春真っ盛りの2020年4月、神戸の街から花開く4人組バンドofulover(オフラバー)。キュウソネコカミやtofubeats、アルカラやalcottを育んできたこの街の、いまのシーンを牽引する彼らが初の全国流通盤となるファースト・アルバム『紡ぐ』をリリースした。妖艶なシャウトや繊細な節回しが織り混ざった中本樹(ヴォーカル/ギター)の変幻自在な歌声を中心に、ほとばしるライブ感とその若さとは裏腹に放たれる色気が魅力的なバンドだ。
サーキット・イベント〈March of lover - マチラバー -〉を主催し、育ってきた神戸への愛着を語るofuloverの4人。大学を卒業し「いままでの僕たちが歩んできた系譜や歴史を紡ぎ、いまの僕たちの集大成を提示する」と語る彼らの新たな門出に着目すべくインタビューを行った。
一本一本のライブと向き合う〈フロアを沸かす自惚れロックバンド〉
――『紡ぐ』リリースおめでとうございます。タワーレコード全国11店舗とオンラインでの発売ということで、ライブハウスを超えて日本全国へのお披露目となりますね。まずはofuloverを結成した経緯を教えてください。
中本樹「高校3年生の時の文化祭で、ベースのちゃそばと一緒にKANA-BOONやKEYTALKのコピー・バンドをしまして。同じタイミングでギターのアサダはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT専門のコピー・バンドをしていて、文化祭後にアサダともう一人の友達でofulover(当時はカタカナ表記のオフラバー)を結成しました。それから大学のサークルでドラムスのやまぐちと出会っていまの4人になりました」
――大学のサークルだとコピー・バンドで完結するようなケースも多いかと思うんですが、最初からオリジナルで活動したいという気持ちがあったんですか?
中本「結成当初は遊び半分くらいで考えていたんですけど、やまぐちが入るあたりで音楽を生業にする意識が生まれてきて。そういう話もあって前のドラムスは抜けちゃったんですけど、やまぐちもプロ思考があったのでそこからはガンガン活動を始めました」
――バンド名のofuloverはどういう由来でつけられたんですか? ちょっと不思議な響きだなと思いまして。
一同「(爆笑)」
――え、なんかそんな変な由来なんですか?
ちゃそば「そんなに深い意味もないんですけど、ヴォーカルの(中本)樹と僕で〈ハヌマーンみたいな語感がいいな〉って二人で話していた時に〈お風呂場〉ってめっちゃ語感いいなって話になって」
――お風呂場!
ちゃそば「流石に〈お風呂場〉はヤバいなと思ったんですけど、僕がお風呂好きだったので〈お風呂が好きなやつ=オフラバーでいいんちゃう〉みたいな感じで。もともとはカタカナ表記だったんですけどあまりにもポップで音楽性と合ってないなと思って、ofuloverになりました」
――それはいいことを聞きました(笑)。でも沸かすって意味ではコンセプトに掲げている〈フロアを沸かす自惚れロックバンド〉ともつながる感じがしますね。
中本「最初は〈お風呂場で口ずさめる音楽〉みたいに考えてたんですけど、全然そんな音楽じゃないなと思って、英語表記に変えた時にコンセプトも考えましたね」
――コンセプトも含めてライブに力点を置いているように感じていますが、やはり表現の中心はライブなんでしょうか?
中本「よくライブをしているバンドと比べたらそれほど本数は多くないですけど、〈ライブ一本一本を大切にやっていこう〉という想いが僕ら4人にはあるので、その一本一本でちゃんとフロアを沸かして手応えを残して帰るっていうのは強く意識しています」
――活動や楽曲制作はどのように行っていますか?
中本「曲に関しては僕が弾き語りデモをスタジオに持ってきて、みんなで合わせるという感じですね。最初は僕の主観的な想いが強いんですけど、みんなで〈そこは違うんじゃない?〉という感じで話し合って完成形に持っていくという感じです」
――結構意見の対立のようなこともあるんですか?
ちゃそば「結構ありますね。揉めたら誰かが止めるって感じで(笑)」
中本「基本的には僕とやまぐちが対立して、ちゃそばが仲介役としてなだめる、そしてアサダは傍観してるって構図です」
やまぐちこーへい「アサダはいまもあまり喋らないし、そういうスタンスだね(笑)」
――アサダさん(笑)。 アサダさんはそういう対立をどんな風に思いながら見てるんですか?
