COLUMN

MYUNG WHUN CHUNG 『Piano』

安らぎと幸福感に満ちたチョン・ミョンフン初の〈ピアノ・アルバム〉

Myung Whun Chung(C)Jean-Francois Leclercq / ECM Records

 

 これまで、ありそうでなかったチョン・ミョンフンによるピアノ・ソロ・アルバム。チョン・ミョンフンは、1974年のチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で2位入賞(1位はガブリーロフ)し、ピアニストとしても活動、協奏曲やアンサンブルの録音は残していたが、ソロ・アルバムはなかった。このアルバムが実現したのは、ミョンフンの子息がECMに勤めていることがきっかけとなって、「2人の孫娘のためにアルバムを作る」というコンセプトで企画が進められた。収録されている作品も、チャイコフスキー・コンクールで演奏した《秋の歌》、長男の結婚式で演奏したシューベルトの即興曲変ト長調、ドビュッシーの《月の光》は「月」という意味の名前をもつ孫娘のためにと、いずれも彼の人生の大切な節目に取り上げられてきた作品を中心に選ばれている。その他にも、ベートーヴェンの《エリーゼのために》やモーツァルトの《キラキラ星変奏曲》といった名曲も聴け、ECMとしては極めて珍しい「ピアノ名曲集」としての性格の強いアルバムとなっている。

MYUNG WHUN CHUNG Piano ECM New Series/ユニバーサル(2014)

 演奏は、超絶技巧を凝らした難曲こそないものの、いずれも控えめな表現ながら、十分なファンタジーの広がりと多様性、多彩な表情を備えた一流の内容。チャイコフスキーの《秋の歌》やショパンの《夜想曲》で聴かせた耽美的な美しさは、《月の光》や《エリーゼのために》でも際立っている。シューマンの《トロイメライ》やシューベルトの《即興曲》では、理知的な設計でありながら、みずみずしい情感や生き生きとした表情も備わっている。また、《キラキラ星》での内省的な深まりは素晴らしい。

 録音は、極めてしなやかな響きで、一つひとつの音の肉付きよく、透明度が高いECMならではの美音が横溢している。

 直輸入盤国内仕様で日本語解説付き。チョン・ミョンフンのファンだけでなく、ピアノ愛好家にとっても必携の一枚。

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