映画「アウェイデイズ」79年イギリス、フットボール・カジュアルズの青春を痛みとともに描く

2020.10.20

フットボール・カジュアルズ=地元チームの試合を観に、毎週末サッカー(ここでは英国マナーでフットボールと呼ぼう)スタジアムへと足を運ぶ、スポーツウェアを纏った労働者階級の若者たち。相手チーム・サポーターとの乱闘騒ぎや競技場内外で暴力沙汰を起こしてきた悪名からフーリガンと同一視されがちだが、フーリガンが主にユニフォームなどチームウェアを好んで着ているのに対し、カジュアルズの服装はアディダスのナイロンジャケットやフレッドペリーのポロシャツなど普段着に近い格好。そのオリジンには諸説あるようだが、70年代終盤、警察に怪しまれないような出立ちをすることで、当時厳戒態勢にあったスタジアムへと入りやすくすることが、狙いのひとつにあったと言われている。

2009年に本国イギリスで公開された映画「アウェイデイズ」は、カジュアルズ発祥の地と名高いリヴァプールに隣接する港町バーケンヘッドを舞台に、70年代の終わり頃、黎明期の彼らの姿を描いたものだ。物語は、主人公の少年2人がスタジアムで出会うところからはじまる。場末の競馬場のような鈍い色合いのスタンドは、栄華を極める現在のプレミアリーグを知るものにとってはなかなか衝撃的である。とはいえ〈フットボール/サッカー映画〉を目当てに「アウェイデイズ」を観に行くと、いささか肩透かしをくらうかもしれない。なぜなら本作には、試合の模様や勝敗が分かつサポーターの一喜一憂などはいっさい描かれないのだ。

主人公が構成員となるカジュアルズは、地元のチームが他の町すなわちアウェイで試合をするたび、電車に乗りこみ開催地へと向かうが、彼らがスタジアムに入り、試合を観戦したかどうかはわからない。やることと言えば相手チームのカジュアルズとの喧嘩ばかりで(ナイフを使った暴力描写はなかなかに凄惨だ)、もはやフットボールに対しての関心など、ほとんどないようにすら見える。そもそも、主人公が応援しているチームが、リヴァプールなのかエヴァートンなのか、あるいはそれ以外のチームなのかも、映画内ではいっさい明示されないのだ。

ちなみに本作で描かれている79年は、イギリス人にとってマーガレット・サッチャーが首相に就任した年として記憶されている。ここで彼女の功罪については触れないが、サッチャーの新自由主義的な切り捨て政策は、労働者階級がそれまで育んできた生活様式や文化を破壊した。彼らの最後に残された拠り所、娯楽やストレス発散の場がフットボールだったことは記憶にとどめておいてもいい。

この映画は、フットボールはあくまで発端として、イギリス特有の〈族〉文化におけるひとつの局面を切り取った作品と捉えるべきだろう。テディボーイ、モッズ、スキンヘッズ、レイヴァー……かの地の若者たちは社会状況やトレンドの変遷ごとに新たなライフスタイルとファッションを作り出し、共通のコードを身につけることによって党派性を担保してきた。その歴史はジョン・サベージ著「イギリス『族』物語」に詳しいが、カジュアルズ〜フーリガンについてより深く知りたいのであれば、アメリカ人ジャーナリストのビル・ビュフォードがその渦中に飛び込んで書いたドキュメント「フーリガン戦記」を読むとよい。

さて、ここまで映画の土台となるカジュアルズの説明に文字を費やしてしまったが、実際にストーリーをドライヴさせていくのは、主人公2人の関係性の変遷だ。アートスクール出身ながら将来への目標も持たず空虚に生きているカーティと、カジュアルズの一員ながらもマッチョイズムには辟易し、芸術や生の意味を思索しているエルヴィス。彼らのホモソーシャルな愛憎劇は、ヒリヒリするほどに切ない。特にカーティへの執着のあまり精神を崩していくエルヴィスの悲哀には胸が痛むほど。その意味で観賞後の味わいは、「ソーシャルネットワーク」や「裏切りのサーカス」といった映画とも近いように思う。

曇り空の風景に寒々しく鳴り響くのは、ジョイ・ディヴィジョンやウルトラヴォックス、マガジンらポストパンク〜ニューウェィヴ期に活躍したバンドのサウンド。なお、カーティとエルヴィスはエコー&ザ・バニーメンのライブで初めて交流するのだが、ここでイアン・マッカロク役を演じているのはなんと国民的シンガーになる前のマイルズ・ケイン(元ラスカルズ/ラスト・シャドウ・パペッツ)。というわけでUKロック・リスナーにも言わずもがなおすすめの一本である。


FILM INFORMATION
アウェイデイズ

監督:パット・ホールデン
製作:デビッド・A・ヒューズ 製作総指揮:ケビン・サンプソン/ハワード・クライン
脚本:ケビン・サンプソン
出演:ニッキー・ベル/リアム・ボイル/オリヴァー・リー/スティーブン・グレアム/ホリデイ・グレインジャー
配給:SPACE SHOWER FILMS

オフィシャルサイト:https://awaydays-film.com/
Twitter:https://twitter.com/awaydays_film

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