格調の高さと親しみやすい開放感を高次元で結びつけたハイブリッドなアヴァン・ポップの大傑作! 2025年を代表するキャッチーでエッジーでアルバム『LUX』を待望の日本盤でより深く楽しもう!
未知なる音楽の開拓者
世界が彼女にひれ伏した。最新アルバム『LUX』を耳にして、誰もが口をあんぐり驚愕。批評家たちは賞賛の言葉を惜しみなく降り注ぎ、その斬新なサウンドスケープに世界中の音楽ファンはぶっ飛び、クラクラと目眩を感じつつも彼女の大胆なクラシカル・アヴァン・ポップに聴き入り、脱帽させられた。USやUKでも自己最高記録を更新(4位)したのをはじめ、世界中のヒット・チャートを席巻。おそらく来年度のグラミー賞では、多数のカテゴリーにノミネートされるるであろうと、いまから囁かれるのも当然だ。わずか4作目のアルバムにして、ここまで野心的なアプローチに舵を切った事実にも驚かされるが、そもそも彼女の音楽家としての存在理由が〈新しいことへの挑戦〉であり、エクスペリメントであり、サプライズであることを改めて教えてくれる。思えば、これまでも彼女はいつも常識を覆してきたわけで、挑戦者であり、未知なる音楽の開拓者であったことを今更ながらに痛感させられる。
スペインはバルセロナを有するカタルーニャ州に生まれたロザリアは、9歳でギターを弾きはじめ、14歳でフラメンコに魅せられて歌いはじめた。2017年のデビュー・アルバム『Los Ángeles』はカタルーニャ高等音楽院の在学中に発表。フラメンコの古典ナンバーなどを歌とギター演奏のみで披露し、母国スペインで話題をさらった。
卒業制作を兼ねた2018年のセカンド・アルバム『El Mal Querer』では、ポップやヒップホップやR&Bなどとフラメンコの融合に早くも着手し、ラテン圏を中心に存在感を示しはじめる。フラメンコの歌やメロディー、ギターやパルマと呼ばれる手拍子などの古典的手法を取り入れつつモダンなポップ・ミュージックに昇華し、スペイン人シンガー/プロデューサーのエル・グィンチョと共に多彩なベクトルを放つ一筋縄ではいかない音楽性を見せつけた。同作から大ヒットしたリード・シングル“Malamente”は2018年のラテン・グラミー賞で5部門にノミネートされ、2部門を受賞。アルバムも翌年の同賞で〈最優秀アルバム〉など2部門に輝き、2020年のグラミーでは〈最優秀ラテン・ロック/アーバン/オルタナティヴ・アルバム〉部門を受賞したほか、〈最優秀新人〉にもノミネートされた。余談だが、同作の主なテーマとなった13世紀に書かれた作者不詳の韻文「フラメンカ物語」も、突如売り上げが急上昇したそうだ。
革新的なアヴァン・ポップへ
もっとも、アメリカをはじめとする世界的な成功に大きく貢献したのは、2019年に発表されたレゲトン界のスーパースター、J・バルヴィンとのコラボ曲“Con Alture”だ。フラメンコ × レゲトンの折衷サウンドを鮮やかに体現した同曲は、いまやYouTubeで22億回超の再生数を誇るMVの効果もあって視覚と聴覚から人々を魅了した。続いて、プエルトルコ出身のオズナとの“Yo x Ti, Tú x Mí”、トラヴィス・スコットとの“TKN”、ビリー・アイリッシュとの“Lo Vas A Olvidar”、バッド・バニーとの“LA NOCHE DE ANOCHE”など、大物アーティストたちと次々とコラボを展開。このあたりのグローバル規模の快進撃は彼女自身が望んだシナリオだったと思われるが、そこからチャート常連組のポップスターの座に収まるのではなく、次なるサード・アルバム『MOTOMAMI』(2022年)では、とてつもなく革新的なアヴァン・ポップの世界へと飛翔した。
その『MOTOMAMI』では、世界的人気を誇るレゲトンのみならず、カリブ海周辺をルーツとするさまざまなラテン音楽を丹念に堀り起こし、それらを現代的なポップ・エレメントと融合。キューバのボレロやマンボ、ドミニカのバチャータやメレンゲ、ブラジルのサンバやカリオカなどを鮮やかに導入しつつ、もちろんフラメンコのリズム感も忘れない。ワイルドな性描写や“SAOKO”“HENTAI”“CHICKEN TERIYAKI”“SAKURA”といった曲名&リリックのジャパ二メ感の掴みどころのなさも衝撃だった。アルバムからはウィークエンドとの“LA FAMA”、デラックス版『MOTOMAMI+』からも“DESPECHÁ”などのヒットが繰り出された。ちなみに2023年のシングル“TUYA”のMV撮影は東京で敢行。日本愛が溢れ出している。
開放的なリスニング体験
