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インテリ道を邁進してきたよぎさん

――よぎさん、お久しぶりです。今日は、よぎさんのこと、お店のこと、色々聞きたくて来ました。まずは自己紹介からお願いできますか?

「こんにちは。私のフルネームはプラニク・ヨゲンドラですが、みなさんには〈よぎ〉と呼ばれています。小さい頃から言語が得意で、中学でスペイン語、高校ではドイツ語をマスターしました。大学では別のこと、物理学や数学の分野を学びたいと考えていたんですが、たまたま履修の受付ブースで日本語に興味を持ち、それから在学中に奨学金で日本へ行ったりして、徐々に日本のことが好きになり、日本で勉強を続けたいなと思うようになりました。

大学の成績はトップで、日本語能力検定もトップ、弁論大会などでも全国大会に出ていました。日本語学生連盟を経て、その後教師もやってたんですけど、教師連盟でも二番手くらいのポストになって。そういう意味では、短い年月の中でも、インドにおける日本の分野で貢献できるところは全部やってきました」

――ここまでの話を聞くとよぎさんってかなりのインテリだと思うんですけど、もともと勉強熱心な教育をされるご家庭だったんですか?

「いや、そうでもないです。母は中学校中退。父は中学を卒業してそのまま工場に就職して、44年間勤務。バックグラウンド的に勉強ができたという基盤があったわけではなくて。ただ、やっぱり私の時代のインドというのは、成功するには勉強っていうのが一番重要でした。僕はちょうど94年に大学に入ったんですが、その当時のインドはまだまだ海外に行かなきゃとか、ITを学ばなきゃとか、そういう時代じゃないんですよ。まだすごく哲学的な、いわゆるインドという国でした。なので、〈勉強しなければ成功しない〉というのはちょっとありましたね」

――なるほど。そして、日本へやってくる。

「はい。90年代の後半に学生として、2001年から社会人として日本での生活が始まりました」

 

〈本当の家庭的なインド料理を提供したい〉という想いからレカを開店

――お店のメニュー表にもよぎさんの経歴を書いていますが、日本にきた当初はサラリーマンとして働いてたんですよね。それからどういう経緯でお店をスタートさせることになったんですか?

「ええ、インドで3年半、日本で9年間IT関連の企業で仕事をして、その後、日本の銀行に就職しました。日本で息子と二人暮らしをしていたのですが、母が面倒をみるために定期的にインドから日本に来てたんです。しかし、2012年ですね、インフルエンザが猛烈に流行った時期があり、私とうちの母もかかってしまって、当時10歳だった息子の食事を作れなくて悩んでいたんですよ。仕方なく500円玉とか渡しても、ジャンクなものを買って食べるし。その辺のくだらないインド料理店でナンとか買ってね、そういうのを食べるわけですよ」

――(苦笑)。

「インドに行ったことがあるならご存知かもしれないけど、実はインドではナンは全然ナンセンスなんです。相手にされないです。ナンの本場と言われている北インドでさえも、料理店の1%にしか置いていません」

――高級なものなんですか?

「全然! 非健康的なもので、逆に安っぽいです。ただお腹を満たすためのツールみたいなところがあります。だから葛西・西葛西にこれだけインド人が増えているのに、どうして彼らはナンなんかを売っているんだろう、インドでみんながいつも食べているものはどうしてないんだろうって思いました」

――2012年ごろには葛西・西葛西のインド人コミュニティーってすでにありましたよね?

「はい。震災前に西葛西だけで2000人くらい住んでましたね。それだけ当時からインド人がいたのに、インド雑貨を取り扱う店は2店舗しかない、料理はナンと、油の多いバターチキン・カレーの店しかないって感じだったんです。そこで、じゃあ私たちが家庭的なものを出そうかなって思ったんです。必要としてる人がいるでしょうって。8月にそれがあって、11月に会社設立、12月に店舗契約しました。そして翌年の2月にオープン」

――早い! スタートは西葛西の店舗で。

「ええ、2013年2月にオープンして、3月4月はあまりお客さんが来なかったですね。ただ、口コミなどでじわじわ知られるようになって、5月にテレビ番組の『月曜から夜更かし』に出たんです。マツコ・デラックスさんや番組スタッフの方がネットにあがっていたレビューを読んで、カレー特集のなかで取り上げてくれたんです。そのとき店を手伝う息子を見たマツコさんが〈お前、子ども店長じゃん〉って言ってくれて、うちの息子=子ども店長として名物になったんですね。そこからお店の知名度が上がっていきました」

調理場を仕切る「おかあさん」と、よぎさんの息子チンメイ君
かつて「子ども店長」と呼ばれたチンメイ君は現在18歳。イギリスの高校に留学中だ(現在はコロナで一時帰国中)。好きなミュージシャンはチェインスモーカーズ、ウィークエンド、コールドプレイなど