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パワフルな歌唱と変幻自在のバンド・サウンドで魅了するメルボルンの4人組が創造した4枚目の小宇宙――圧倒的な傑作『Love Heart Cheat Code』には時代を超えた音楽の美しさが無邪気に渦巻いている!

複雑さを示す必要はない

 「僕たちは長い時間をかけてとてつもない信頼関係を築き上げてきたと思う。つまり、自分たちが望むやり方で音楽を追及し、思う存分クリエイティヴになれるということ。このバンドは僕にとって心を広くさせてくれる存在なんだ」(サイモン・マーヴィン)。

 「共同制作をする安全な場所があって、一緒に何かを作り上げることにワクワクできる仲間を見つけたら、その仲間意識と帰属の感覚はとても大きなものになる。私はそれに救われる。私が他の誰ともコラボレーションしない理由は、私がここでとても甘やかされているから。バンドの誰のところに行っても、私がメロディーを歌いさえすればハーモニーをどうしたいのかわかってもらえる。それに彼らはすごく我慢強くて、私を信頼してくれる」(ネイ・パーム)。

HIATUS KAIYOTE 『Love Heart Cheat Code』 Brainfeeder /Ninja Tune/BEAT(2024)

 2011年にオーストラリアはメルボルンのシェアハウスで最初のジャム・セッションを行って以来、その信頼の深まりは分かち難い結び付きで最高の音楽を生み出し続けている。ハイエイタス・カイヨーテの4人――ネイ・パーム(ギター/ヴォーカル)、ポール・ベンダー(ベース)、サイモン・マーヴィン(キーボード)、ペリン・モス(ドラムス)――は創造的な化学反応を互いに引き起こしながらバンドの音楽性を前進させてきたし、それはこのたび届けられたニュー・アルバム『Love Heart Cheat Code』でも変わることはない。ブレインフィーダーへの移籍作でもあった3年前のサード・アルバム『Mood Valiant』(2021年)はバンドに3度目のグラミー賞ノミネートを呼び込んだ傑作だったが、その部門が〈最優秀プログレッシヴR&Bアルバム〉だったことからもわかるように、当初〈フューチャー・ソウル〉とも形容された彼らのオルタナティヴな存在感は、多様なリスナーのクロスオーヴァーを促しながら、もはやひとつの主流を形成するものとなった。ただ、時にその複雑さで名を馳せてきたバンドにとって、新作『Love Heart Cheat Code』の際立った特徴は〈シンプルさ〉にあるという。

 「かなり古典的な曲作りの形式を少し取り入れたんだ。時を経るうちに、僕たちはとてもはっきりストレートな歌詞の曲を作る能力を高めてきた。それはそれで難しいんだけど。そういった明快さは別の種類の信頼、つまり自己肯定感から来ているんだ」(ポール・ベンダー)。

 「私はマキシマリストだから全部を複雑にしてしまう(笑)。でも、人生でいろいろな経験を積むうちに、よりリラックスして、束縛されなくなる。時には深く考えたり、〈何を伝えたいのか?〉という問いの周りをぐるぐる踊るのを止めることができる。このアルバムは私たちがそれを明快にした結果だと感じている。曲がそれを求めていないのであれば、複雑さを示す必要はなかった」(ネイ)。

 そうした意識の変化に伴う明快さは、印象的な〈友達は作るものじゃなく、認識するもの〉というフレーズをキーにして螺旋を描いていく“Make Friends”や、サイモンのクラヴィネットに導かれて(イントロでは演奏を聴いて思わず上げてしまったというネイの声も残されている)メロディーが流れ出るような“Everything’s Beautiful”、あるいは「いままで書いた中でもっとも直接的で率直な歌詞」(ネイ)だというバラード“How To Meet Yourself”の聴き心地からも伝わってくるものかもしれない。