彼らには多数の未発表曲があるが、それをセレクトしたアルバムが緊急リリース。どの曲もクラシックやフォーク、民謡、ブレイクビーツ、オルタナティヴ・ロックなど、都度都度のモードが刻まれていて、バンドの24年に及ぶ軌跡や進化も一望できる。日本語の響きが侘び寂びと情緒に富んだソングライティング、微熱感をもってドライヴするバンド・サウンドなど彼らの普遍的な持ち味が詰まっていて、第2弾も希望したい。

 


ツアー〈特Q〉のリハを行いながらも、公演中止の可能性が浮上したくるりがリハ最終日に発案したのは、そこからわずか1か月で未発表曲集をリリースすることだった。楽曲は97年から現在までの未発表曲と、2006年のベスト盤『TOWER OF MUSIC LOVER』初回盤のみに収録された4曲(“怒りのぶるうす”、“Giant Fish”、“さっきの女の子”、“人間通”)を合わせた全11曲(現在は配信のみ/CDは4曲のボーナス・トラックを追加して5月27日(水)リリース)。岸田繁はこれらの楽曲を掘り起こすことを〈解凍(=thaw)〉と名付けた。なるほど、未発表曲とは危機的状況のために冷凍保存しておいたもので、それを解凍するというのは秀逸な比喩だと思う。

しかし、牧歌的な曲調なのに重大な局面に現れる悪魔について歌った“心のなかの悪魔”や、くるりがよくモチーフにする食べ物の歌ながらもよく聴けば孤独について歌った“鍋の中のつみれ”、2011年の東日本大震災直後に作られたという“ippo”などは、〈いま〉だからこそ心に響くものがあり、〈その時を待つべく冷凍〉されていたように感じるから不思議なものだ。

他にも、同じ佐藤征史作の“Amamoyo”のような曲が始まるのかと思いきや環境音などが聴こえてたった54秒で終わる“Hotel Evropa”や、リズムも音もどこか気持ち悪いのに心地よい“ダンスミュージック”など、よくある未発表曲集には普通なら入れないであろう実験的な楽曲が収録されているのも嬉しい。難解な曲でも理解が深まるオフィシャルのライナーノーツも必見だ。

非常時にあるべきものは〈蓄え〉だと痛感するし、その蓄えを使うべき時にすぐに使うというのは咄嗟の判断力とかセンスがいることだなと実感する。