田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週、アメリカではミネソタ州ミネアポリスでジョージ・フロイドさんが警察官に殺害されたニュースが報じられ続けています。ものすごく大きな問題に発展していますね」

天野龍太郎「白人警官による黒人の殺害……。2013年のブラック・ライヴズ・マター運動のきっかけになった、トレイヴォン・マーティン射殺事件とまったく同じ。また窒息死という点では、2014年のエリック・ガーナー窒息死事件と同じです。本当に言葉を失います。ジャスティン・ビーバー、アリアナ・グランデ、デミ・ロヴァートといった、〈PSN〉がよく紹介しているアーティストたちも抗議。ラッパーのノーネーム(Noname)が寄付の呼びかけをしていて、多くのミュージシャンたちが賛同しているんだとか。いつもMikikiで書いてくださっているshukkiさんのツイートで知りました」

田中「しかも亡くなったフロイドさんは、ビッグ・フロイド(Big Floyd)という名前でラッパーとして90年代に活動していたそうです。DJスクリューの作品に参加していた、という衝撃的な事実も報じられています」

天野「ラッパーだったんですね……。とにかく、これだけははっきり言っておきます。人種差別と偏見、そしてそれに基づく警官による暴力には、徹底的に反対。断固、抗議します。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」

 

1. Lady Gaga & BLACKPINK “Sour Candy”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉は、やっぱりこれしかないでしょう! レディー・ガガ × BLACKPINKの“Sour Candy”!!」

田中「ガガ様の曲が2週連続で〈SOTW〉に輝きました。僕たち〈PSN〉から特別賞を贈りたいくらいですね。ファンには説明不要かと思いますけど、この曲は本日5月29日にリリースされたレディー・ガガのニュー・アルバム『Chromatica』からのシングル。天野くんは〈BLACKPINKとのコラボ・ソングが楽しみだ〉って10回くらい言っていましたよね」

天野「そうなんですよ。だって、〈レディー・ガガ × BLACKPINK〉っていう組み合わせだけでワクワクしませんか? アメリカン・ポップ・シーンの頂点に居続けているガガ様と、K-Pop界を代表する存在のBLACKPINK。そんな世代も国籍もちがう2組が〈ポップ〉の名のもとに集結している感じは、もう胸熱です。フィメール・アーティストどうしのタッグ、という点でもパワフルなメッセージ性を感じますし」

田中「とはいえ、楽曲そのものはものすごくシンプルなハウスを下敷きにしていて、過度な装飾のないダンス・ポップです。そのあたりのストイックさも好感。プロデューサーは、ガガ&アリアナ・グランデの“Rain On Me”と同様にブラッドポップ(BloodPop®)とバーンズ(BURNS)の2人です」

天野「歌詞は、〈私は酸っぱいキャンディー/甘すぎて、ちょっと腹が立ってくる〉とジェニーが甘く歌うラインが印象的ですよね。ガガ様によれば、『女性は多くの場合に優しく(スウィート)あることが求められるし、そうでなかったらビッチと言われる。これに腹が立つ。この曲はその感情に似ていて、丁寧な中指って感じね』とのこと。超かっこいい……! 訳詞がユニバーサルミュージックのサイトで読めるので、ぜひチェックを。ガガの新作『Chromatica』、今週必聴のアルバムです!」

 

2. Celeste “I Can See The Change”

田中「2位はセレステの“I Can See The Change”。彼女はUK、ブライトン出身のソウル・シンガーです。当連載では〈2020年期待のアーティスト50〉で紹介しましたし、前シングルの“Stop This Flame”も取り上げました」

天野「まさに〈PSN推し〉アーティスト! この“I Can See The Change”はプロデューサーにも注目です。なんとあのフィニアス(FINNEAS)がプロデュースを担当。言わずもがな、ビリー・アイリッシュのお兄さんで、ビリーの多くの楽曲を手掛けてきた音楽家ですね!」

田中「P.P.アーノルドからエイミー・ワインハウス、アデルに至るまで連綿と続いてきたブリティッシュ・ソウルの本流に位置するセレステと、LA出身で先鋭的なポップを作り出してきたフィニアス。座組だけで期待してしまう組み合わせですね。さて、どんなサウンドになったのかと思いきや……」

天野「セレステの優しい歌声と感傷的な鍵盤の音色を中心に据えたバラード。抑え気味の歌唱が逆にエモーショナルに感じられて、胸を打たれました。フィニアスの手腕が感じられる、ダークなストリングスをウォール・オブ・サウンド的に使ったアレンジも聴きどころです。これ、いいオーディオで聴くとすごそう」

田中「ビリー・アイリッシュによる『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』の主題歌“No Time To Die”の姉妹曲的な雰囲気もありますよね。ぶっちゃけ“I Can See The Change”のほうが良い曲じゃないかしら(笑)。セレステの待望のファースト・アルバムは、今年の秋にリリース予定!」

 

3. Rosalía & Travis Scott “TKN”

天野「3位はロザリアがトラヴィス・スコットとコラボレーションした新曲“TKN”。これまた超すごい組み合わせですね! アーバン・フラメンコ~ラテン・ポップ・シンガーのロザリアとラッパーのトラヴィスという、2人のポップスターの共演。日本で言うなら、RIRIちゃんとTohjiのコラボ、みたいな……」

