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アニメやゲームで描かれる〈世界の終わり〉と自身のアート・コンセプト

アニメ好きアーティストとして知られるグライムスだが、アート・コンセプトを強化する引用がたくみな芸術家でもある。『Miss Anthropocene』のラストに座する“IDORU”のMVでフォーカスされるコンテンツは、PS4ゲーム「ニーア オートマタ」、そしてアニメ「少女革命ウテナ」シリーズである。

『Miss Anthropocene』収録曲“IDORU”

この2作、そして前出“My Name Is Dark”でとりわけフィーチャーされた「エヴァンゲリオン」には、ある共通点がある。かたちはちがえど、どれも黙示録的なモチーフを持つシリーズなのだ。世界の破壊とあらたなる創造、またはポスト・アポカリプスと言ってもいいかもしれない。“My Name Is Dark”に挿入される「小林さんちのメイドラゴン」にしても、基本的にはほのぼのとしたアニメだが、人間社会を破滅に追いやれるほどの力をもったドラゴンが別世界からやってくる物語であるし、シーズン1のラストには〈終焉帝〉なるキャラクターが登場している。これらの作品群は、すべての曲でなんらかの〈世界の終わり〉が描かれていくコンセプト・アルバム『Miss Anthropocene』とみごとに共振する。

これは世界の終焉の音
夜の果てまで共に踊ろう

狂気、知性、大胆さ、真実、そしてその欠落
きっとそれが私達の命を奪う

(“Before The Fever”より)

『Miss Anthropocene』収録曲“Before The Fever”

 

〈世界の終焉を楽しむ女神〉を演じるグライムス

『Miss Anthropocene』は、一体どんなアルバムなのか。ことのなりゆきとして、2018年ごろ、テスラ社CEOのイーロン・マスクと交際したグライムスの注目度が激増した一件がある。DIYアーティストとして知られる彼女と億万長者の恋愛は奇抜なゴシップとして取り上げられていき、ファンのみならずミュージシャン仲間からも反発を買っていった。

コントロール不能な報道合戦やバッシングによって〈独立した芸術家〉としての地位を脅かされたグライムスは、ひとつの答えにたどりつく。〈悪役にされつづけるのなら、芸術的にそれを追及したい〉。そうして創造されたアルバム『Miss Anthropocene』のタイトルは〈気候変動を擬人化した女神〉を意味するそうだ。環境問題に危機感を抱いてきた彼女は、みずからを〈世界の終焉を楽しむ女神〉に見立てることでヴィランを演じてみせたのである。

『Miss Anthropocene』収録曲“4ÆM”

「バットマン」シリーズのジョーカーこそ映画が生み出した最高の存在であり、大衆は「アベンジャーズ」のサノスを熱烈に愛している……そう主張する本人いわく、このアルバム・コンセプトは気候変動を〈楽しいもの〉にする試みなのだという。多くの人が語りたがらないシリアスなイシューを邪悪で魅力的なキャラクターにしてしまえば、人々を楽しませるかたちで広めることが可能、というわけだ。

ややスキャンダラスなテーマだが、すぐれた悪役が人々を魅惑すること自体は否定できないだろう。「ジョジョの奇妙な冒険」のディオ・ブランドーや「美少女戦士セーラームーン」のネヘレニア、「鬼滅の刃」の鬼舞辻無惨など、日本のポップ・カルチャーにおいてもファンを夢中にさせるヴィランは日々生まれつづけているのだから。