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〈コンポーズするドラマー〉で〈バックパック・ジャズ・プロデューサー〉のカッサ・オーバーオール

――2月に刊行された「Jazz The New Chapter 6」の〈DRUMMER-COMPOSERS〉という特集に、アフィさんは寄稿されていますよね。カッサのインタビューも掲載されていて、まさに彼は〈コンポーズするドラマー〉だなと。

「〈ドラマー〉という括りだと結構特殊な人です。というのも、ドラムを最後に録音するらしいんですよ。

一般的にジャズでは即興性や肉体性、〈対話〉の化学反応を重視するので、〈せーの〉で録ることが多いんですけど、カッサはちがう。このアルバムは、プレイヤーどうしのコミュニケーションが前提になっていないんです。いろいろな人の演奏をコラージュして、エレクトロニックな打ち込みを入れて、最後に自分のジャズ・ドラムで帳尻を合わせている。

音色はジャズっぽいし、ルーツもジャズなんですけど、かなりモダンな、聞いたことのないような作り方をしていますね」

――ロックなどはリズム録り、ベーシック・レコーディングから入るわけじゃないですか。ヒップホップも普通、ビートが先にある。カッサの場合、そのプロセスが逆向きだというのはおもしろい。

「同じドラマーのクリス・デイヴやマカヤ・マクレイヴンは、自分のドラム演奏をちゃんとドラムとして録音のなかに置いている。

けど、カッサは自分の演奏をも素材として見ていますね。すべての音を素材として扱ってエディットしつつ、それらを肉体的に並べ直しているのが変わっているなと。トータスのようなポスト・プロダクションの要素と肉体的な要素が、かなり高次元で混ざっている。

ジャズっぽいけど、エレクトロっぽくもあるし、歌モノでもある、みたいな複雑さがありますね」

――マカヤはセッションの録音をエディットしているわけですけど、カッサはよりヒップホップ・プロデューサー的ですよね。

「彼は自分のことを〈バックパック・ジャズ・プロデューサー〉と言っていますよね。マカヤは近いと思いますが、彼は最終的にライブ感を大切に録っている。

カッサはライブ感とエディット感の混ぜ方がより複雑なんです。その境界線が曖昧になることを楽しんでいる感じ。コラージュ作品としてのおもしろさがあるけど、しっかりジャズだっていうところがおもしろい」

 

常にジャズで、常にヒップホップ

――カッサはインタビューで〈ジャズとヒップホップが別々だという考えを修正した〉〈もはやジャズとヒップホップを混ぜているとさえ考えない〉と語っていて、『I Think I’m Good』ではそれが有限実行されていると思いました。

「前作『Go Get Ice Cream And Listen To Jazz』(2019年)にはジャズのビートをヒップホップ的に置き直している側面があったんですが、今回はその境目をなくしている。〈どうやったんだろう?〉と思ったら、常にエレクトロニックやヒップホップのビートが鳴っていて、同時にジャズのビートも鳴っているんですよね。〈混ざっている〉というよりも、〈常にジャズで、常にヒップホップ〉みたい状況が発生しているから、すごいの作っちゃったなって」

――ここまでジャズとトラップがうまく溶け合った音楽は初めて聴きました。人工的で機械的なトラップのビートって、肉体的な音楽とは相性が悪いだろうなと思っていたので。

「そうですね。これまでジャズとヒップホップの融合を試みてきた人たちは、J・ディラからの影響が強い。でも、カッサが好きなプロデューサーはマッドリブとカニエ・ウェストなんだそうです。たぶん、エレクトロ以降のデジタルなビートを使ったカニエが好きなんだろうなと」

――『Graduation』(2007年)以降ですよね。

「エレクトロなヒップホップの質感からの影響をすごく感じるんです。そういう点では、(トランぺッターの)クリスチャン・スコットに通じるところがある。クリスチャン・スコットはカッサとほぼ同世代で、彼もカニエが好きなんです。

今回カッサが表現しているメンタルや内面の世界が、カニエの音楽とうまく合ったのかな、とも思いました」

――カニエには『808s & Heartbreak』(2008年)という、悲しみを歌ったエレクトロニック・アルバムがありますからね。カッサは新作について内省的だと言っていて、カニエに共感するのもよくわかります。

「トラップとジャズを混ぜることについて言うと、自分の音楽を〈トラップ・ハウス・ジャズ〉と呼ぶマセーゴがいますよね。ただ、カッサの音楽にはマセーゴよりももっとコンテンポラリーなコード感がありますし、さらにトラップを暗さや内面的な表現が許されるジャンルとしても見ているんだろうなと。

マセーゴの2020年のシングル“King’s Rant”

カニエ好きということ言えば、オートチューンをめちゃくちゃ使っています。カッサはラッパーとしてのキャリアが長いようですし」

――ele-kingのインタビューでは、元カノとヒップホップ・グループをやっていたと語っています。

「ラッパーとしてクール・A.D.ともユニットを組んでいますね。〈あっ、ここで聴いてた〉と思いました。ドラマーのテリ・リン・キャリントンの〈Tiny Desk Concert〉には、ラッパーとして出演しています。だから、ラップとドラムの両方をしっかりできているのが、このアルバムなんだなって」

クール・A.D.とカッサ・オーバーオールによるユニット、クール&カッスの2013年のシングル“Pleasance (WDGAF)”

テリ・リン・キャリントンの〈Tiny Desk Concert〉でのパフォーマンス映像