ロンドンは自分が持ってるアーバンさみたいなものに近い

――次に、ロンドン。

「ロンドンのエンジニアは陽気って感じじゃなくて、自分の仕事にプライドを持ってて、ちょっと神経質で、それがまたいいように作用するんですよね。ディテールまで諦めずにものすごい根を詰めていって。最後にマスタリングをロンドンでやって、生まれた場所と食べ物と言葉が違うと全然音が違うなあとは思ってたんですけど、その違いはすごく出たなあと思って。LAで録った曲って天井が開けてる気がするんですけど、ロンドンで録った曲たちは、なんかこう、曇りというか。まあイメージですけどね。でも実際、陽気じゃないですよね、なんかもうちょっとアーバンな音がするというか、アーバンな乾きみたいな(笑)」

――ロンドン録音であるインコグニートのブルーイがプロデュースした曲“She’s Gettin’ Married”は、元ジャミロクワイのスチュワート・ゼンダーも入っていて、曲を聴いたときには陽のイメージを受けたんですが、今の話をうかがって、さかいさんが体験された環境との違い、ギャップが逆に面白いと思いました。

「確かにジャミロクワイもインコグニートも会場のテンションを上げてくれるバンドなんだけど、アメリカの、なんかこう、ハンバーガー感がないというか(笑)、ルーズさがないというか。キッチリしてるじゃないですか、ハットにしろスネアにしろキックにしろ。ブルーイが意外といちばん厳しかったですね、音程とかリズムとか。僕もそっち寄りで細かいほうなんで、〈今の違うね、Again、Again〉というやりとりはありましたね。同じテンションで〈Again〉って言ってた。だからなんか、東京とロンドンは似てると思うんですよね。大陸と接してない島国の隔離されたアーバン感というか。なんかこう、ブルーイもスチュワートも、内に秘めた陽気さなんですよね。

たとえば、ちょっと泣きそうになったときに涙を隠したくなるっていう発想は、ブラジル人にはないんで。今回、サンパウロでルイスっていうエンジニアにずっとお世話になったんですけど、彼は泣くと〈俺は泣いてるぞ〉とアピールするんですよ(笑)。感動を隠さないというか。日本人とイギリス人は、感動をパッと隠しちゃう。そこがちょっと分かち合えるところなのかなあと思ったりしますね。

だからロンドンは自分が持ってるアーバンさみたいなものに近くて、NYやLAに行くほうが、むしろちょっと戦いに行ってる感じになりましたね。ロンドンのほうが楽っていうか、似てるのかなあって思ったりしましたね。僕もアメリカにいるときは神経質じゃないふりを、英語を喋りながらしてるんですよ。じゃないとスッと打ち解けられないから。でもロンドンにいるときは、このテイクが気に入ってないわけじゃないんだけど、もう1テイク録りたいっていう僕と、エンジニアが一緒の顔をしていたり。ロンドンとサンパウロがいちばん真逆だというぐらい違うし、要素が全くかぶってないというか。まあ、サンパウロがいちばん違うなあと思いましたけど、それはそれで感動しましたね。なんか自分にない感動ってものを出せるというか」