インタビュー

ティグラン・ハマシアン(Tigran Hamasyan)、ジャンルを超えてアルメニア民謡の可能性を探求した新作『The Call Within』を語る

Photo credit:Elena Hamasyan

ジャンルを超えてアルメニア民謡の未来を拓く

 8月に通算10枚目のリーダー作となる『THE CALL WITHIN』を発表するアルメニア人のピアニスト/作曲家ティグラン・ハマシアンは、現代“ジャズ”の注目株と紹介されることが多い。10代になってすぐにバリー・ハリスの弟子に教えを受けた彼の音楽の土台にジャズがあるのはたしかで、ソロピアノ以外のアルバムの多くも、ジャズの伝統的なピアノトリオというフォーマットで録音されている。しかしながら、その楽曲には少年時代からその重要性を意識するようになったというアルメニアの民謡や宗教曲、高校で学んだクラシック音楽、さらにはハードロックやメタルなど、様々な音楽の要素が取り入れられており、彼の音楽を特定のジャンルで語ることにどの程度の意味があるのかが疑わしくなってくる。新作では、こうした彼の音楽性が、より深い意味を込めて表現されている。

TIGRAN HAMASYAN 『The Call Within』 Nonesuch(2020)

 「民謡というのはすでにそれだけで成立しているから、そこに手を加える必用はない。それを敢えてアレンジするなら、民謡やそこに込められた感覚というものを深く理解して、さらにその上で、アレンジの方向性を見極める必要があるんだ。可能性はいくらでもあるからね。民謡の上辺だけを利用して外側にただ何かをくっつけただけでは、ほんとうに〈アレンジした〉とは言えない。きちんとアレンジするためには、リズムもハーモニーもその民謡のメロディーから導き出されたものじゃなきゃならないんだ」

 ハマシアンによれば、ジャズと民謡にはインプロヴィゼイションから生まれるものという共通点があり、アレンジの作業もそこを出発点にできるとのことだが、このアルバムの曲はほとんどの部分が、クラシック音楽のように譜面に書かれたものだという。

 「僕が聴く音楽は、ジャズよりもクラシックのほうが多いと思う。コミタスやショスタコーヴィッチ、プロコフィエフ、ラヴェル、シュニトケ、リゲティといった作曲家には、大きな影響を受けているんだ。バンドのために作曲する音楽についても、それは変わらない。デモ音源を作る時にも、バンドで録音して完成した状態を正確に把握するために、ドラムのビートやベースのサウンドまで、かなり細かく作り込むんだ」

 幼い頃から父親にディープ・パープルやレッド・ツェッペリンなどの音楽を聴かせてもらっていたというハマシアンが、ロックやメタルの影響も強く受けていても不思議ではない。新作の『Vortex』にはインストゥルメンタル・メタル・バンド、アニマルズ・アズ・リーダーズのギタリストであるトーシン・アバシが参加している。

 「4~5年前に、彼らが僕の音楽のファンで、よく聴いてくれているという話を知って、彼らの前座として一緒にツアーしないかと誘われたこともあったんだ。それは残念ながら実現しなかったけれど、彼らとのつながりが出来るきっかけにはなっていた。この曲は18歳か19歳ぐらいの頃に作って、熟成するまでずっと温めていて、当時デモを作った時にも、キーボードでメタルっぽいギターのパートを弾いていたから、本番でもギターが必用だった。それで、トーシンに音源を送って、ギターを入れてもらったんだ。素晴らしい演奏をしてくれたと思うよ」

 近年のメタル・シーンには、アニマルズ・アズ・リーダーズばかりでなく、ペリフェリーや、このジャンルでは古株のメシュガーなど、クラシックの現代音楽にも通じるような複雑なリズムを取り入れているバンドが少なくない。

 「ああいう複雑なリズムは大好きだよ。アルメニアの民謡にも複雑なリズムのものがたくさんあるから、それに乗せてメタルやエレクトロニカなどのサウンドを取り入れるのは、ごく自然なことなんだ。僕はメタルやジャズやクラシックといった、あらゆる音楽の要素をアルメニア民謡と結びつけることができると考えている。もちろん、僕の曲の全てが民謡に影響されているとは限らないけれど、自分としては現代の民謡を作曲しているつもりでいるんだ。かなりややこしい曲かもしれないけれどね(笑)」

 


ティグラン・ハマシアン (Tigran Hamasyan)
1987年、アルメニア生まれのピアニスト。11歳頃からフェスやコンクールに出演。2003年にロサンゼルスへ移住し、2006年にセロニアス・モンク国際ジャズ・ピアノ・コンテストにて19歳で優勝を飾る。ジャズの範疇を超えた独特のサウンドと音世界は、日本のみならず、世界各国のファンを熱狂させている。

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