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僕らなりの〈フォーク〉を更新し続けたい

――まずは今日、タワレコで皆さんが選んだアナログ・レコードを紹介してもらえますか?

Ryu(ピアノ/ヴォーカル)「ジェフ・バックリィの『Grace』(94年)と、ボン・イヴェールの『For Emma, Forever Ago』(2007年)を選びました。どちらも大好きなアルバムですね。

『Grace』は“Hallelujah”が有名ですが、ギターと歌のみでこれだけ成立するんだと驚かされました。ボン・イヴェールは、個人的にはこの1枚目が好きなんですけど、よく聴くとキーが合ってないんですよ。おそらくチューナーなど使わず、耳でチューニングしてるんじゃないかな。その、ちょっといびつな感じが妙に心を動かしてくれている気がしていて」

ジェフ・バックリィの94年作『Grace』収録曲“Hallelujah”

Jackson(ドラムス)「僕はスティーリー・ダンの『Gaucho』(80年)と、クルアンビンがリオン・ブリッジスとコラボしたEP『Texas Sun』(2020年)。

スティーリー・ダンは一番好きなバンドで、去年の10月にボストンまで彼らのライブを観に行きました。ウォルター・ベッカーが亡くなった後で、今回が最後のライブになるかもと言われていたんですよね。大好きなドラマーのキース・カーロックも参加していたのですが、盛大にミスったのに何事もなく次の曲へ行ったのが印象的でした(笑)。あんなレジェンドでもミスることがあるんだ、と思って自信をもらって帰ってきましたね」

スティーリー・ダンの80年作『Gaucho』収録曲“Hey Nineteen”

Tsuru(ベース)「(笑)。僕が選んだのは爆風スランプの『Jungle』(87年)です。もともと僕は、江川ほーじんさんにベースを習っていて。実は江川さん、2018年に交通事故に遭われて今も意識不明の状態が続いているんですけど、つい最近その習っていた学校も閉校になってしまって。それもあって、今回選ばせてもらいました」

爆風スランプの87年作『Jungle』収録曲“THE TSURAI”

――ありがとうございます。Ryuさんは、以前のインタビューでもボン・イヴェールの『For Emma, Forever Ago』から受けた影響について語っていましたよね。フォーク・ミュージックの要素はRyu Matsuyamaの音楽性の中でも重要な位置を占めていると思います。

Ryu「そうですね。僕は、自分のバンドでは常日頃から〈ポップであること〉を目指しているのですが、フォーク・ミュージックは〈民衆音楽〉という意味ではポピュラー・ミュージックの根源というか。

例えばスコットランド民謡やアイリッシュ民謡って、すごく耳に馴染みやすいじゃないですか。“蛍の光”も実はスコットランド民謡(原曲は“オールド・ラング・サイン”)で、あれってみんなが歌えるし、覚えやすいから代表曲になっていると思うんですよね。

だから僕は昔からフォーク・ミュージックが好きで、それを現代の音楽として鳴らす人たちに憧れるんです。その一人がボン・イヴェール。彼は、新作ごとに様々な新しい試みをしていますけど、フォークであることには変わらなくて」

ボン・イヴェールの2007年作『For Emma, Forever Ago』収録曲“Skinny Love”

――彼なりのフォーク・ミュージックを更新しているというか。

Ryu「Ryu Matsuyamaも同じように、僕らなりのポップ、僕らなりのフォークを更新し続けられたらいいなと思っています。もちろん、意図的に民謡っぽい音階で曲を作っているわけではなく、自分たちの気持ちよさを追求したら、たまたまこうなっただけなんですけど。

フォーク・ミュージックはもちろん、色んなものに影響されて僕らは曲を作っているので、そういう意味では〈今のRyu Matsuyama〉を表しているのが今作とも言えますよね」

 

新鮮で刺激的で新しかったmabanuaのプロデュース

――その本作『Borderland』を、mabanuaさんがプロデュースすることになった経緯は?

Jackson「コンポーザーであると同時にプレイヤーでもあるというのが、プロデューサーを決める上で重要かなと思っていて。そういう意味では、第一線のアーティストをプロデュースしつつ、プレイヤーとしても活躍されているmabanuaさんだったら対等に話を聞いてくれるんじゃないかなと。

実際、常に同じ目線に立ってアイデアを出し合ってくださいました。僕らの意見も対等に壇上に乗せてくれて、話し合いながら作業を進めていく感じがとても心地よかったし、何一つ揉めることがなかったです」

Ryu「そこはきっと、僕ら自身が歳を重ねたのも大きいでしょうね。昔なら3人以外の意見を入れることに対しての抵抗が、ものすごくあったんですよ。妙なプライドもあったし……(笑)。今はもっといろんな人の意見を取り入れられるようになったと思います」

『Borderland』トレイラー

――実際に、mabanuaさんとの作業はどのように進めていきましたか?

Ryu「最初は特にテーマやコンセプトは決めず、〈こんな曲があります〉とmabanuaさんにデモ・トラックを提示して、選曲の段階から一緒に考えてもらいました。結果、僕らだけだったら選ばないであろう楽曲を選んでくれました。というか、“Go Through, Grow Through”や“愛して、愛され”はそもそもボツ曲だったし(笑)、“Boy”以外の曲は全てmabanuaさんに救い上げてもらった」

Jackson「“Friend”や“愛して、愛され”は5年前の曲だしね」

Ryu「うん。〈そうか、こういう曲もいいと思ってもらえるんだ〉みたいな客観性が、mabanuaさんと曲出しをしたことによって生まれたと思います。すごく新鮮で刺激的だったし、今作の中の〈新しい色〉はそういうところから出ている気がしますね。

それともう一つ、僕ら3人の演奏を大事にしたサウンド・プロダクションを目指すというのもmabanuaさんが挙げてくださったテーマでした。コンパクトでアンビエンスの多いドラムとか、改めて3人の色が出やすいアレンジメントにしてくださったので、そこでの発見も多かったです」

Tsuru「〈これがいい〉と感じるものが、いつの間にか3人の中で似てきちゃってたんだよね」

Ryu「〈Ryu Matsuyamaってこうでしょ?〉みたいに、置きにいってたところがあったよね。そこはもう、取っ払っていくべきなのかなって」