
リリックは抽象画
――先ほど言語の壁の話が出ましたけど、リリックはどうやって作ってますか?
内田「オケから作るんですけど、曲が出来上がったタイミングで電車の中で書いたりメモったりしていた言葉の中から、その曲に合いそうなものと、逆に合わなそうなものをチョイスして、足りないところを補っていく作り方をしてます」
――個人的に歌詞を読むのが好きなんですけど、結構理解するのが難しい歌詞ですよね。
内田「確かに独自の歌詞だと思いますね。曲によりますけど、例えば1行ずつ思ったことを書き連ねてみたり……あ、インフルエンザの時に書いたこともありました。非日常の時、いつもと違う場所にいたり、いつもと違う体験をしてる時に書くのが好きですね。旅行中のトイレでバーッと書いたり」
――それは言葉が降りてくるんですか? それとも見た景色を描写してるとか。
内田「いつも考え事はしてるんですけど、その中で〈これかな〉っていう言葉をささっとメモするんです。で、家で曲作りしてる時に、そのメモを元に隠喩してみたり、奥の方に隠してみたりして書いていくんです。だから自分が考えたストレートじゃない物事をさらに奥に隠すっていう作業をしてるので、文章としては訳分かんなくなっちゃってるかもしれないですね。でもそのやり方が面白いと思っていて、その隠すという行為があることによって、曲を聴く人によって伝わり方が違うんです。で、その人なりの解釈を聞きたいんです」
――それは最初に隠したものと違ってもいいんですか?
内田「もちろんです。それが楽しみ方だと思っていて」
関「リスナーそれぞれの受け取り方を聞きたいんだ」
内田「うん。俺、間違ったものがすごく好きで、文化の違いで間違ったものとかあるじゃないですか。インドのカレーがイギリスを経て日本にカレーライスとして来た、みたいな。ああいうのが好きで」
一同「(笑)」
内田「間違ってるけど結果的にいいとされてるものって、それ別に間違いじゃないもんね。カレーライスだって。だから自分の歌詞でもそういうことが起こるなら、それを聞きたいんです」
――ストレートじゃない考え事を隠して、重ねて、結果その出来上がったものは何になってるんでしょうね。
内田「何だろうな……でも抽象画みたいなアートにしていきたいっていうのはありますね」
――なるほど、抽象画。
内田「自分の中でもごちゃっとしたものにさせようっていう考えにしてますね。とは言え、曲によってはその手法自体も変えて分かりやすく書く時もあるんですけどね」
益田「怜央と話して面白いなと思ったのが、歌詞の中にわざと具体的な固有名詞を混ぜるんですよ。例えば今だったら〈スマホ〉とか〈iPhone〉とか。それが10年20年経って、その言葉を知らない人が出てくると、その固有名詞が時代の匂いとか感触を残すようになって、そこからディグる人がいるかもしれないし、そういうのを想像するのが楽しいって言うんですよね」
内田「〈作詞をしてみよう〉みたいな本で、〈今流行ってる言葉を書かない方がいいです〉とか書いてあったんだよね。何年後かに〈これ古!〉って思われるから。でもそれは違うなと思って。音楽も写真みたいに今しか言えない言葉があるじゃないですか。例えば今の歌詞で〈ポケベル〉なんて言えない。だから自分は今言えることを悔いの残らないように全部言った方がいいなと思ってるんですよね」
〈これまでに反発〉した新曲“HORN”
――そろそろ新曲の“HORN”についても訊かせてください。今の流れで言うと、この“HORN”のリリックにはどういうメッセージが隠されているんですか?
内田「この曲は現実逃避ソングですね。〈HORN〉っていうのはユニコーンのツノのことで、妄想とか幻想について一番アイコニックなものって何だろう?って考えた時に、ユニコーンが象徴なんじゃないかなって思って、そこからいろいろ膨らませていった感じです」
――ユニコーンって美しいとか、かわいいイメージがありますよね。
内田「そうなんですよ。でもユニコーンって一般的にはかわいいイメージですけど、宗教画だと怖く描かれることもあって、そういう二面性も空想と現実を表しているようでいいなって思ったんですよ」
――曲調もこれまでとガラッと変えてきましたよね。テンポは速めだけどあまりバウンスしてなくて。
関「そこは最初の段階から意識しましたね。今までリリースしてきた曲の中で一番BPMが速いし、でもその中でも身体が揺れるようなアプローチは残したいし、そこは制作するにあたってずっと考えていたことですね」
――この曲を配信リリースしようと思った理由は?
