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音楽シーンとは関係なく良い曲を作ろうってだけ

――その一方で、タイトル曲の“告白”は〈betcover!!史上初めてのラブソング〉だと聞いてますけど、そうなんですか?

「そんなこともないんですよね。“告白”ってタイトルなんでラブソングということにしておいてもいいかなって」

『告白』収録曲“告白”

――この曲のミュージック・ビデオに登場したロボットのテツローは、今回ジャケットにも起用されていますよね。“異星人”(『中学生』収録)のMVや過去のライブにも登場していましたけど、どうしてそこまで思い入れがあるんですか?

「えー、かっこいいから(笑)。テツローには〈殺人〉と〈ダンス〉のスイッチが付いてるんですけど、その両極端なところもいいんですよね。でもこの間処分しちゃったんですよ。(MV撮影中の)ナパーム弾の爆風でやられちゃって……」

――突然悲しい話に。

「ロボットは、感情の範囲が不明瞭なところとか、表情とかがないぶん、人間よりも人間らしくて赤ちゃんみたいな感じとかがすごく好きですね。だから今回のアルバムに合ってるかなと思って。例えばロボットの従順さやストレートさが、『告白』っていうタイトルにマッチしてるなって感じがしたんです」

――ある種の不器用さの象徴というか。

「そうです」

――正直、ヤナセくんも器用なほうではないですよね。いまって若い子達にインタビューすると、みんな頭が良くていろんなこと考えてるなあと思う。でも、ヤナセくんはそういうのまったく考えてなさそう。

「みんな、頭良いんですよ。大学とか良いところ出てるし。僕、中卒ですからね(笑)。戦略とかプロデュースとか、そこまで考えられないです。ただ、そういうプロモーションができる人は、良い曲を書かないですから。どうしようもないクソみたいな曲を作って、自分をプロデュースするわけですよ」

――自分は良い曲を作ってるという自負がある?

「そもそもの心持ちが絶対違うから。音楽に対する心持ち。僕は音楽シーンがどうだからとかそういうのじゃなくてを良い曲を作ろうってだけなんです。だから負けないですよ」

 

今回はまず歌ありき

――曲を書くことへの強いこだわりは、1曲目の“NOBORU”に強く感じました。これは、昨年に起きたある事件がモチーフになったそうですね。具体的に明言したくないとは聞いていますが、ヤナセくんがその事件に受けた衝撃や心の動きを残しておきたかった?

「そうですね。でも、あの曲はわりと俯瞰してるかな。自分の気持ちを伝えるものでもないし、犠牲者の方への追悼でもないし……」

――むしろ、悲しくて不条理な事件が起きてしまう、いまの時代の空気みたいなものを残しておきたかったという感じ?

「わりとそっちかな。そういうことが起こるんだっていう。1人のいかれた人間、気が狂った奴に、どこで会うかなんてわからないじゃないですか。それ、どうしようもないっちゃどうしようもないし。そういう社会を意識して、そこに向けた歌って感じですね。それで作ってみて、アルバムの1曲目にしたいと思った。

『告白』収録曲“NOBORU”

そういう曲がアルバムの頭にあることで、ちゃんと筋を通したいなと。だから、今回は歌っていう軸があって、曲はどうでもいいとは言わないですけど、わりと後ろにあるかな。距離感の問題で、歌があって伴奏があるというイメージ」

――この曲のインスピレーション源となった曲を集めたプレイリストを作ってたじゃないですか。そこには佐野元春、尾崎豊とかが入っていて、なるほどと思いました。

「その辺の人たちを今回は強く意識したんですよ。佐野元春や尾崎豊のちゃんと歌っている感じを。できるだけキャッチーな言葉を使いたかった。AメロとかBとかはいつもの調子なんですけど、サビはとにかく真っ直ぐ。そうすることに迷いもあったけど、尾崎やRCサクセションに後押しされて、これでいこうと」

Spotifyプレイリスト〈NOBORU inspo〉

――その一方で、あのプレイリストにはデッド・ケネディーズやキリング・ジョークなんかも入っていましたよね。それもなんとなくわかる。

「ギターのサウンドとかね」

――ハードコアやインダストリアルに通じる、鋭くてゴリっとした響きというか。アルバムを作る上で、影響を受けた音楽はほかにありますか?

「曲を作っている段階で参考にしたのは、イタリアのピエロ・ピッチオーニやセルジュ・ゲンズブールとか。ヘンリー・マンシーニの『ピンク・パンサー』もそうですけど、あのへんがすごい好きで。僕、シチリア系って言ってるんですけど(笑)。ああいう音楽のメロディーやコード進行を参考にしながら、どうやって日本的な曲にするのかをめちゃくちゃ意識しましたね。

“告白”の間奏部分の〈ラーラー〉ってところはヘンリー・マンシーニをサンプリングした感じが残っている。一方で、ギターのサウンドはバットホール・サーファーズを意識していて。曲でいえば“失踪”とか」

――ああ、それは最高!

「ああいうギター・サウンドにしたのは、エンジニアさんの提案でした(笑)。前回だとギターはトーンを絞ってやっていたけど、今回もはフルトーンでジャキジャキの音にしている」

『告白』収録曲“疾走”