現代R&Bにおける唯一無二の王者がホームに帰ってきた。流行の還流や後進からの再評価も追い風にしながら、若ぶることなく、懐古にも浸らない、ブレない磐石の表現がここにある!

帰宅までの道のり

 今年でアルバム・デビューから30年の節目となるアッシャー。15歳だった少年も45歳の中年となり、Tiny Desk Concertでコーラスに招いたエリック・ベリンジャーやヴィドのような後輩を持つまでになった。が、人懐っこい笑顔と歌声は往時のままだ。昨年はラスヴェガスでのレジデンシー公演が100回目をもって終了。今年は去る2月11日にそのラスヴェガスで第58回スーパーボウルのハーフタイム・ショーに出演してスターの勇姿を見せつけ、すでに2児を儲けていたジェニファー・ゴイコエチェアとの結婚も報じられるなど話題は尽きない。

USHER 『COMING HOME』 mega/gamma./BIG NOTHING(2024)

 そんなタイミングで発表したのが、新作『COMING HOME』である。2018年にゼイトーヴェンとのコラボ作『A』を出したが、ソロ・アルバムは『Hard II Love』以来8年ぶり。とはいえ、慈善活動も含めてR&Bセレブリティとしての多忙な日々は続いていた。2019年以降も南アフリカのDJ、ブラック・コーヒーのアフロ・ハウス曲“LaLaLa”などに客演し、エラ・メイやタイガとの共演を含めた新曲を連発。そうした中、往時のヒットがサマー・ウォーカーやDVSNに引用され、リル・ジョンとリュダクリスとのクランク&B“Yeah!”もSNSでのバズを機に人気が再燃して、昨年はJ・バルヴィン“Dientes”にて本人を含めて〈引用〉されたことも記憶に新しい。新作を迎える準備は整っていた。

 直近では2チェインズ&リル・ウェインの“Transparency”でフックを歌っていたが、話題といえば、ミュージカル映画「The Color Purple」のインスパイア曲で新作にも収録されたH.E.R.との“Risk It All”だ。甘く危険だが得る価値のある愛について歌った美しいスロウ・バラード。これを含む映画サントラを配給した新興メディア、ガンマの傘下にアッシャーが初期の後見人LA・リードと設立したメガから自身初のインディペンデント作品としてリリースするのが今回のアルバムである。奇しくも今年はLAリード援護の大ヒット作『Confessions』から20年。ハーフタイム・ショーの演目も同作の曲が軸となっていたが、そもそも新作は、その続編としてスタートさせたものだ。結局その案は白紙に戻すも、『COMING HOME』では00年代的なノスタルジアを漂わせつつ、しかし懐古に浸らず、若ぶることもなく現代に着地している。