Page 2 / 3 1ページ目から読む

湘南の海の夕暮れ時をイメージしたインストからスタート

――夜遊びの現場で育まれた作品でもあるデビューアルバム『Shoko & The Akilla』について1曲ずつお話をうかがっていきたいんですけど、アルバムはAkillaくんのメロウなギター・インスト“Intro”で雰囲気たっぷりに始まりますね。

Shoko「アルバムにはインスト曲も入れたくて、私から〈海っぽい感じがいい〉というアイデアを伝えました」

Akilla「イメージしたのは、僕らがことあるごとに足を運ぶ地元、湘南の海の夕暮れ時ですね。例えば、活動するなかで、慣れないライブが増えて、気持ちが疲れた時とかに何をするわけでもなく海に行って、深呼吸したり、ぼーっとしたりするんです。付き合い始めの頃もよく海に行ってたし、初心に返るじゃないですけど、当時のことを思い出す意味で作った曲でもあります」

――2曲目のゆったりとたゆたうような“Earthy Smells”は、サイケデリック・ソウルやアシッド・フォークを思わせる牧歌的なサイケデリアが流れているように思いました。

Akilla「聴き始めたばかりのチカーノ・ソウルを自分たちなりに解釈して、初めて作ったオリジナル曲で、ずっとライブで歌ってきた曲なんです。その後、ライブで演奏するなかで曲がどんどんアップデートされていったんですけど、今回、バンドでレコーディングするにあたっては、2人の間でフレッド・ニールのアシッド・フォーク名盤『Other Side Of This Life』(71年)が盛り上がっていたこともあって、あのアルバムに感じられる牧歌的なサイケ感と曲名にあるようなアーシーな世界観をマッチングさせました」

――続く3曲目は、思い出野郎Aチームよりトランペットの高橋一さんを迎えた“Muriel”。7インチ・シングルで先行リリースされた楽曲にして、ロックステディの代表的アーティストであるアルトン(・エリス)&エディが1959年に発表したもののカヴァーです。

Shoko「“Muriel”は私がレコードで初めて買ったジャマイカの音楽なんです。アルトン・エリスは聴いていたんですけど、この曲の存在は知らなくて。大阪のDrum & Bass Recordsで見つけたんですけど、可愛いジャケットに惹かれて手に取ったLPに収録されていて、それ以来、大好きな曲になりました」

Akilla「今回アルバムを出す前にスロー・バラードの7インチを出したくて、デュエットで歌ってるこの曲がいいなって。当初、このアルバムは“Muriel”のようなシャッフルのスロー・バラードがいっぱい詰まった作品にしたいと考えたりもしたんですけど、さすがにクドいとShokoに止められました(笑)」

 

嘘でもいいから、いいことしか書かない歌

――4曲目の“日曜日の昼下がり”は、最小限のバンド・アレンジがアコースティック・スウィングにもリズム&ブルースにも聴こえるルーツ・ミュージック寄りの楽曲ですね。

Akilla「この曲はカリプソっぽい曲をやりたくて作った曲だったんですけど、今回のレコーディングにあたって、ジャグ・バンドが路上で演奏しているようなカラッとしたニュアンスを出したくて、ドラムはブラシのみ、ベースもエレクトリック・ベースをウッドベースっぽく弾いてもらいました。ライブではジャグ・バンドのマナーでウォッシュボードを入れて演奏してみたいですね」

Shoko「あと、メロディーもそうなんですけど、歌詞を考えるのもすごく楽しくて。こうなったら、ああなったらいいねって、2人で話していると止まらなくなっちゃうんですよ。想像の世界って、終わりがないというか、すごい幸せな時間なので、この先もずっと一緒に楽しいことができたらなって思いつつ、その気持ちを歌にしました」

――5曲目の“My Summer Love”は、60年代に活躍したR&Bグループ、ルビー&ザ・ロマンティックスのバラードが原曲のドリーミーなタッチはそのままにスローなスカに仕立て上げられていますね。

Shoko「最初はラジオで知って、そのあと家でヘビロテしていた曲なんです。そして、ある方から誕生日プレゼントに7インチをもらって以来、DJでもよくかける曲でもあって。調べてみたら、チカーノ・ソウルのレジェンド、サニー&ザ・サンライナーズやエイミー・ワインハウス、ヘプトーンズをはじめ、色んなアーティストがカヴァーしている“Our Day Will Come”も、ルビー&ザ・ロマンティックスがオリジナルであることを知って。特にエイミーのカヴァーは原曲とは違うスカのリズムが素晴らしかったので、そこからもヒントを得て、この曲もスカのリズムでアレンジしました」

――“My Summer Love”の夢見心地なムードはそのままに、6曲目のオリジナル曲“夢のような”はドゥーワップの名曲然としたオーセンティックなバラードです。

Akilla「この曲は全曲バラードのアルバムを構想していた時の名残ですね(笑)。コード進行はドゥーワップの定番で、まぁ、コーラスは入ってないんですけど、自分たちなりのドゥーワップをやろうとしました。嘘でもいいから、いいことしか書かない歌を作りたかったんです」

Shoko「作っていた時はチカーノ・ソウルの名作コンビレーション『East Side Story』をまさに聴いていたタイミングだったんですけど、私がどうしても惹かれてしまう、すっごく甘くて、ロマンチックな曲を作りたいという気持ちもありました」

Akilla「チカーノ・ソウル系のアルバムジャケットって、すごいイカついんですけど、中身は甘いソウル満載じゃないですか。そのギャップにまたやられるんですよね(笑)」

『East Side Story』を含め『Shoko & The Akilla』に影響を与えたレコード/CDを持ってきてもらった