田中「その例え、あんまり合ってなくないですか(笑)? ともあれ、ロザリアとトラヴィスは2019年末に、すでにコラボ済みなんですよね。ロザリアはジャックボーイズ(JACKBOYS)のアルバムに収録されていた“HIGHEST IN THE ROOM (REMIX)”に参加していました」

天野「そうなんです。そのとき、〈うわっ! トラヴィス × ロザリアってヤバい!〉って思ったんです。“HIGHEST IN THE ROOM”はトラップでしたけど、今回はロザリアが得意とするレゲトンにトラヴィスが参加している、という形です。トラヴィスがスペイン語で歌っているのが、意外性があっていいですね。〈Yeah!〉とか〈Straight up!〉とか、トラヴィスのシグネチャーなアドリブも聴けて最高です」

田中「ロザリア、スカイ・ロンピエンド(Sky Rompiendo)、おなじみのタイニー(Tainy)とエル・グインチョの4人によるミニマルなプロダクションは、ヒプノティックでクール。スカイ・ロンピエンドは初登場の名前です。J・バルヴィン(J Balvin)の楽曲を多く手掛けている売れっ子のようですね」

天野「ちなみにロザリアの前のシングルは、3月にリリースした“Dolerme”でした。それにしても、アルバムを作る気はないのかな……」

 

4. Ruel feat. Denzel Curry “Painkiller (Remix)”

天野「4位はルエルとデンゼル・カリーの“Painkiller (Remix)”。ルエルはオーストラリアのシドニー出身のシンガー・ソングライターで、2002年生まれの17歳。若いな~。しかも美青年。……っていうのはルッキズムですね」

田中「3.11を知らない世代というのが衝撃ですね……。Beats by Dr. DreのCMソング“Don’t Tell Me”、“Not Thinkin’ Bout You”や“Younger”(いずれも2018年)といったシングルがヒットし、デビュー・アルバム『Free Time』(2019年)も成功を収めたんだとか。順風満帆のキャリアを歩んでいるようです」

天野「さらに、ショーン・メンデスのツアーのオープニング・アクトも務めたそうですよ。とにかく、ポップ界の期待の星、というわけです。これは、彼にとって最大のヒット・ソングである“Painkiller”(2019年)のリミックスで、米マイアミの変わり者ラッパー、デンゼル・カリーが参加しています。ゴスペル的な高揚感と切ないメロディーがいいですよね。レックス・オレンジ・カウンティ(Rex Orange County)などに代表される、いまのベッドルーム・ポップの潮流を感じるファンク/R&B的な音作りも、ぐっときます。そこに勢いのあるデンゼルの濃いラップが飛び乗ってくる感じも最高!」

田中「ルエルは3月にジャパン・ツアーをする予定だったのですが、残念ながら新型コロナの影響で中止に。日本でも人気が出てきているので、来年の夏フェス出演に期待したいところ」

 

5. East Man feat. Streema “Know Like Dat”

天野「今週最後の一曲は、イースト・マンの“Know Like Dat”。彼についてちゃんと知らなかったんですけど、UKベース・ミュージック界きっての異才であるベーシック・リズム(Basic Rhythm)ことアンソニー・J・ハート(Anthoney J Hart)の別名義なんですね。僕、ベーシック・リズム大好きなんですよ。初期のジャングルやドラムンベースからの影響を感じて、超クールかつフリーキー、だけど踊れるUKベースって感じで」

田中「最高です。このイースト・マンは、ハートのグライム・プロジェクトで、リリースはプラネット・ミューから。彼自身はこの名義でのサウンドを、グライム、ダンスホール、ドラムンベース、テクノをブレンドした〈Hi Tek〉と呼称しているようです。2018年にリリースされたファースト・アルバム『Red, White & Zero』は、地元ロンドンのMCを多数フィーチャーし、かの地の様相を鋭利なビートでリアルに映し出した傑作でした」

天野「最高です。UKブラック・カルチャーについての研究で知られるカルチュラル・スタディーズの学者、ポール・ギルロイが作品に関与していた、といエピソードもいいですよね。僕、権威主義なので〈音楽 × アカデミック〉みたいなものに弱くて(笑)。話を“Know Like Dat”に戻すと、まずトラックがめちゃくちゃかっこいい。音数は少ないけど、ビートのパターンはちょっと複雑。なのに、すごく立体的に組み立てられているので、ヘッドホンで聴いていると凄まじく快楽的……。たしかにレゲトンっぽさもありますし。これ、ビートや音像をライターのimdkmさんに解説してほしいかも」

田中「最高です。フィーチャーされているストリーマについてはあまり情報がないんですが、ロンドンを拠点にしているグライム・クルー、スクエア(The Square)の一員みたい。グライムとベース・ミュージックの交差点としても、イースト・マンの動きは興味深いです。ニュー・アルバム『Prole Art Threat』は7月24日(金)にリリース。かなり楽しみですね!」