シューベルトのピアノ作品というのはある種、遠くに茫洋とかすむ黒々とした深い森のような、解き明かせない謎をはらんだ世界。特にソナタにおいて、最後の年に書かれた不滅の3曲と共に、この第16番と第17番の2曲の組み合わせには深遠の度が色濃く表れる。カッサールがピアニスティックに磨き上げた第16番もさることながら、シューベルト特有の歌謡性を伏流水のように潤沢に湛えた大作であることを実感させる第17番が素晴らしい。第2楽章で旋律を虚心に追えば、不思議な心地と共に不意に鮮やかな風景が広がる。どんどん音楽が簡素になっていく終楽章での仕舞い方は、まるで遠近法で消失点が消える趣だ。
フィリップ・カッサール(Philippe Cassard)『シューベルト:ソナタ&ワルツ集』黒々とした森のような謎をはらんだピアノ作品を深遠に奏でる
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