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Photo by Masayuki Shioda

目に見えるものだけが世界のすべてではない、違う現実があると知ること

――コロナ禍で音楽制作そのものに変化はありましたか?

「直接的な影響はあまりないと思いますけど、間接的には影響を受けていると思います。やっぱり作品を発表するとき、真っ先に頭の中にうっすらと浮かび上がるのは今言ったような小さな会場で会う人たちなんですよね。最初に聴いてもらいたいなと思う人たち。そういう人たちに今は会えないですからね。

あとは以前よりも成り行き任せなところが大きくなったなとは思います。というのも、今は半年先どころか一週間後の予定も立てられなかったりする状況なので」

――それはある種、慣れを回避して即興的に音楽を演奏することにも通ずる問題であるような気がします。

「そうですね。いかようにでも変えられるといいますか。新しいアルバムを作るにしても、事前にコンセプトを考えることはせず、成り行き任せにしようという部分が大きくなりましたね。

でもこれは良くない部分もあって。音楽制作がストップしちゃうといつまでもストップしちゃいますし、続けようと思えばいつまでも続けられてしまうので、どうしたら区切りを設けて1枚のアルバムのパッケージにまとめられるのかという問題がありますよね(笑)」

――近年は配信やダウンロードを通じて曲単位で音楽に接するリスナーも増えてきましたが、アルバムというパッケージで提示することにはどのような意義があると思いますか?

「もちろん人によるかもしれませんけど、配信だと残りにくくて聴いてもすぐに忘れてしまうところがあると感じています。やっぱり何かアルバムを作るということは、記録やアーカイヴとして未来に残るものになりますよね。

それとパッケージを作るという作業は、リリースするにあたっていろんな他者の手が介入します。完全に自分だけで配信リリースすると一人の世界で完結してしまいますけど、いろんな人の手を経由することで作品の強度が生まれてくるという部分があると思うんですよね」

――今回新たなパッケージとしてリリースされた『Vertigo KO』は、パンデミックに覆われた今の世界で、どのようにリスナーのもとに届いてほしいと思いますか?

「どうなんでしょう……でも一つはね、自分で見聞きする、目に見える世界だけが世界のすべてではないということは言っておきたいですね。

音楽を聴いたり本を読んだり絵を観たりすることは、違う現実があることを知るということですよね。そういうことをもしも聴いた人に感じてもらえたなら本望ですね。世界にはさまざまな現実がありますし、現実の捉え方もさまざまですし、やっぱり生き残るためには音楽とか映画とか本がすごく必要なんです、少なくとも私には。

今回のライナーノーツで書いた〈なんて酷い世界、でも生き残ろう〉という言葉は、そういうメッセージでもありますね」