僕たちの中には2つのものがあって、その片方の世界で生きている

――作詞作曲の役割は?

岩出「小池に曲を投げて、〈歌詞作って〉っていうことが多いですね」

小池「半分くらいは岩出君が作詞して、残りの半分は曲だけ出来てて僕が詞をつけて岩出が補うっていう感じですね」

――歌詞を書くときはどういうことを考えてるんですか? 例えば〈彼岸〉っぽいことを考えてるとか……。

岩出「彼岸っぽいことを考えてますね。1曲目(“永い昼”)とかは特に、埜口が生きてた頃の日常が続いてたら……みたいなことを、失恋ソングのように書いてみたり。全体的にそういうテーマで書いてます」

岩出「それと“あくびのうた”と“はっぱさんのうた”は小池の映画のために作った曲ですね」

小池「そうですね。大学の時に自主映画を作って、岩出君に曲を頼んで、詞は自分で書きました」

岩出「その頃からレゲエでね。小池の映画の曲は全部レゲエです」

小池「(笑)」

――小池さんはどういうことを考えて歌詞を書くんですか?

小池「後から振り返ってみて、の話ですけど、ぱるちゃんの声を通す、という前提があるから、自分語りじゃなくてもっと自由な気分で書けるんです。〈彼岸〉がテーマなので、意識と無意識とか、夢と起きてる時とか、生と死、晴れと雨みたいな歌詞になっちゃうことは多いですね。いま言った対称的な言葉って、つまり〈彼岸〉が立ち現れている瞬間で。僕たちの中には2つのものがあって、その片方の世界で生きている。……ってことにされがちだけど、もう片方の世界――〈彼岸〉も実際は常に並行して伸びている。だからそういうことを詞に落とし込もうと思ってます。岩出もそうだと思いますよ。いつも詞に〈夢〉が出てくるので」

岩出「〈夢〉と〈眠り〉ね。普段からよく寝てるからね(笑)」

 

きっと埜口がいる世界ではずっとレゲエが鳴っていて、そういう音楽をやりたいな

――デモCDより前、最初にSoundcloudでデモ音源を聴いた時に音像に衝撃を受けたんです。後で聞いた話だと、一度録音したデータをVHSに焼き直してたらしいですね。

岩出「VHSに焼いたり、データを一度アンプに通したり、そういうことをしてました。何かひとつ噛ませた感じとか、例えば80年代のCMの音質が劣化してる感じとかがすごく良くて、そういう感じにできないかなって」

――ヴェイパーウェイブ的なところとも繋がってくるんですかね?

岩出「そうですね。VHSってギリギリ見てた世代なんですけど、あの〈昔あったな~〉感。久しぶりに見て〈これじゃん〉っていう。郷愁というか……懐かしさともう消えた感じ。過去にあった未来とか、過去に最新だったものとか。そういうものが気付いたら消えてて、でも別のパラレル・ワールドではずっと残って存在しているような感覚があるんです。そういう感覚が、埜口がいる世界と自分の取り残された世界の関係性にマッチして。きっとその世界でずっとレゲエが鳴ってて、そういう音楽をやりたいなって思ったんです」

――なるほど。今作でもVHS化のような特別な処理は施しましたか?

岩出「今回もギターだけVHSに入れてみたり、テープレコーダーに入れたり、アナログのミキサーを使ったりしてみました」

――ダブだけでなくエコーやリヴァーブも大事にされていますよね。レコーディングは京大で行ったんですか?

岩出「そうです。京大の一室に馬場(友美)さんというエンジニアの方に来てもらって、ドラムス以外は全部ラインで、エフェクターあり/なしで録って」

――ポスト・プロダクションは?

岩出「僕がほぼ一人でやりました。ライン録りだったので後からいくらでもいじれるので、パソコンでエフェクトをかけたり」

――ドラムスは?

小池「後でダブの処理をするかもしれないというのと、リムショットを正確に録りたかったので、結構ドラムスにマイクを集中させて録りました」

――ライブではトリガーを効果的に使ってますよね。

小池「あれはライブで使うと〈なんだこれ!?〉って音を出せるんですけど、録音する時はズレるので今回で使ったのは少しだけですね」

――あともう一つ、僕が観たライブで衝撃だったのは、PA卓にわざわざダブ・マスターを呼んでエフェクトをかけてたことですね。

小池「シヴァさん(VERSION BROTHERS)というドレッドロックの方ですね。あの人があそこにいるだけでなんだか魔術がかった感じになりますよね、まず見た目的にも……」

岩出「ライブにおいてPA卓でダブ・エフェクトをかけてもらうっていう手法はレゲエの人がよくやっているんですが、自分たちでもやってみたくて。プレイヤーもエフェクターを踏んでいるので、あの時はドラムスだけやってもらいました。即興的なダブ・セッションももっとできたらと思います」

