「ファースト・アルバムの時は60年代風のR&Bを通じて自分のストーリーを伝えたいという気持ちがあった。でも次のアルバムへ向かうにあたって、アーティストとしての僕自身を引き続き反映させながらプログレッシヴなものを作りたいと思ったんだ。そういうインスピレーションのもと、制作に入ったんだよ。それに、より多種多様なオーディエンスを獲得したいとも思ったしね。自分は〈60年代風〉だけじゃないんだっていうのを見せたかった」。

 サム・クックやオーティス・レディングを想起させるトラディショナルなソウル・ミュージックの歌唱スタイルを引っ提げて登場したリオン・ブリッジズ。その作法をアコースティックな意匠で飾ったファースト・アルバム『Coming Home』(2015年)は、全米6位というコマーシャルな成果と、結果的にグラミーにノミネートされるほどの高評価(そもそもグラミー好みな作風なのだろうが……)を得て、彼の存在を一気に世界的なものとした。カウンター的なトレンドとしてのレトロな〈ソウル回帰〉現象は、大昔からR&Bの進化過程において周期的に繰り返されてきた動きではあるわけで、例えばラファエル・サディークからアンソニー・ハミルトン、リッキー・ファンテ、メイヤー・ホーソーンに至るまでの名前もさまざまに思い出されるところだが、リオンの朴訥とした歌い口と、カントリーやフォークに通じる簡素なプロダクションは、そうした面々のリスナーとは異なる層にも極めて新鮮に馴染んだのだろう。

 とはいえ、80年代末に生まれたリオンのポテンシャルが固有のモードの現代的な復元に留まらないのは、その間に経験したオデッザらとのコラボからも窺えた通り。その自由な創作欲は今回のセカンド・アルバム『Good Thing』にも直結している。

LEON BRIDGES Good Thing Columbia/ソニー(2018)

 「前作でみんなが気に入ってくれた要素を受け継ぎながら前進したいという気持ちがあった。このアルバムが僕にとっての表現の自由への扉を開いてくれることを願っているよ」。

 ジャジーな新機軸の先行カット“Bad Bad News”からも予想できたことながら、アレンジの振り幅に起因する作品全体の豊かな彩りは前作からの大きな変化だろう。「自分が大好きな、さまざまな形のR&Bを表現している」という今作の挑戦とプログレスを後押ししたのは、総監督も務めるリッキー・リード(ウォールペーパー)と、ほぼ全曲を共作したギタリストのネイト・マーセローだ。両名はルーツ色を濃くしたケシャの復活作『Rainbow』でも顔を揃えていたが、特にリッキーはメーガン・トレイナーやホールジーらの近作をヒットに導いた旬の敏腕プロデューサー。ネイトもシーラEやラファエル・サディークのバンドで演奏しながらカントリー作法のソロ作も残すなど、当世流な折衷性の持ち主である。さらにクレジットを分け合うのは、前作の核だったオースティン・ジェンキンス&ジョシュア・ブロックはもちろん、ヴェテランのウェイン・ヘクターやダン・ウィルソン、テディ・ガイガーら多くのポップ・ヒットに関わってきた職業作家たち。積極的な初顔合わせも交えたコライトの取り組みが、主役を新たな歌世界へと導いている。

 「今回はファーストとは違うアプローチを取ったんだ。前作は手助けしてくれる人が誰もいない状態で曲を書いてたんだけど、今回は初めて他のライターたちと共作したんだよ。素晴らしいプロセスだった。僕とバンドのメンバーたちでアイデアをやり取りして作ったんだ」。

 そんなわけで、カーティス・メイフィールドのスウィートな名曲“The Makings Of You”を引用した“Bet Ain't Worth The Hand”でのエレガントな幕開けから、洗練味を増した麗しい歌声が堪能できる。なかでもウィスパーズ“It's A Love Thing”をネタ使いした“If It Feels Good(Then It Must Be)”と、それに続くグルーヴィーな“You Don't Know”というディスコ/ブギーの上品な連弾は、従来の60sライクなリオンのイメージを軽やかに引っくり返すに違いない。美しいファルセットを印象的に併用した全体の構成によって、前作譲りのディープな楽曲も結果的に際立っている。その渋みの真骨頂となるラストの“Georgia To Texas”は、母親と自分自身の人生を歌ったもので、リオン本人もとりわけ気に入っている曲のようだ。

 「今回は全体的にコラボ曲が多いけれど、この曲はLAでセッションを行う前に地元のフォートワースで書いたんだ。アレンジもとても気に入っているし、(バンドの)アラバマやジョン・コルトレーンに近い雰囲気もあると思う。それに、他の曲は洗練された感じだけど、この曲はかなり粗削りで、そこが僕にとってはスペシャルなんだ。僕自身のストーリーでもあるしね」。

 古典の生まれた時代から自身の過去、そして現在と未来を同一線上で繋ぎ、伝統を背負いつつ新たな領域を開拓する傑作となった『Good Things』。その足取りが確かな限り、彼のストーリーはさらに魅力的な姿で更新されていくに違いない。

 


リオン・ブリッジズ
89年生まれ、テキサス州フォートワース出身のソウル・シンガー。グリルで働きながら曲を書き、オープンマイク・イヴェントなどで歌を披露するなかで、オースティン・ジェンキンス、ジョシュア・ブロックと出会い、彼らと楽曲制作を始める。Soundcloudで公開した“Coming Home”が話題を呼び、2014年にコロムビアと契約。2015年のファースト・アルバム『Coming Home』がヒットを記録し、翌年のグラミー賞で〈最優秀R&Bアルバム〉部門にノミネートされる。2016年には〈フジロック〉で初来日も果たし、並行してマックルモア&ライアン・ルイスやレクレー、オデッザらとのコラボを経験。このたびセカンド・アルバム『Good Thing』(Columbia/ソニー)をリリースしたばかり。