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1. Noname “Song 33”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はノーネームの“Song 33”です。この曲を説明するためには、まずJ・コールが6月16日に発表した“Snow On Tha Bluff”の話題から始めなければいけませんね」

田中「J・コールが今年初めてリリースした楽曲である“Snow On Tha Bluff”は、ビートレスな楽曲の上でコールが矢継ぎ早にラップする曲で、苦悩や内省をとてもコンシャスに歌ったコールらしいものです。しかし、前半はある女性を批判するような内容で、これがノーネームのことなんじゃないか、と言われているわけですね。コールは批判を受けて、17日にTwitterで反応を示しました」

天野FNMNLが経緯を詳しくまとめています。仕事が早い! 僕はコールのファンですけど、今回の彼のやり方は全然よくなかったと思うんです。先日から大きなうねりとなっているブラック・ライヴズ・マター運動について、コールはまったく発信をしていませんでした。それ自体は構わないのですが、そのことを指摘したノーネームをやり玉に挙げるなんて。熱心にプロテストに関わっているノーネームの態度を〈女王様の口ぶり(the queen tone)〉と揶揄するのは、ちがうんじゃないかなと。実際、トーン・ポリシングではないかと批判されています。もちろん、リベラルの上から目線というのはずっと問題にされているわけですけど、ひさびさの曲がこういった内容で、しかもひさびさのTwitterでの発信が言い訳めいたものだったのには、ちょっとがっかりしてしまいました。だって、前半丸々〈she〉への言及ですからね。また、性差の問題も含まれていますし」

田中「うーん。僕はコールのこの曲、けっこう好きなんですけどね。正直な感じがしますし、あるイシューに対して〈誰もが何かを発しなければ、行動しなければいけない〉という風潮も、自分はちょっと怖いなと思っていたところだったんです。彼が問いかけているブラック・コミュニティー内の分断というのも、大きな問題ではないでしょうか。そんななかでノーネームがリリースしたのがこの“Song 33”。プロデューサーはあのマッドリブです。キックの音の抜けのよさ、グルーヴの気持ちよさは、さすがの仕上がりですね」

天野「ノーネームのラップは穏やかですが、内容はコールに宛てたとおぼしき、かなり痛烈なもの。〈ジョージ(・フロイド)が『息ができない』と母親に助けを求めていたとき/あなたは私についての曲を書こうと思っていたの?〉。本当に、彼女の言う通りだなと思いました。“Song 33”は次のようなラインで締めくくられます。〈私が新たな先駆者、最前線に立つ者になる(I’m the new vanguard)〉。めちゃくちゃ頼もしいですね。コールの〈僕のようなやつができるのはラップだけ〉という発言も正直なものだとは思いますが、ノーネームの覚悟を僕は信じたいです」