今週必聴の5曲

天野龍太郎「みなさんこんにちは。Mikiki編集部の田中と天野がお送りする〈Pop Style Now〉、スタートから3週目となりました」

田中亮太「今週は、パラモアがジェイ・ソムとサッカー・マミーをツアーのフロント・アクトに迎えるというニュースが良かったですね。なんてグッとくるメンツ……」

天野「(無視して)まずは今週のSong Of The Week!」

 

Janelle Monáe Feat. Grimes “Pynk”
Song Of The Week

天野「映画『ドリーム』(2016年)での存在感も抜群だったジャネール・モネイ、実に5年ぶりのアルバム『Dirty Computer』からのリード・トラック“Pynk”です。パワフルなメッセージも含めて、まさにSong Of The Week! 『Art Angels』(2015年)でポップに振り切れたグライムスも参加していて、本当に話題の一曲です。

シスターフッドを提示したビデオがすごいです。ジャネールの履いている〈ヴァギナ・パンツ〉(!)のデザイナーはデュラン・ランティンクという人だとか。なんだかビョークみたい。〈プッシー・パワー〉を称揚する“Pynk”は、まさに現代的なフェミニズムをテーマにしていて、女性たちを鼓舞する曲だと思います。〈ピンクは女性の色〉というのは典型的なステレオタイプですが、それを逆手に取ったジャネール。〈男の子たちがブルーだったらクールだね/でも私たちはピンク!〉っていうフレーズが最高です」

 

Jenny Hval “Spells”

田中「ジェニー・ヴァルはノルウェー出身のシンガー・ソングライター。90年代にはゴス・メタルのバンドをやっていたようで、キャリアは短くない人ですが、セイクリッド・ボーンズから2016年にリリースした5作目『Blood Bitch』が高く評価されました。以降は、ケリー・リー・オーウェンスやリンドストロームの楽曲にフィーチャーされたり、小説を発表したり……才人ですね。

出自をふまえると納得のオカルティックな陰りと、ホーリーな崇高さを併せ持つエクスペリメンタル・サウンドで、多くの(自分も含む)潜在的なゴスっ子たちを虜にしてきましたが、この新曲はいつになく陽性! たおやかな鍵盤と温かみのある管楽器の音色には包み込むような優しさがあって、うららかな春の日に聴くと、ちょっと泣いてしまいそう……」

 

Drake “Nice For What”

天野「ドレイクの最新曲。僕は今週、ずっとこの曲を聴いていました。聴くたびにテンションがアガる。なんといってもこの“Nice For What”はプロダクション、ビートですよね。まず、ローリン・ヒルの“Ex-Factor”っていう大ネタ中の大ネタを全編に使っちゃうその大胆さ! あとはニューオーリンズ・バウンスのマナーに則ったこのファットなビート。もうキックの音がすっごい太いんです。イヤホンで聴いていても、その鳴りがすごくて。

プロデューサーはこれまでにもドレイクの曲を何曲か手掛けているマーダ・ビーツですが、バウンスのヴェテラン・プロデューサーのブラックンマイルド(BlaqNmilD)も携わっていることが話題です。この曲についてFADERがインタヴューしているので、それも必読。ドレイクは新曲を立て続けにリリースしているし、アルバムも出るのかな?」

 

Nicki Minaj “Barbie Tingz”

天野「昨日公開されたばかりの、ニッキー・ミナージュの一年ぶりの新曲です。同時に“Chun-Li”という、言わずもがな、『ストリートファイター』のキャラクターの名を冠した曲もリリースしています。ニッキーは前回紹介したキャッシュ・マネー内のヤング・マネーというレーベルからデビューした、NY出身のラッパーです。カニエ・ウェストの“Monster”(2010年)で怒涛のラップをかまして一気にその名を上げた人ですね。

彼女はもともとバービー人形っぽいヴィジュアルですけど、この曲はまさに〈バービー〉な曲。〈プッシーも顔も最高の私みたいにみんななりたがってるの〉って歌ってますね。プロデューサーはアトランタ、チェヴィー・ミュージックのJ・レイドという人です。サウスの伝統的なサウンドと80年代のヒップホップを思わせる荒々しいビートが同居してて最高! このスカスカ感は、ちょっとクリプスの“Grindin’”(ネプチューンズ作)に似てるかも。トラップ一辺倒なシーンの潮流とは一線を画する快曲です。アルバムも出してほしい!」

 

ALASKALASK “Meateater”

田中「最後は、ロンドンで活動する6人組、アラスカラスカの“Meateater”。昨年に発表したファーストEP『Alaskalaska』で知名度をあげたそうですが、僕はこの曲で知りました。一聴、時流のシンセ・ポップの一つとして脇に置かれてしまいそうなサウンドですが、4つ打ちをベースにしつつ細かくエディットされたビートにはちょっとポスト・ロック的な趣も。サックス奏者のメンバーが在籍しており、この曲でもパワフルなブロウが印象に残ります。件のEPでは、前衛ジャズやグランジの要素も散見できるなど、音楽的な懐は深いです。

リリックのテーマは〈ステレオタイプに区分化されることへのフラストレーション〉とのことで、ジャンルや枠に括られない音作りこそが、彼らの矜持なのかも。それにしても、このバンドも拠点は南ロンドン……同地のシーンはいまホントにすごいですね」