日を果たした。

ティーンエイジ・ファンクラブや初期マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ジーザス&メリーチェイン辺りを彷彿とさせるメランコリックなメロディーや、シューゲイズ~ドリーム・ポップ直系のギター・サウンド、そして、疾走感溢れるバンド・アンサンブルが身上の彼ら。東京、大阪、名古屋の3か所で開催されたそのライヴ・パフォーマンスは、前回をさらに上回るクォリティーでオーディエンスを魅了し、大盛況のうちに幕を閉じた。しかも今回は、10月にサード・アルバム『WHALE LIVING』をリリースした、京都を拠点に活動する4人組Homecomingsが東阪公演のサポート・アクトとして参加。本番ではお互いのライヴをステージ袖で熱心に見守るなど、相思相愛っぷりを見せつけていた。

今回Mikikiでは、東京公演の開場前に、ナイト・フラワーズからはソファイア・ペティット(ヴォーカル/キーボード)とグレッグ・ユルヤート(ヴォーカル/ギター)を、Homecomingsからは畳野彩加(ヴォーカル/ギター)と福富優樹(ギター)をお呼びして、座談会を敢行。お互いの音楽性についてはもちろん、ツアーの裏話などもたっぷりと語り合ってもらった。

『Wild Notion』収録曲“Cruel World”

 

共通点はティーンエイジ・ファンクラブへの愛情!

――今回、大阪では一緒に寿司を食べたんですって?

福富優樹(Homecomings)「そうなんです。〈じねん〉という有名なお寿司屋さんがあって、そこへみんなで一緒に行きました。総勢11人だったので、きっと席もバラバラになっちゃうだろうなと思ったんですけど、ちょうどカウンターが空いていて。みんなでズラーッと並んで一緒に食べることができたんです。お店の職人さんも、メンバーたちと英語でコミュニケーションしてくれて、とても和やかなひとときを過ごせましたね」

グレッグ・ユルヤート(ナイト・フラワーズ)「とても貴重な体験だった! もちろん僕ら、寿司について詳しいわけじゃないんだけど、お店に入った瞬間に〈ここはいい店だ〉ってわかったよ。そしてお寿司の味ときたら……」

ソファイア・ペティット(ナイト・フラワーズ)「最高! いままで食べた、どの寿司よりも新鮮で美味しかったな。あ、でも前回、魚市場へ朝4時に連れて行ってもらったんだけど、それも素晴らしい体験だったわ」

グレッグ「ロンドンにも寿司屋はあるけど、あんまり美味しくないんだよ。それでも普通のイギリス料理よりはマシだけど」

ソファイア「アハハハ(笑)」

福富「ロンドンでオススメの料理は何ですか?」

ソファイア「うーん、テムズ川沿いのパブで食べるサンデーローストかしら」

※イギリスの伝統的な料理。ローストした肉、ジャガイモに、ヨークシャー・プディング、ファルス、野菜等を付け合わせたもの

グレッグ「海のほうまで行けば、フィッシュ&チップスもなかなか美味しいと思う。潰したエンドウ豆を混ぜた、マッシュポテトの付け合せがオススメだね。もしイギリスに来る機会があったらぜひとも連れて行くよ」

ソファイア「わあ、近いうち一緒にUKツアーなんてできたら最高ね!」

――ソファイアもグレッグも、ホムカミのことは前回の来日ツアーのときに知ったんですって?

グレッグ「そうなんだ。車で移動中に、ホムカミの前作『SALE OF BROKEN DREAMS』(2016年)を聴いてとても気に入ってさ。ライヴ会場でも転換中に流してもらったんだよね。だから脳に刻み込まれちゃったよ(笑)」

畳野彩加(Homecomings)「そうだったんですね! 嬉しい」

――どんなところに魅力を感じますか?

グレッグ「とにかくメロディーとハーモニーの美しさだよね。4人が醸し出す空気感も、とってもいい」

『SALE OF BROKEN DREAMS』収録曲“PERFECT SOUNDS FOREVER”
 

ソファイア「女性メンバーが3人で、男性メンバーは1人っていうバランスもいいし。三姉妹で歌っているみたいじゃない(笑)? 音楽的なルーツに関しては、間違いなく私たち一緒よね」

――2バンドの共通点として、ティーンエイジ・ファンクラブの大ファンというのがありますよね? グレッグが日本到着時に着ていたTFCのTシャツがひそかに話題になっています。

グレッグ「本当に? 実は今回、同じやつを2枚持ってきたんだけど、信者だと思われるからもう着るのはやめておこうかな(笑)」

福富「前に(TFCの)ノーマン・ブレイクがソロで来日したとき(2013年)、サポート・アクトを務めたんですけど、そこからInstagramをフォローしてくれたんですよ」

