コラム

ネイト・マーセロー(Nate Mercereau)『Joy Techniques』LAシーンの真打ち登場か? ギター・シンセを駆使したサイケで多層的な音世界

©Alexander Gay

ギター・シンセ、GR-300を駆使したサイケデリックで予測外のサウンド

 満を持してのファースト・アルバム。あるいは真打ち登場と言うべきか。LAを拠点とするプロデューサー/ソングライター/マルチ・インストゥルメンタリスト、ネイト・マーセローの『Joy Techniques』には、そんな形容が相応しいだろう。実際ここ数年、名演/名盤の影にはかなりの確率で彼のクレジットが記されていた。ジェイ・Z、ライ、ショーン・メンデス、レオン・ブリッジズ、ライ、ザ・ウィークエンドらのアルバムに参加し、今年のグラミー賞で3部門を受賞したリゾの『Cuz I Love You』で3曲をプロデュース/共同作曲を手掛けたのも記憶に新しいところだ。

NATE MERCEREAU 『Joy Techniques』 How So/BEAT(2020)

 ギターやピアノを中心に、ベース、ドラム、フレンチホルン、モーグ、チェレスタ等々を演奏してきた彼だが、本作ではローランドのギター・シンセサイザー、GR-300を使用。これはギターとシンセサイザーの中間のような音色の楽器で、かつてパット・メセニーが用いたことでも知られる。そのサイケデリックでカラフルな音響は、聴く者の脳髄をダイレクトに刺激し、アルバムに多層性を与えている。更に、人力ドラムンベースの上でテラス・マーティンがサックスを吹くアルバム・タイトル曲など、キャッチーな曲が挿まれるのもいい。

 なお、GR-300は弦に触れた時の速度や強弱が不明瞭で、弦に触れてから音が出るまでにかなり遅れがある。決して使いやすいとは言えない楽器なのだが、マーセローはその不完全さを逆手にとり、予想外で想定外のサウンドを創出した。つまり、すべての音を隅々まで制御しようとせず、遊びや余白をあえて残すことで、リスナーは勿論、マーセローも思いつかなかった音を生み出したのだ。しかも、即興を中心に曲を作り上げていった為、ますます自由度が高く、縛りのないアルバムに結実している印象だ。

 ファーストにして傑作をものにしたマーセローだが、彼は多楽器奏者であり、引き出しの多さでは群を抜いている。今後さらに自由で予測外の作品を届けてくれるのは間違いないだろう。

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