2020年に惜しまれながらも解散したシャムキャッツ。とはいえ彼らが運営していたレーベル、TETRAは活動を続けるようで、昨年12月には元シャムキャッツの藤村頼正、大塚智之を含む運営スタッフが、レーベルの今後の展望を語ってくれた。
その際にも同席していたTETRAのニューカマーであるシンガー・ソングライター、カワサキケイが新EP『天使のまねごと』をリリースした。アシッド・フォーク的な翳りのあるムードを基調としていた前アルバム『ゆらめき』(2020年)からメランコリアを引き継ぎつつも、今作では打ち込みのビートを効果的に使い、ダンサブルなシンセ・ポップを披露。早くも、カワサキケイの第2章のはじまりを印象づけている。今回のインタビューでは、変貌をとげた背景はもちろん、音楽家としての歩みもあらためて語ってもらった。
底抜けに明るくキラキラしていた80年代への憧憬
――単独でのインタビューは初なので、まずミュージシャンとしての背景を教えてほしいんですが、音楽を作りはじめたきっかけは?
「きっかけは、斉藤和義さんです。中学校1~2年のときに音楽番組をつけたら、斉藤さんが演奏していたんですよね。その頃の僕は、幼少期からずっと続けてきた野球を怪我でやめたタイミングで、特になにもしていない時期だったんです。斉藤さんの演奏を観たとき、一瞬で〈あ、僕も曲を作って歌いたいな〉と思ったんです」
――〈僕は音楽が好きかも〉ではなく、〈僕もやってみたい〉となったのがおもしろいですね。
「〈やりたい〉となったのは、自分の気持ちを人に知ってほしかったから、なのかもしれないですね。それこそ野球とかならプレイで(自分という存在を)証明できますけど、そういう手段がなくなってしまっていたので、〈自分の気持ちを伝えたい〉という思いがどんどん募っていってたんだと思います。まず歌詞とメロディーを考えて、携帯のボイスメモなどにギターと歌を録音していましたね」
――デジタル・ネイティヴ世代ならではの始め方ですね。斉藤和義をとっかかりに、他の音楽も熱心に聴きはじめたんですか?
「最初はローリング・ストーンズとかビートルズみたいな王道のロックを聴いていたんですけど、そのうちいわゆる〈ロック〉みたいなものが自分の声質とはあまり相性がよくないかもなと感じはじめたんです。〈僕はこういう風には歌えないな〉と思ってしまって、それで何となくしっくりこない感覚を抱いていました。斉藤和義さんも、ハスキーで男らしい声質じゃないですか。革ジャンが似合う感じ、というか。僕はそうじゃなかった。
それでちょっと落ち込んでいたんですけど、そんなある日、Galileo Galileiの『PORTAL』(2012年)のCMがTVから流れきたんです。それを初めて聴いたとき、〈ピコピコした音とかが入っていて、僕がいままで聴いてきたバンドとぜんぜん違う!〉と思ったんですよね。すぐにGalileo Galileiにハマって、そこから派生して海外のインディー・ロックなんかも聴くようになりました。インディー・ロック的なものに触れ〈僕もこういう感じだったらできるんじゃないか〉と、やっと自分にフィットするものに出会えた感覚になれたんです」
――今作の『天使のまねごと』も含め、カワサキさんの音楽はエレクトロニックな要素が結構入っていますよね。それにはGalileo Galileiからの影響も大きいんでしょうか?
「とっかかりは、そこだったと思います。その後いろいろな音楽を聴くようになってからも、感覚的にフィットして強く惹かれるのは、80年代の音楽や、電子的な音が入っているものが多いなと」
――80年代の電子音楽は近年、とりわけ再評価/発掘が進んでいますが、カワサキさんもお好きなんですね。
「80年代の音楽に共通する音色やそれによって醸し出される空気感が好きなのかも。FMシンセの音だったり、RolandのJUNO、YAMAHAのDXあたりのシンセの音が好きですね。それらがよく使われている、フランスのエルザ(Elsa)とかブラジルのMPB、あるいは日本のアイドル歌謡なんかもよく聴いています」
――80年代のポップスは、未来への楽観的なヴィジョンや当時の享楽的なムードが反映されているからなのか、キラキラしているものが多いですよね。98年生まれのカワサキさんが80年代の音楽のフィーリングに惹かれるのは、自分がそういう明るい時代を経験しなかったからなんですかね?
「それは大きいと思います。これまで生きてきてそういうムードを経験したことがないし、これから先も経験できるか怪しいので(笑)。80年代の底抜けに明るくて、どこか地から足が浮いているような感じへの憧れが強いのかもしれません」