――インド人の方を呼んだり、ドレッドロックの方を呼んだり(笑)。その上でスネアからいろんな音は出るし、衝撃でしたよ。

岩出「(笑)。小池はレゲエ専門のドラマーなんですよね」

――それと今作にはテンテンコさんの“アロエ・ベラ”のカヴァーも収録されています。これは足立さんのEmerald Fourが作詞作曲を手掛けていて、これまでにライブでテンテンコさんと共演したり、ラブワンダーランド・ヴァージョンを披露したりしてきましたよね。

岩出「あの曲はテンテンコさんと共演するという時に足立さんが持って来てくれて、レゲエ・アレンジしてやってみたらすごくハマったんですよね。それ以来定番になったというか」

オリジナルのテンテンコ版“アロエ・ベラ”
 
テンテンコとラブワンダーランドが共演した際の“アロエ・ベラ”
 

ラブワンダーランド版“アロエ・ベラ”
 

――全体的に、熟しすぎて腐る直前のフルーツのドロッと溶けるような美しさがあると思っていて、特にこの曲はそれが顕著です。

岩出「そういう感じが出てるなら嬉しいですね」

 

いいズレ、いいヨレ

――CDのリリースはどうやって決まったんですか?

岩出「別のバンドの作品リリースの話をいただいたのですが、作業が進んでないとかいろいろな事情があって、でもこっちは結構やってたので〈こういうのもありますけど〉ってお話をして、やることになった感じです」

――ファースト・デモから急に躍進が。

岩出「ありがたいですね」

――岩出さんは本日休演もやっていて、ラブワンダーランドとの住み分けとか違いはどう考えているんですか?

岩出「今作を作った後で思ったのが、こっち(ラブワンダーランド)は録った後にがんがんエフェクトをかけたりVHSにしたり、レゲエ・マナーを突き詰めていきたいと思っているんです。ゴール……というかイデア的なものが明確に見えている感じで。一方で本日休演は3人で演奏している身体感……ぐじゃぐじゃな、ズレズレな演奏なんですけど、そこをもっと突き詰めたいんです」

――ズレズレ(笑)。でも分かります。僕はもともとBPMは遅いより早いほうがカッコいい、音程もリズムも正確なほうがいいって思ってたんですけど、岩出さんの音楽を聴いてそうじゃなくてもいいんだって思いました。

岩出「それは嬉しいですね。悪い意味でズレてたらダメなんですけど、そこがいちばん難しいところです。いいズレ、いいヨレ。実はレゲエも形式的にはスクエアなことをしてるんですけど、突き詰めればジャストじゃないんですよね。そこをどうズラすか、みたいな世界で。ジャマイカのバンドを聴いているとベースがドラムスに対してとても重かったり、それをズレって言葉で表したらいいのかはわかりませんが、どうレゲエのグルーヴを出すかということで、まだまだ全然そういうところまで到達できてないんです。ラブワンダーランドはBPMに対してどうズラすか、みたいなことをやっていますけど、一方の本日休演はBPM自体をぐじゃぐじゃにしていく、みたいな感じで。本日休演はズレに対する意識が強いですね」

――でも、〈こういうタイム感、どうやって習得したんだろう?〉って思いますよ。やっぱり世界中の音楽を聴いてるし、それにプラスして京大周辺のごった煮感とかもあるのかなって思います。こんなバンド、東京にはいないですもん。

岩出「流れがないから、自分で好きなものを煮詰めるしかないんじゃないですかね。東京はいろんな人がいて、その交流とか交換があるから洗練されていくけど。京都は風がないですから」

――コロナ禍で世界がいろいろと変わってしまいましたが、今後の活動予定などあれば教えてください。

岩出「状況的にもそうですけど、メンバーが多くてなかなか集まれないから、あんまりライブはしないんですよね。なので音源を作りつつ、配信ライブでもできればいいなとは思っています。でも、やっぱりもっと音源を作りたいですね。どう? 小池は」

小池「先のライブとかの予定はないし、メンバーとも久しく会ってないんですけど、逆にこの状況はおもしろいなと思っていて。会ったら会ったでセッションしたり、肉体的な方向へ向かったりすると思うんですけど、今は会えないからこそ音や映像をどんどん加工していくというか、それこそヴェイパーウェイヴみたいなことをやっていきたいなと思います。そういうのを元に配信をやってみるのもありだし。今回のアルバムには、自分たちがいまできることは全部詰め込みましたけど、いまこういう状況だからこそ次があるとしたらちょっと新しい要素が加わっていて、みなさんに驚いていただけるといいなと思っています」

岩出「VHS通したっていうのは良かったよね。ダブやディレイの音をもっと滲ませたり歪ませたりして、音の気持ちよさを追及するとか、そういう方向にももっと深めていきたいなと思いますね。もちろん曲もどんどん溜まってきているので」

――ありがとうございました。小池さんは今度、映像監督としてもMikikiに出てくださいね。

小池「ぜひ、よろしくお願いします!」