アサダ「〈ちょっとこれはこっち寄りかな〉とか考えつつ、聞きながら〈なるほど〉って思ったり」
やまぐち「そんなこと思ってたんや(笑)」
――役割分担があるんですね(笑)。 こう言うとクサいですけど、いい意味で学生の音楽仲間というような絆を感じます。
やまぐち「大きなイベントやリリースを4人でやり遂げた時の達成感はめちゃくちゃあるし、この4人で活動している喜びは感じますね」
中本「僕が楽曲担当でやまぐちはイベンター的な役割。通販やリリース関係はちゃそば、経理や雑務はアサダみたいに役割分担が自然とできてるので、この4人でよかったなと思いますね。僕とやまぐちはよく対立するけど、ちゃそばが仲介してくれるし、アサダは全然喋りはしないけど雑務がめちゃくちゃ得意なので話し合う時は書記をしたり(笑)。 例えばアサダがもうちょっと我が強かったりしたらうまくいってないと思うので、すごくいいバランスだと思っています」
ちゃそば「性格も好きな音楽も全然違うんですけど、だからこそ僕らだけの音楽ができるのかなとは思いますね」
――適材適所でうまくハマっていい具合に回っている感じがしますね。
中本「バンドをやっていなかったらこんなに仲良くならなかった4人だと思うので、いまの4人でバンドに打ち込める充実感がありますね」
ちゃそば「僕は元々みんなと仲良いんですけどね」
やまぐち「そんなとこでマウントとんのやめてや(笑)」
僕たちのいままでを紡いで、新たな一歩を踏み出せるように
――では『紡ぐ』のお話に移りましょう。初期からの荒々しさはそのままに、『紡ぐ』ではまさに繊細に紡ぐような表現が増えているように感じました。『紡ぐ』を作る中で何か表現に向かう姿勢の変化はありましたか?
中本「シングルの『春を越えて』をレコーディングしている時から僕らの曲作りに対する考え方が結構変わって、よくあるギター・ロックから一歩抜け出そうと意識していました。例えば僕は〈楽曲として声を魅力的に響かせたい〉という意識を持つようになって。WOMCADOLEとか元から好きだったバンドからの影響はそのままあるんですけど、Ivy to Fraudulent Gameやユアネス、有名なバンドでいえばRADWIMPSの綺麗な表現を参考にするようになって『紡ぐ』につながっています。『紡ぐ』というタイトルには〈いままでの僕たちが歩んできた系譜や歴史を辿りつつ、いまの僕たちの集大成を提示する〉という想いがありまして」
――まさに春真っ盛りのリリースの中、全体に散りばめられた〈花〉や〈春〉のモチーフが印象的です。ここに込められた想いは何かありますか?
中本「やっぱり春のリリースなので意識していたところはありました。花は昔から意識して取り入れているモチーフで、〈花といえばofulover〉くらいのバンドの代名詞になっていけばいいなと思っています。初めてグッズを作ってもらった時のモチーフから花が多くて、グッズも結構好調な売れ行きだったので、そこから意識し始めました」
やまぐち「ジャケットも一貫して花を取り入れていますね」
中本「今回も暖色系の色で、遠くから見たら折り重なった花弁のように見えるかなって」
――『紡ぐ』というタイトルも含め、日常生活のささやかな喜びや葛藤がつぶさに描かれていると感じました。日常生活や学生生活が音楽活動に与えた影響を聞かせてください。
中本「メンバー全員が今年で大学を卒業するということもあって、バンド活動だけじゃなくて自分たちの生活の歴史がうまく表せたんじゃないかなって思っていて。例えば“生活のすべて”は、実家を出る前に作った最後の曲で、20数年間暮らしてきた生活の中での母への感謝や、自営業をしている父への敬意を表現した曲です。あと僕の実家が都市の中心部から遠くて嫌でもあったんですけど、いつかいい意味で帰る場所になればいいなという想いも込めています。バンドとしてちゃんと成長して胸を張って帰れるように。本作はどの曲もいままでの歩みを振り返る中で生まれてきた気持ちが詰められています」
――いままでやってきたことを振り返る中で、いまの自分たちのかたちが見えてくるような。
ちゃそば「ひとつの節目という気持ちは強くて、僕らのいままでやってきたことを詰め込んで周りにも示せる作品にしようと思って作りましたね」