益田「一発ボカンと久しぶりに出すので、渋すぎるよりかは分かりやすくダンサブルなのがいいなと思ったんですよね」
関「あと、5月にリリースした『hub』っていうEPから見て、また新しいアプローチが出来たなっていうのもありますね」
内田「『hub』さ、結構暗いよね(笑)」
関「ドープにしすぎたね。こないだ聴いたら〈こんなに暗かったか〉って思ったもん」
一同「(笑)」
――なんでそうなったんですか?
関「作ってた時はそれがカッコいいと思ってたんだけど、鳴りも狭いし響きもデッドな感じで、音数も絞ったから改めて聴くとドープなんですよ。そういう意味では“HORN”もそこまで大きく変えてはいないんですけど、比べてみると曲調も明るめだし華やかな感じだね」
内田「だから曲を作る時は、〈今の持ち曲への反発〉みたいなところは出ますね。BPMもそうだし、伝わり方もちょっと明るくしようとか。〈ユニコーン〉っていうテーマも明るめだし」
――なるほど。じゃあ今後の曲はどうなっていきますか? 裏の裏は表、じゃないですけど。
関「また『hub』的なものに戻る(笑)?」
内田「今作に関しては分かりやすく〈これまでへの反発〉だったんですけど、〈こういう曲が多いからもうちょい違ったアレンジにしてみる?〉みたいな感じで、尽きるまでやるしかないなって感じです」
益田「でもさ、万策尽きるっていうことはまあないよね」
関「一個楽器を変えるだけでも雰囲気は変わりますし」
――メンバーからのインプットもたくさんあるし。
内田「そうですね。それにネタが尽きたらノイズだけの曲をやるかもしれないです」
一同「(爆笑)」
関「〈うわ、Kroi尽きた!〉って言われるよ」
内田「それかプロデュース業を始めるか(笑)」
千葉「そのちょくちょく出るプロデュースの話、何なん(笑)?」
――でも、打ち込みの曲中心になるバンドとかもいますしね。
内田「そうそう。俺らは打ち込みも取り入れてるので、それはバンドに挫折してるとかじゃなく一つの手法としてやっていきたいですね」

〈音楽界のディズニーランド、Kroiです〉
――今コロナ禍というのもありなかなかライブができない状況ですが、Kroiはこれからどうやって大きくなっていこうと思っていますか?
関「〈withコロナ〉という世の中になった以上、そういうやり方で盛り上がっていく風潮が出来上がりつつあるなと思っていて。それこそ配信サービスとか、アーティスト自身が曲やMVを発信していく手段も増えているので、そこは工夫次第でいくらでもきっかけをつかめるんじゃないかなと思ってはいます。その中でも人とは違ったアプローチもしていきたいですけど」
――もちろんライブもやりつつですよね。
関「そうですね。もともとめちゃくちゃライブをやってたバンドなので、向こう1~2年は本数も減るとは思いますけど、でもそれをマイナスには感じていなくて。本物のエンターテイナーってライブしていなくてもお客さんを楽しませられるものだと思うので、そういうところを目指していきたいです。もちろん本数は減ってもライブは非日常を求めてお客さんが来る場所だと思うので、コロナに圧迫された世の中から逸脱できるように楽しめる場所を作っていきたいと思ってます」
内田「ディズニーだね」
関「そうだね。音楽界のディズニーランドだね(笑)」
内田「〈音楽界のディズニーランド、Kroiです〉。くっさ!」
一同「(爆笑)」
――またすぐに会えそうな気がするので、次会う時にまでひとつ宿題を出してもいいですか? さっき〈Kroiはジャンルを定めたくない〉と言っていて、それもよく分かるし、一方で〈俺らを聴いて70'sのブラック・ミュージックまでさかのぼってほしい〉とも言っていて、それもよく分かるんです。じゃあKroiを形成してる音楽って何なのかな?って思ったので、次回は〈Kroiを形成するアルバム10枚〉を教えてもらえたいなと思ってます。
内田「Kroiで10枚か。一人10枚にしたいな。頑張ろう」
益田「それを聴けばKroiのエッセンスが分かるようなやつね」
――それを煮詰めて抽出したのがKroiだよっていう。選んだ理由も考えておいてください。
一同「分かりました!」
――よろしくお願いします。