グレッグ「え、羨ましいな(笑)。そういえば僕も一度、ノーマンにリプを送ったことがあるよ。マーク・ハミルの最近の写真と一緒に、ツイートしたんだ。そしたら〈いいね〉してくれた(笑)」

――確かに、ノーマンと最近のルーク・スカイウォーカーは似てるかも(笑)。

グレッグ「どちらもジェダイ・マスターだよね」

一同「笑」

 

母国語じゃない言葉で“HURTS”みたいな曲を作れるなんてすごいよ

ソファイア「あと、ホムカミはメロディーの抑揚やスケールに〈日本らしさ〉みたいなものがあって、そこも好きだな。新作『WHALE LIVING』は日本語の歌詞になったでしょう? それもすごくいいなと思う。意味はわからないんだけど、言葉の響きがとても美しくて。もしイギリスで演奏する機会があれば、そのときは日本語の歌詞のほうが受けるんじゃないかな」

グレッグ「確かに。でも、さっきもメンバーと話してたんだけどさ、例えば前作に入っていた“HURTS”みたいな曲を、自分たちの母国語じゃない言葉で作っちゃうのはすごいと思うんだよね。ちなみに今回は、どうして日本語で歌おうと思ったの?」

福富「僕ら、デビュー時からあまり変わっていないように見えるかもしれないけど(笑)、実はアルバムを出すたびに毎回新しいことにいろいろ挑戦していて。その流れで自然とこうなった部分もあるし、いよいよサード・アルバムということで、いままでとは違う〈特別な作品〉を作りたいという気持ちがあったんですよ」

ソファイア「作詞を日本語にしたことで、作曲の方法も変わった?」

福富「そこは毎回変化していて。最初の頃は(畳野)彩加さんが書いた歌詞に僕が曲を付けていたんだけど、最近は彩加さんがある程度作り込んだデモを作り、歌詞は僕が書くことが増えてます」

畳野「今回は日本語ということで、良くも悪くも意味がダイレクトに伝わりやすくなるので、そういうときに自分はどういう気持ちで言葉を発し、歌を歌うのかという〈立ち位置〉みたいなものを決めるまでが結構難しかったんです。感情を入れすぎないのが、ホムカミのいままでの良さだったとも思うので。今回、日本語詞は福富くんが書いてくれたんですけど、ストーリーの部分はいままでと変わらない世界観にしてくれたので、私はそれを語り部として歌うというスタイルにしました。そこに落ち着くまでは、結構大変でしたね」

福富「僕はアメリカ文学や映画に大きな影響を受けていて、その要素に自分が見ている景色を掛け合わせていつも曲を作っているんですけど、そういう世界観に関しては、いままでとちゃんと地続きにはしたくて。そこは確かに気をつけました」

グレッグ「なるほど。そういえば“HURTS”の歌詞で〈in the mind unfinished script get a bus to the sea〉というところとか、ほんとうに映画っぽいよね。アルバムごとに、毎回コンセプトをしっかり決めているんだね?」

福富「はい。例えば前作『SALE OF BROKEN DREAMS』では、架空の街をイメージして、そのなかにいるさまざまな住民たちについてのショート・ストーリーを、各曲に落とし込んでいきました。今作は〈WHALE LIVING〉という長編小説をイメージして、そのなかの各シーンについて描写した曲を入れているんです」

ソファイア「わあ、すごい。とっても素敵なアイデアね」

――今作は、冒頭曲“Lighthouse Melodies”から一気に引き込まれますよね。あの曲はどんなイメージで作ったんですか?

福富「物語の導入になるような、本編のストーリーとは関係ないエピソードを入れたかったんです。例えばコーエン兄弟の映画とか、冒頭にストーリーを象徴したようなエピローグを入れるじゃないですか。ドラマ版の『ファーゴ』の第一話とかもそうだったんですけど、その感じをアルバムでできないかなと思って。“Lighthouse Melodies”は、舞台となる街で代々歌われている子守唄をイメージして作りました」

グレッグ「とても興味深いよ。あと、“Hull Down”ではレコードのノイズが入っていたりするじゃない? すごくアンビエントな感じがしたし、アルバムをイヤホンで聴きながら夜のロンドンを自転車で走っていると、周辺の音と溶け込んですごく気持ち良かったよ」

 