その『MOTOMAMI』で再度ラテン・グラミーの〈最優秀アルバム〉など全4部門を受賞し、グラミーでも引き続きラテン部門で受賞。もはや何をしても許される環境が整っていたのは確かだが、3年以上も掛けて完成された『LUX』における、いい意味でのやりたい放題は、遥かにファンの予想や期待を超えていた。まず一聴して明らかなのが、クラシック楽器の導入だ。ポップスと同様に学生時代から親しみ、学んできた自身の一部ともいえるクラシック音楽やオペラ歌唱を改めて自身の作品に取り入れたかったそうだ。シガー・ロスやベン・フォレスト作品にも関わるダニエル・ビャルナソンの指揮の下、ロンドン交響楽団が全面参加。全4章から成る作中では〈女性性の神秘〉〈変容〉〈精神性〉といったテーマが描かれ、本人が「修道女から娼婦まで、あらゆるフェミニスト」に触発されたと語る通り、中世ドイツの修道女ヒルデガルト・フォン・ビンゲンから旧約聖書に登場する預言者ミリアム、ジャンヌ・ダルクまで女性の聖人や思想家が多く登場する。楽曲はそれら登場人物それぞれの言語で歌われており、つまりスペイン語のみならず、カタルーニャ語、ポルトガル語、ドイツ語、英語はもちろん日本語まで、実に14か国語を駆使。各言語の翻訳者とやりとりしながら表現を工夫し、フレーズを調整し、リズムを変えるなど、非常に根気を要する作業だったという。“Porcelana”での日本語を聴けば、そのこだわりと成果がしっかりと感じられるのではないだろうか。
前作と同様にアメリカ人プロデューサーのノア・ゴールドスタイン(フランク・オーシャン、カニエ・ウェスト他)とディラン・ウィギンズ(ジャスティン・ビーバー、カリ・ウチス他)の2人が、アルバムの全面に参加。さらに前述のエル・ギンチョやファレル・ウィリアムス、ダフト・パンクのギ=マニュエル、ライアン・テダー、シャルロット・ゲンスブール、アンドリュー・ワイアットなどなど多数の才能が楽曲ごとに関わっている。リード・シングル“Berghain”には、以前から交流のあるビョークとイヴ・トゥモアがゲストで参加。トレンドとは一線を画す独自のアヴァン・ポップを開拓し続けてきたビョークとロザリアとの相似性を大いに感じるのは筆者だけではないだろう。
なお、ストリーミング版は15曲のみだが、フィジカル盤には全18曲を収録。このたびリリースされる日本盤CDには歌詞対訳も付けられているので、多言語が入り混じるリリックを追いながら鑑賞できるのが非常にありがたい。新谷洋子氏による詳細な解説も、より作品への理解を深めてくれるのではないかと思う。重厚かつ込み入った、心血が注ぎ込まれた作品でありながら、なぜだか肩肘張らずに素直にエキサイティングに聴かせてくれる。そして全編からは、フラメンコを踊るかのように背筋を伸ばしたロザリアが、こちらを一心に見つめているかのようでもある『LUX』。そんな金縛りのような強烈な魔力を感じつつも開放的なリスニング体験には、終始ときめかずにはいられない。
ロザリアが客演した作品を一部紹介。
左から、J・バルヴィンの2018年作『Vibras』(Universal Latino)、ジェイムズ・ブレイクの2019年作『Assume Form』(Polydor)、ジャックボーイズの2019年作『JACKBOYS』(Cactus Jack/Epic)
ロザリアが参加した作品を一部紹介。
左から、アルカの2020年作『KiCk i』(XL)、ベイビー・キームの2022年作『The Melodic Blue』(pgLang/Columbia)、ラウ・アレハンドロの2022年作『SATURNO』(Sony Latin)
『LUX』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、エル・グィンチョの2016年作『Hiperasia』(Everlasting)、エストレージャ・モレンテ&ラファエル・リケーニの2024年作『Estrella & Rafael』(Universal Spain)、ワンリパブリックのベスト盤『The Collection』(UMe)、ファレル・ウィリアムズの2024年のサントラ『Piece By Piece』(Columbia)、ヴェネチアン・スネアズの2005年作『Rossz Csillag Alatt Született』(Planet Mu)
『LUX』に客演したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ビョークの2022年作『Fossora』(One Little Independent)、イヴ・トゥモアの2023年作『Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)』(Warp)、カルミーニョの2025年作『Eu Vou Morrer De Amor Ou Resistir』(Sony Portugal)
