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クルアンビン――この不思議な響きを持つバンドの名前を、あなたも聞いたことはないだろうか?

2018年のセカンド・アルバム『Con Todo El Mundo』の発表以降、一気にその名を広めた彼らは、SNSなどを介してだんだんと日本のファンも獲得。結果、今年3月に開催された大阪と東京での初来日ライブは大入りに(東京公演は急きょ、異例の1日2公演開催に変更された)。7月末の〈フジロック〉では〈FIELD OF HEAVEN〉のトリを務め、現場の観客と配信の視聴者とを大いに興奮させた――まさにクルアンビン旋風だ。

しかし、なんとも言語化しがたい無国籍サウンドと、ゆるっとしたグルーヴを持ち味とするインスト・バンドが、なぜこんなにも音楽ファンの心をつかんでいるのか? そこでMikikiは、過去作の日本盤化とダブ・アルバム『Hasta El Cielo』および日本企画盤『全てが君に微笑む』リリースのタイミングで、松永良平と黒田隆憲という2人の音楽ライターに彼らの魅力を語ってもらった。

なお、黒田はメンバーのマーク・スピアー(ギター)に、松永はドナルド“DJ”ジョンソン(ドラムス)とローラ・リー(ベース)へのインタビューをそれぞれ行っている。というわけで、日本でもクルアンビンのことをよく知る2人、というわけである。ぜひそれぞれの視点を楽しんでもらいたい。

KHRUANGBIN 『全てが君に微笑む』 Night Time Stories/BEAT(2019)

 

現代的な引き算したファンク・バンド

――実は私はまだクルアンビンのライブを生で観たことがなくて。そんな初心者に魅力を教えるイメージでお話しいただけるとうれしいです。

松永良平「といっても、僕も知ったのは去年です。セカンドが出て、〈Tiny Desk Concert〉(2018年5月)に出てワッと盛り上がって、〈バンド名なんて読むの?〉なんて話題がTwitter上でもあった。

僕よりも先に知っていたのはクラブに遊びに行く友だちでしたね。(YMOの)“Firecracker”のカヴァーが入っている10インチ(2014年作『History Of Flight』)もDJたちが変わり種として買っていたんです。黒田さんは?」 

KHRUANGBIN 『Con Todo El Mundo』 Night Time Stories/BEAT(2018)

2018年の〈Tiny Desk Concert〉

黒田隆憲「僕もその頃ですね。最初、アー写を見たときはテンプルズのようなサイケデリック・バンドなのかなと思って。そういう耳で聴いたらまったくちがう音楽だったから、戸惑いました。

でも、聴いているうちにいままでのインスト・バンドとちがうってことがわかってきましたね。なので、QUATTROの来日公演に行こうと思ったんですけど即完売で、〈フジロック〉まで待ったんです」

――お2人がそこまでハマった理由は?

松永「〈現代的な引き算したファンク・バンド〉という魅力を感じたんです。去年は会う人みんなに〈クルアンビン、いいですよ〉って布教してました(笑)。サブ・ベースの効いた音楽もいいんだけど、〈ずっとは聴いていられないな〉って感じていたなかで、ひさびさに長時間聴きつづけられる音楽に出会ったなと」

――なるほど。

松永「たとえば、中国人のおばちゃんが躍る“Evan Finds The Third Room”のミュージック・ビデオも、本当は難しい表現だと思うんですよ。だって、悪い意味でのエキゾティシズムや嘲笑にも捉えられかねないので」

――あるいは、搾取や文化盗用と言われるかもしれないですしね。

松永「でも、そこをうまくクリアしている。そういう知的なユーモアのセンスがあって、複合的にハマっていった感じかな」

2018年作『Con Todo El Mundo』収録曲“Evan Finds The Third Room”のミュージック・ビデオ