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喪失感がラヴァーズ・ロックに

――レゲエ熱を昇華したかった、というのは分かったのですが、なぜラヴァーズ・ロックだったんですか?

岩出「もともと山本精一とかサイケ・ロックが好きで、レゲエもずっと聴いてたんですけど、レゲエのダブはサイケに通ずるものとして聴いてて。その中でラヴァーズ・ロックも知っていくんですけど、ラヴァーズ・ロックってメロディーが綺麗でメロウじゃないですか。完全に山本精一と同じノリだと思って、僕の中にスルッと入ってきたんです。女性ヴォーカルでやろうと思っていたし、ある意味ではシティー・ポップにも近いし。レゲエの中ではルーツ・ロックよりかはラヴァーズ・ロック、ロックステディなぬるい感じが好きで」

小池「レゲエって、ジャマイカでは〈戦え〉とか〈起き上がれ〉みたいに人々を鼓舞したり反抗したりするためのプロテスト・ソングだったと思うんです。それがイギリスに渡った時に、故郷を離れた移民の歌として、メロウな愛の歌に進化したんですよね。それがラヴァーズ・ロック。僕らもさっき言ったように埜口君を亡くしたり、頑張っていたバンドを脱退したりして、ある種の喪失感というものを共有していて、故郷ではない別の場所で愛を歌うラヴァーズ・ロックという音楽形態がいちばんふさわしかったんだと思うんです」

――ラヴァーズとは言っても、その愛が恋人同士だけのラヴじゃないのがいいですね。その〈彼岸のラヴァーズ・ロック〉というテーマについて、もう少し詳しく教えてもらえますか。

岩出「意味わかんないですもんね(笑)」

小池「例えばいわゆるジャパレゲって、漠然としたイメージとして〈お前と結ばれたい〉とか〈親を大事にしろ〉とか〈こっち側〉のことばかり歌ってるじゃないですか。僕や岩出が好きな音楽はそういうものではなくて、例えばフィッシュマンズのように〈向こう側〉のことを歌っているもので。だからそういう音楽をやりたかったんです。でも安易にフィッシュマンズの後継バンドにはなりたくないし、どういう線を狙っていこうかって考えた時に、岩出が〈彼岸のラヴァーズ・ロック〉っていう言葉を打ち出してきて、みんな意思統一されたんです。……ごめん、違ってたら言ってね(笑)」

岩出「いやいや、そうだね。でもまだ〈彼岸のラヴァーズ・ロック〉には到達できてない感じはしてます」

――〈向こう側〉を歌う境地には至っていない。

岩出「まだまだですね」

 

僕たちの中には2つのものがあって、その片方の世界で生きている

――作詞作曲の役割は?

岩出「小池に曲を投げて、〈歌詞作って〉っていうことが多いですね」

小池「半分くらいは岩出君が作詞して、残りの半分は曲だけ出来てて僕が詞をつけて岩出が補うっていう感じですね」

――歌詞を書くときはどういうことを考えてるんですか? 例えば〈彼岸〉っぽいことを考えてるとか……。

岩出「彼岸っぽいことを考えてますね。1曲目(“永い昼”)とかは特に、埜口が生きてた頃の日常が続いてたら……みたいなことを、失恋ソングのように書いてみたり。全体的にそういうテーマで書いてます」

岩出「それと“あくびのうた”と“はっぱさんのうた”は小池の映画のために作った曲ですね」

小池「そうですね。大学の時に自主映画を作って、岩出君に曲を頼んで、詞は自分で書きました」

岩出「その頃からレゲエでね。小池の映画の曲は全部レゲエです」

小池「(笑)」

――小池さんはどういうことを考えて歌詞を書くんですか?

小池「後から振り返ってみて、の話ですけど、ぱるちゃんの声を通す、という前提があるから、自分語りじゃなくてもっと自由な気分で書けるんです。〈彼岸〉がテーマなので、意識と無意識とか、夢と起きてる時とか、生と死、晴れと雨みたいな歌詞になっちゃうことは多いですね。いま言った対称的な言葉って、つまり〈彼岸〉が立ち現れている瞬間で。僕たちの中には2つのものがあって、その片方の世界で生きている。……ってことにされがちだけど、もう片方の世界――〈彼岸〉も実際は常に並行して伸びている。だからそういうことを詞に落とし込もうと思ってます。岩出もそうだと思いますよ。いつも詞に〈夢〉が出てくるので」

岩出「〈夢〉と〈眠り〉ね。普段からよく寝てるからね(笑)」