〈ひと手間〉を加えることで手触りが変わる

畳野「ナイト・フラワーズはどんなふうに曲を作っているんですか?」

グレッグ「僕らも毎回違うね。いいメロディーが天から降ってくることもあるし……」

ソファイア「そうね、そういうのは大抵が名曲になる」

グレッグ「あるいは……そうだな、僕らいちばんのお気に入りでもある“Glow In The Dark”は、ヴァースの部分がずっと前からストックしてあって、でもなかなかコーラスが思い浮かばなくてね。いろんなパターンを何度試してもピンとこなかったんだけど、ある日いきなりひらめいたコーラスがあって、それをくっつけたら見事にハマったんだ。そうやって、別々に作っていた素材を組み合わせた曲は他にもあるし、あるいはギターリフから作りはじめる曲もある。メンバーの誰かが丸ごとアイデアを持ってくることもあるしね」

ソファイア「私も思いついたアイデアは、iPhoneのヴォイス・レコーダーにたくさん録りためてあるわ」

福富「歌詞はどうやって考えているんですか?」

グレッグ「多くの曲は僕が書いているんだけど、ソファイアと共作する場合もある。曲と同じで、元は別々に考えていた歌詞をつなぎ合わせることもあるよ。最近はメンバー全員での共作が増えてきたかな。ツアーで一緒にいる時間も長くなったし、こっちで僕らが一生懸命に曲を作っているときに、フラッとやってきたメンバーの一言が、ものすごく的を射た指摘だったりして。そこでガラッと展開が変わることもあるしね」

ソファイア「そういえば、『WHALE LIVING』はアートワークもとっても素敵ね」

福富「ありがとう。あれは、イラストレーターのサヌキ(ナオヤ)さんが描いたイラストを壁紙に印刷して、実際にそれを壁に貼り付けてから撮影してるんですよ」

グレッグ「そうだったんだ。どこかヴィクトリア朝の壁紙を彷彿とさせるのは、そういう〈ひと手間〉が加えられているからなんだね」

福富「そうなんです。その〈ひと手間〉が、自分たちにとってはとても大事で」

グレッグ「わかるよ。そうすることで質感や手触りも伝わってくるからね」

『WHALE LIVING』のジャケット画像

 

女の子に生まれていたら良かったなと思う

――ナイト・フラワーズの新作『Wild Notion』のジャケットも、ちょっと不思議な色合いですよね?

ソファイア「実はあれ、モノクロで撮った写真をゼロックスで何度もコピーを繰り返して、画質を荒くしたうえでグレッグが色を付けてるの。だから、ホムカミがやっていることには、とても共感する。音楽をヴィジュアル・イメージとしてどう見せるか?ということは、常に考えていて。アルバムのなかには、他に16枚の写真が入っているんだけど、それも同じような加工が施してあるの」

畳野「へえ! おもしろい!」

グレッグ「おそらく、見た人は何が映っているのかよくわからないと思うんだけど、僕らにとってはとても思い出深い写真だったりするんだよね。例えば道ばたで出会った野良猫とかさ。人の記憶って、振り返ってみたときにそのままの色じゃなくて自分のなかのフィルターを通して眺めたようなイメージになるじゃない? それをなんとか表現できないかなと思ったんだ」

『Night Notion』のジャケット画像
 

――まだまだ両者の共通点などお訊きしたところですが、お時間がきてしまいました。今夜のライヴの成功はもちろん、以降も2バンドのいい関係が続くことを願っています!

ソファイア「最後に1つユウキ(福富)に訊いていい? 女性のなかで男性1人ってどんな気分(笑)?」

福富「それ、よく訊かれるんだけど、ただただ僕は3人のことが大好きで、一緒にいるのが楽しいっていう気持ちだけなんですよね。ただ、ツアーの合間にみんなで銭湯とか行くと、1人だけで入らなきゃならないからそれは寂しいし、女の子に生まれていたら良かったって思う(笑)。ソファイアは、男性のなかに1人女性でどう?」

ソファイア「そうね、ツアー中は、私だけ個室をもらって男性陣は相部屋ということもあるから、結構気楽でいいかも(笑)。ただ、私がいないところで彼らが何をやってるのかは知らないけど」

グレッグ「よくソファイアが訊くよね、〈あなたたち、朝から何そんな疲れた顔してんの?〉って」

一同「笑」

 


Homecomings Live Information
「LETTER FROM WHALE LIVING」TOUR
2018年11月30日(金)広島・広島4.14
2018年12月1日(土)福岡・福岡UTERO
2018年12月8日(土)石川・金沢GOLD CREEK
2018年12月15日(土)北海道・苫小牧ELLCUBE
共演:NOT WONK/YOU SAID SOMETHING
2018年12月16日(日)北海道・札幌COLONY
共演:NOT WONK
2018年12月22日(土)大阪・梅田シャングリラ
2018年12月24日(月・祝)愛知・名古屋APOLLO BASE
2018年12月25日(火)東京・渋谷CLUB QUATTRO
※北海道の2公演以外はワンマン・ライヴ
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