(左から)ロイ-RöE-、The Anticipation Illicit Tsuboi

シンガー・ソングライター、ロイ-RöE-の新曲“少女B*”がリリースされた。今年に入ってからは“ラムのラブソング”や相対性理論“チャイナアドバイス”などのカヴァー曲がTikTokを起点に大きな話題となっていたロイ-RöE-だが、“少女B*”は、彼女にとって久しぶりの完全オリジナルの新曲。そしてこの曲は、2018年のメジャー・デビュー以降、片鱗を見せ続けていた彼女の音楽家、表現者としてのエゴイスティックな美意識や魅力がいかんなく発揮された強烈な1曲に仕上がっている。

冒頭から打ちつける獰猛なビート、女の欲望と生き様を断片的に、それゆえにダイレクトにぶつけてくるような歌詞、そしてカヴァー曲でも見せていた、様々な声や音が縦横無尽に飛び交う立体的で多声的なアレンジ――“少女B*”が響かせるのは、そんな頭の中の玩具箱を引っ繰り返して、それをそのままストリートの砂埃にまみれさせたような、無邪気で、猥雑で、それでいて気高く混沌とした音楽世界だ。

例えば諭吉佳作/menやましのみなど、文脈の路地裏にあるような、極めて個人的な温度感覚や時間感覚をポップソングとして保存する術に長けた女性のサウンド・クリエイター/SSWたちが近年、その才能を発揮していて、僕は個人的にそういう人たちにとても興味があるのだが、ロイ-RöE-もまた、そうした才能のひとりといえる。

そして、この“少女B*”でロイ-RöE-と共に共同プロデューサーを務めたのが、国内屈指のサウンド・エンジニア、The Anticipation Illicit Tsuboiだ。最近ではPUNPEEやKID FRESINO、Official髭男ism、長谷川白紙などの作品に関わり、若い世代のアーティストからも絶大な信頼を得る彼だが、ロイ-RöE-本人からの熱烈なオファーにより、この“少女B*”でのタッグが実現したのだという。

今回、Mikikiではそんなロイ-RoE-とTsuboiの対談を実施し、“少女B*”がどのように生まれたのか、その背景を語り合ってもらった。曲のことはもちろんだが、Tsuboiの見事な手引きによって、ロイ-RoE-という音楽家の本質まで浮き彫りになったテキストになっていると思う。では、〈テクニックよりもセンス〉なふたりの会話を楽しんでほしい。

ロイ-RöE- 『少女B*/チャイナアドバイス』 ワーナー(2020)