天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。エンターテインメントの世界では今週、アカデミー賞の話題でもちきりでしたね!」

田中亮太ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』がなんと4つのオスカー像を獲得、作品賞まで獲りました。欧米圏におけるアジアン・カルチャーの存在感の大きさを印象づける出来事でしたね。あの映画が扱った貧困や格差問題は深刻なものですが、一方で韓国の人たちは誇りに感じているはず」

天野「日本映画も頑張ってほしい! ただ、僕はまだ〈パラサイト〉を観ていないくて……遅れていますね。音楽の話をすると、ジャネール・モネイビリー・アイリッシュのパフォーマンスがよかったな~。松たか子さんが出演した『アナと雪の女王2』のパフォーマンスは、日本でも盛り上がっていました」

田中「あと、ナタリー・ポートマンのドレスが話題でした。〈功績を認められなかった〉として、ノミネートされなかったグレタ・ガーウィグら女性監督たちの名前が刺繍されていたんです。ジェンダー・バランスや差別の問題は、まだまだ根が深いようですね……。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. Billie Eilish “No Time To Die”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉は、なんといってもこれでしょう。ビリー・アイリッシュの“No Time To Die”! 今年公開予定の映画、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』の主題歌です」

田中「〈007シリーズ〉の主題歌を担当する最年少アーティスト、ということでも話題ですよね。とはいえビリーは、先日のグラミー賞で主要4部門を独占受賞したばかり。ここ日本でも大フィーヴァー中。そんななかでこの曲が発表されるというのも、出来すぎな気が……」

天野「半端じゃない勢いですね。今回の“No Time To Die”は、2019年11月に発表された“everything i wanted”以来の新曲ということで、ファンはうれしいはず。ビリー・アイリッシュらしいダークなサウンドとウィスパー・ヴォイスを聴ける一方で、わかりやすく大味なメロディーとベタなストリングスは、いかにも〈007〉の主題歌らしいというか。音楽的にはちょっと飽き足りなさを感じますが、こんなに歌い上げるビリーも新鮮でいい! あと、この曲を聴いて『007 スペクター』の主題歌をボツにされたレディオヘッドの“Spectre”(2016年)をふと思い出しました(笑)。ビリーのこれがアリなら、レディオヘッドの曲もいいじゃん!」

 

2. The Strokes “At The Door”

田中「2位はストロークスの“At The Door”。ビリーのボンド・テーマが公開されるまでは、話題性的にこちらが〈SOTW〉かな~と思っていましたよ!」

天野「それはどうでしょう(笑)。彼らのことは説明不要でしょうけど、2000年代前半のロックンロール/ポスト・パンク・リヴァイヴァルを牽引した存在であり、21世紀が生んだ数少ないスタジアム・クラスのロック・バンドの一組。とはいえファースト・アルバム以降、〈変化しなきゃいけない!〉という強迫観念に突き動かされているのか、一筋縄ではいかないキャリアを歩んでいますよね。それゆえ、何をしでかすのかわからないカルト・スター的な存在でもあって……」

田中「ストロークスってほんとに変なバンドですよね。で、この新曲“At The Door”は、そんなキャリアのなかでも屈指の奇妙な曲でしょう。まず、なんて言ったってドラムが入ってない! ロック・バンドの7年ぶりの復活曲でそんなことってあります?」

天野「うーん……ないかも(笑)。ビートレスなだけでなく、ギターもかなり控えめ。ジュリアン・カサブランスの歌声以外で目立っているのは、ビヨビヨと鳴るアナログ・シンセサイザーの音です。ドローンっぽかったり、スペーシ―だったりと、シンセが大活躍。そこにピッチ・ベンドされたコーラスが重なると、まるで聖歌のような雰囲気に。正直に言って、誰もストロークスにこういう音楽をやることを期待していないと思います(笑)。でも、わけのわからないことをやってのけてる姿は痛快! 4月10日(金)にリリースされるリック・ルービンがプロデュースした新作『The New Abnormal』がどんな作品になっているのか、まったく予想できません」

 

3. Nicki Minaj “Yikes”

天野「3位はラップ界の女王、ニッキー・ミナージュの“Yikes”です。イントロから〈お前らニガーども、ビッチどももみんな知ってる、私がファッキン・クイーンだって〉とカマすバッド・ビッチぶり!」

田中ダベイビー(DaBaby)の大ヒット曲“Suge”(2019年)を手掛けたプー・ビーツ(Pooh Beatz)によるビートは、とにかく音が削ぎ落とされていてソリッドですね。ものすごくミニマルなサウンドと2分半という曲の短さは、いかにも現在のアメリカのラップ・ソング」

天野「ちなみにこの曲には、DVをしたという元カレのミーク・ミルを攻撃している曲でもあるんです。〈あんたはピエロ、『いいね』が欲しくてやってるんだろ〉というサビのリリックはミークへの当てつけなんでしょうか?」

 

4. Anuel AA “Keii”

天野「4位はアヌエル・AAのニュー・シングル“Keii”。僕がここ1、2年、レゲトン/ラテン・トラップにハマっていることはこの連載でずーっと言っているので、読者のみなさんはご存じかと思います」

田中「毎回読んでくれている奇特な方がいれば、ですけどね……」

天野「日本に10人くらいはいるはず! で、アヌエル・AAはプエルトリコのシンガーです。レゲトン/ラテン・トラップ・シーンを代表するスターで、バッド・バニー(Bad Bunny)やオスナ(Ozuna)と並ぶ人気を誇っています。彼のことは2019年8月に“Adicto”という曲について紹介したときにも語ったので、そちらの記事もよかったら読んでみてください」

田中「1月にリリースされたシャキーラとの“Me Gusta”も話題になりましたよね。この新曲はトラップではなくメランコリックなレゲトンで、切なげな節回しや旋律が癖になります。ビートの抜き差しが効いていて、ドラムの音がちょっと変化する小技にも注目ですね」

天野「ドラキュラに扮したビデオもおもしろい。“Keii”はソニー・ミュージック・ラテンからリリースされるメジャー・デビュー・アルバムに収録される曲だということで、アルバムへの期待がめちゃくちゃ高まります!」

 

5. Tom Misch & Yussef Dayes “What Kinda Music”

天野「今週最後の一曲は、トム・ミッシュとユセフ・デイズの“What Kinda Music”です。トム・ミッシュはアルバム『Geography』(2018年)がここ日本でもヒットして、めちゃくちゃ人気ですよね。『Geography』はTOWER VINYL SHINJUKUでもアナログ盤がロング・ヒットしているそうですよ」

田中「もちろん優れたミュージシャンではありますけど、ここまで人気者になるとは思いもよりませんでした。そんなトム・ミッシュの新作は、なんとジャズ・ドラマーのユセフ・デイズとのコラボレーション・アルバム『What Kinda Music』。4月24日(金)にリリースされる同作から、タイトル・トラックが発表されました」

天野「ユセフ・デイズといえばカマール・ウィリアムズ(Kamaal Williams)とのデュオ、ユセフ・カマール(Yussef Kamaal)。2人のタッグは残念ながら解消されてしまいましたが、ユセフ・デイズの次なる共演者がトム・ミッシュだとは。この曲ではトム・ミッシュのメロウでポップな音楽性が抑えられていて、ユセフ・デイズのドラミングやサイケデリックなシンセサイザーの響き、ドラマティックなストリングスなどがフィーチャーされています。エコーやリヴァーブが効いた音像はかなり陶酔的。アルバムは、現在のUKジャズ・シーンともリンクするエクスペリメンタルで挑戦的な作品になっているのでしょうか? かなり楽しみですね」