天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野による〈Pop Style Now〉。毎週金曜日にお送りしておりましたが……」
田中亮太「諸般の事情で月曜日に変更となりました! コンセプトや形式は変わらずですが、前週の金曜日にリリースされたアルバムの話がしやすくなりましたね。週末に話題だったのは、1975の新作〈ネット上の人間関係についての簡単な調査〉。なんつう邦題や」
天野「原題『A Brief Inquiry Into Online Relationships』ですね。あとはミーク・ミルの『Championships』も超話題。出所後初のアルバムで、仲が悪かったはずのドレイクが参加してたり、ジェイ・Zが微妙な関係のカニエについてラップしてたり」
田中「それに前々回の〈PSN〉で取り上げたアール・スウェットシャツも『Some Rap Songs』を出しました。奇天烈なサウンドで最高でした」
天野「そんな充実の一週間を5曲でご紹介。まずは〈Song Of The Week〉!」
Blood Orange & Yves Tumor feat. Ian Isiah “Smoke (Remix)”
Song Of The Week
天野「〈SOTW〉はデヴ・ハインズ=ブラッド・オレンジの新曲“Smoke (Remix)”です! 〈新曲〉とはいっても、8月にリリースした新作『Negro Swan』の収録曲のリミックスとなっています」
田中「ギターの弾き語りが中心だった原曲から、ダビーで実験的なプロダクションに変化していますね」
天野「ですね。参加しているのは、今年最大の話題作『Safe In The Hands Of Love』を放ったイヴ・トゥモア。それと、ブルックリンのアンダーグラウンドなシンガー、イアン・アイザイアです。前半のウィスパー・ヴォイスがイヴ・トゥモアで、後半の中性的な歌声がアイザイアですね」
田中「何より話題になっているのが、この曲が亡きマック・ミラーに捧げられているという点ですよね」
天野「そうなんですよ……。最後のラップはブラッド・オレンジによるものですが、〈RIPマイ・ボーイ、マック〉というラインに胸がぎゅっとなりますね。実に感動的で美しいレクイエムです」
Chance The Rapper feat. Joey Purp “My Own Thing”
天野「2曲目はチャンス・ザ・ラッパーの新曲“My Own Thing”。クリスマス・ソングの“The Man Who Has Everything”と同時リリースされました。客演しているのは、同郷シカゴのジョーイ・パープ」
田中「チャンス・ザ・ラッパーは今年、すでに4曲もの新曲をリリース済みですよね」
天野「そうなんですよ! そのうち何曲は〈サマソニ〉で披露してましたね」
田中「これで今年リリースされたのが6曲。そろそろ『Coloring Book』(2016年)以来となる待望のアルバムが聴けそうな予感なので、そちらも楽しみです」
天野「ええ。それでこの“My Own Thing”なんですが、今年チャノがリリースした楽曲群のなかでも、彼らしさがいちばんわかりやすく詰まった最高のチューンだと思いました」
田中「イントロで跳ねるゴスペルっぽいピアノやお得意の〈Igh!〉というシャウト、タメの効いたファンキーなグルーヴ……確かに、これぞチャンス・ザ・ラッパーって感じですね」
天野「ですです。僕が彼の音楽に求めるエッセンスがぎゅっと凝縮してますね。ローリング・ストーン誌は〈ヴィンテージ・チャンスに近いね〉なーんて書いてますけど、僕はこういうのが聴きたかったんです!」
FKJ “Is Magic Gone”
天野「続いてはパリの新星、FKJの新曲“Is Magic Gone”です」
田中「もちろん〈新星〉なんですけど、アルバム『French Kiwi Juice』がスマッシュ・ヒットしたので、〈彼のことはもちろん知ってるよ〉って人も多いのでは?」
天野「〈TAICOCLUB'18〉でも来日してましたしね。Mikikiでは、レヴュー記事が毎日のように高アクセスを記録してておなじみだったり。エレクトロニック・ミュージックのプロデューサーとはいえ、楽器演奏にすっごく長けてて、オーガニックでメロウでスムースなサウンドを得意とするのがFKJです」
田中「トム・ミッシュやマセーゴとも仲良しで、こういうマルチな才能たちがグローバルに繋がっているのも実に2010年代っぽくて、おもしろいですね」
天野「まさに。この“Is Magic Gone”は流れるようなジャジーなピアノのイントロにビート、ベース、ギター、ヴォーカルが絡み合っていく展開が見事ですね。特にヴォーカルのエディットやエコーの掛け方も素晴らしくて。緻密で繊細なサウンド・デザインだけど、パワフルさを感じさせる快曲です」
田中「新曲が出たっていうことは、アルバムも控えているんでしょうか? あの『French Kiwi Juice』に続く新作、早く聴きたいところですね」
Grimes “We Appreciate Power”
田中「続いては、グライムの“We Appreciate Power”。2015年リリースの前作『Art Angel』以来なので、かなり久しぶり。待望の新曲と言えるでしょう!」
天野「〈PSN〉でも紹介したジャネール・モネイやポピーら対外的なコラボはいろいろありましたけど、ソロの新曲はようやくって感じです」
田中「作曲とプロデュースは、彼女と長らく共同作業をしているHANA。ヘヴィーなギター・リフとインダストリアルなダンス・ビートがパンチ力抜群。ナイン・インチ・ネイルズかよ!とツッコミたくなるようなエレクトロ・ポップ(ロック?)です」
天野「途中のスクラッチなんてラップ・メタル調ですよね。なんでもインスピレーションとなったのは、北朝鮮の牡丹峰楽団なんだとか……?」
田中「人工知能の普及を促すために、歌やダンスを駆使するAI・ガール・グループの楽曲というテーマで作られたそうですよ。〈パワーを称賛せよ〉ってラインがプロパガンダ的。いわずもがな状況主義的なパフォーマンスでしょうし、もうっ知的なんだから!」
Pinty “Tropical Bleu”
田中「最後は、ピンティのおそらく初音源“Tropical Bleu”。ほとんど知られてないかと思いますが、ジェイミー・アイザックのミクステなどに参加していたMCみたいです。サウンドに漂う気怠いメランコリアが、いかにも南ロンドンのムードだなと思ったら……」
天野「なんと、この曲はキング・クルールことアーチー・マーシャルがプロデュースとのこと!」
田中「名義は、2010年前後に使っていたという〈DJJDSPORTS〉のようですね」
天野「洒脱だけどトリッピーでスペーシーで、一筋縄ではいかない感じ。ベースラインとアナログ感バリバリのシンセ・サウンドはストレンジだけど、ジャジーなビートは実にクールです」
田中「めちゃアーバン! 乱暴な言い方ですけど、僕がレコード屋の店員だったら〈アンダーソン・パークへの南ロンドンからの回答……〉とポップに書いてしまいそうです」
天野「でも、退廃感やダウナーな感じが強いですよね。プーマ・ブルーが〈音の魔術師〉と紹介したマックスウェル・オーウィンも関わってたり、ジャズ・シーンがブロークビーツやラップ・シーンなんかとも関わり合ってるロンドンは、やっぱりユニークですね」
田中「この曲を収録したデビューEP『City Limits』は来年リリース予定。では、今週も素敵な音楽ライフを!」
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